輝石学園マネージャー科 12
☆
ベランダで野ざらしになっている洗濯機から衣服を取り出す。
物干しハンガーのハサミの部分にリズムよくそれを干していく。
今日は冬にしては暖かいな。俺は眩しそうに太陽を見上げた。
室内から聞こえてくる天気キャスターの声が耳に入ってくる。少し早い春の陽気が到来しているらしい。
『輝石学園生』のライブを見終えた後は神谷さんに家まで送ってもらった。
そして、お母と相談するから待って欲しいと伝えた。前向きには検討しているしお母も納得させることを告げると神谷さんは了解したと帰っていった。
ただマネージャー科の後期試験の日程が近いらしい。なので早めに保護者に報告して受験するように神谷さんに言われる。
受験か。まさかする日が来るとはな。俺は昨日のうちに棚に飾ったバスケットシューズを眺めた。いつかいい思い出になるといいな。
てか、俺って学力が結構低いけど大丈夫なのか。あの時は勢いで神谷さんの話に乗ってしまったが試験の段階で
俺は室内に入ると病院に行く準備を始めた。今日は学校も休みで昼からお母の病院に行く予定だ。
きっとお母に高校を受験をするなんて言ったらたまげるだろうな。しかも私立でマネージャー科ときた。
んで、昨日あったことを説明したら夢を見んなって切れられるオチが見える。いや、優しく微笑んでくれるかもしれない。
とにかくお母の反応が見たくて俺は
すると、黒塗りの特徴的なライトの形をした普通の軽自動車よりも小さな車がアパートの目の前に止まっている。
俺がアパートの階段を降りるのと同時にクラクションを短く鳴らすと車から人が降りてくる。
安っぽい
「……なにやってるんすか」
「はっはっは、どう? 似合うだろう?」
俺は呆れて半目で睨んでみる。俺の眼前にいるのは神谷さんだった。昨日とは車が違うからすぐにはわからなかった。
ただこの顔にこの声は間違いなく神谷さん本人だった。
どうしてこの人はこんな趣味の悪い格好をしているのか。昨日の服装はしっかりとした感じだったのに。
「なんて恥ずかしい格好してるんですか」
「いやいや、着こなしてるだろう?」
「売れない芸人さんの衣装みたいっすよ」
「ははは、そうかもね。これ、激安の殿堂で一式三千円で買えちゃったものだから」
あのペンギンが帽子被っているキャラクターのお店か。
なぜこんなもののためにお金を払うのか理解ができない。三千円あれば下着が何着買えると思っているんだ。金持ちの金銭感覚は理解に苦しむ。
「それで……なんでここに来たんですか?」
「君の母親に挨拶しようと思ってね。今日、会いにいくんだろう?」
「その格好で人の親に会おうとしてるんですか!?」
「冗談だよ冗談。さすがにこんな見た目をした人間に息子さんを任せられないだろう」
神谷さんは車からベージュのスーツを取り出すと、着替え場所を貸してほしいと言い始めた。
なんて自由な人なんだよ。断る理由はないから別にいいんだけどさ。
俺は渋々自宅に招き入れて神谷さんが着替えるのを待った。
神谷さんは着替えながらついでに本日の
事務所や学園については自分から説明したほうが早い。それに話が突拍子もなさすぎて信じてもらえない可能性があるので一緒にいたほうがいい。ということだった。
「まぁ、後は君の将来を預かるだ。しっかりと挨拶をしないとね」
神谷さんは着替え終わる。
ベージュのスーツがここまで似合う日本人もなかなかいないだろう。なんかイタリアとかにいそうな感じだ。
スーツが似合う男か。俺もいつしかなってみたいものだ。今はまだ制服しか着たことがない。自分が着たイメージすら沸かなかった。
俺がまじまじ見ていると、それに気づいた神谷さんが自分の服を何度か確認した。
「ははは、中学生には珍しいよね。でも、君も来年からこれを着るんだ」
「制服じゃないんですか?」
「学校ではね。ただうちで就労する時間ではスーツになってもらうよ」
「う……それはまたお金がかかりそうっすね……」
「そこは安心してくれたまえ。会社に用意させるからね」
そこまでしてもらえるのか。それは素直にありがたい。スーツなんて高価なものを買う余裕はうちにはない。
「それじゃ、行こうか」
神谷さんの車に揺られること数十分。昨日とは打って変わって地面が近くなった景色を見ながらお母の病院に着いた。
この病院は数年前に完成したばかりでどの設備も真新しい。
近くには乗馬クラブがあり、辺は緑と住宅が多くとてものどかだ。
野球場のグラウンドよりも広い駐車場は半分ほど埋まっている。休日だし見舞い客が多いのだろう。俺もその例に漏れない。
俺と神谷さんはお母の病室を目指し、正面玄関の自動ドアを潜った。
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