激突の⑮

「理由だと?」

 アヴェルは、その一言で一気に酔いがさめたらしく、眉間にしわを寄せて口ごもった。

 女官たちも、そのアヴェルの様子の変化に反応し、酒を注ぎ入れるのを止めた。

「ああ、ゲネックのおやっさんは、あれでも理想主義者みてえなところがあってな。確かにお前さんのように幸福で豊かな世の中を作るだとかなんとかみてえなことは口にしたりはしちゃあいなかったが、俺のようなはぐれ者には滅法面倒見が良かった」

「ああ、それは承知している。親父殿のそういうところは、御爺様譲りだったからな」

「それなら今の話が分かるはずだ。アヴェルよう、ゲネックのおやっさんは言葉にせずともお前さんにやって欲しいことがあったんじゃねえのかい?」

 アヴェル・アルサンダールは、うむと一言頷くとそのまま黙ってしまった。

 正太郎はどんどん酔いが回ったせいで、とうとう意識が制御できなくなってきた。彼は、女官たちにもつれるようにもたれかかるのが精一杯だった。

「ならば問おう、羽間正太郎。私、アヴェル・アルサンダールがブラフマデージャを代表する黄金の円月輪の首領として。そしてブラフマデージャの初代大統領として。我々はこの世界を一手に支配しようとするペルゼデール・オークション軍と徹底抗戦を構える用意がある。その時は我々と共に戦ってくれる意思があるかないかだけハッキリ聞かせてもらいたい」

 アヴェル・アルサンダールは、いきなりその場に立ち上がると、鼻息も荒くその言葉を言い切った。だが、

「よう、アヴェル。俺は……」

 正太郎はそこまで言葉を吐いたが、意識が飛んでその場にぶっ倒れた。

 アヴェルを始めとした要人と、数人の女官は彼の倒れ込んだ姿を確認すると、いそいそと奥まった部屋に連れ込んでしまった。



 正太郎が目を覚ました時には、ベッドの横に一人の女官の姿があった。無論、彼らは裸のままもつれ合った格好で重なり合っていた。

「やっとお目覚めですね? 正太郎様」

 耳元で囁くその声は、どこかに艶やかさがあり、どこかに気品が含まれている。

「キミは、どこのどちらさんだったっけ?」

 二人はまだ重なり合ったままで、よく顔を見合わせてはいないが、確かにこの声と雰囲気に覚えがある。

 細身の褐色の艶やかな肌に、張りのある果実のような乳房の膨らみ。漆を流したような長い黒髪が、くびれた腰の辺りにまとわりつくと、より一層彼女の妖艶さが際立つようである。

 おまけに彼女が呼吸をするたび、まるで何かの果実が匂い立つようなこの感覚。

「もうお忘れになってしまったのですか? 昨夜はあれ程までに可愛がってくださったのに……」



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