朝日山神社奇譚−付喪神物語−

瑞代あや

序・付喪神神社

 むか~しむかしあるところに

 付喪神神社と呼ばれる神社があったそうじゃ


 なになに

 付喪神を祀っているのかって?

 いやいやまさか(老爺は肩を揺らして笑う)


 その神社は山神様を祀る由緒ある神社での

 神社の名前も山の名をとって――


 そうそう

 確か朝日山神社という名前で山の麓辺りにあったそうじゃ


 ある時

 時の神主様が骨董に大変はまってしまったらしくてのぅ

 日本のあちこちからこれはという骨董品を神社に集めていたそうじゃ

 それを聞いた村人や立ち寄った旅人たちは


「あそこの神社は怪しい器物を預かってくれるらしい」


「あそこの神社は呪いの人形を供養してくれるらしい」


 なぁんて尾ひれをつけながら口々に噂をしてのぉ

 その噂を聞きつけた人々が


 やれこれを預かってくれ


 やれこれを供養してくれ


 なんて送ってくるようになったものだから

 日本全国から色々とまあ怪しげな物が神社に届くようになった


 神主様もそれを断りもせずに受け取って供養をするものだから

 どんどん物が増えていく


 それだけでなくての

 いつからか


「神社で怪しい影を見るようになった」


「神社で誰も居ないのに誰かの話し声がした」


 なぁんて口の端に上るようになってのぉ

 人々は皆一様に


「神社に集まった器物が付喪神に化けたらしい」


 なぁんて言いあったそうじゃ


 それでの

 いつしかこの神社は

 付喪神神社と呼ばれるようになったらしい


 さて

 この神主が生きているうちはまだいい

 器物集めは神主の趣味じゃからの


 ところが

 神主が老齢で亡くなってしまうと

 そのしわ寄せは息子ではなく孫娘へといってしまったんじゃ


 この孫娘は名を千春ちはると言うての

 父親の代わりに祖父が残した器物や、いまだに届く曰く付きの品を

 一人で管理しておったという話じゃ


 この娘

 時折妙なことをしておってのぉ


 一人でなにもいない空間に話しかけたり

 怒鳴ったりしておったんじゃ


 さてはて

 この娘は一体誰と話していたのか


 もしかしたら

 この娘の目には本当に付喪神がみえておったのかもしれんのう


(『付喪神神社』ある老爺の昔話より)

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