ルカ君発見器だね

「ってかなんで俺じゃなくてソウヤ…フワ兄? お前らに言ってくんだよっ」

「まあそれはそういうことですよ。ということなので、アンタも出てってください」

「ええ? ひどいなソウヤ、僕だけ仲間はずれにするつもりかい?」

「仲間になった覚えがありません」


 呑気なような殺伐としたような会話に、少しだけ気が楽になる。妙なものだ。

 何一つ解決はしていないし、もしかすると余計にややこしくなるのかもしれないが、今までの日常が戻ったかのようでほっとする。

 あっそうだ、と、アラタが流れを断ち切って口を開いた。ソウヤをちらりと見て、ルカを見つめる。


「ヒシカワ嬢はあの通りだったわけだけど、実は僕も、元上司から指示を受けていてね。孫が娘と上手くやっていけるのか、そもそもできるなら兵団から離したいんだけどどうにかならないか、と言われてね」

「…待て、アンタの元上司って言うと」

「ニシダ前総括」


 にっこりと笑う。ルカは既に思い出していたが、リツが、目をみはったまま動きを止める。


「それじゃあ、邪魔者扱いもされたことだし、失礼するよ。前総括に顛末もしらせないとね。ソウヤ、お前も来ないか」

「お断りします。隊長一人で、出す情報と出さない情報の区別がつくとは思えませんから」

「無能な上司は早々に見切ったほうが身のためだよ」

「これ以上得がたい人は知りません」


 どこか傷付いたようなアラタを目で見送りながら、ルカはリツの視線を感じていた。まだ、その顔を見られない。

 祖父の顔を思い出し、知らずに再会したときの様子も思い出す。年をとっていた。当たり前だ。あのときに、祖父は自分のことに気付いていたのだろうか。


「――たのむ。誰かどうにか説明してくれ、何がどうなってんだよ、ルカがおやっさんの孫? なんでそれで人体実験? てか、あの死に損ないは何がしたくて何したんだ? あっ、俺まだウタに礼言ってないやありがとな。…えーと、で?」


 ようやく見られたリツの顔は、困りきって妙な具合になっていた。迷子になったようにおろおろと、ソウヤとルカとを見る。


「はいはいはい。ルカ君、とりあえず話せるところから話してもらっていいかな?」

「え。――何から話せば…」


 混乱するリツの頭を、ソウヤが慣れた手つきででている。そうすると、部下と上司ではなく兄妹のようだ。

 こちらも困ったかおになったルカに、ソウヤは一旦立ち上がると、甘いお茶を入れてくれた。ぬくもりと甘さがしみ入ってくる。


「そうだなあ、俺たちの方は、サクラちゃんが真っ青な顔でフルヤ君を支えて兵団に飛び込んできて、ルカ君がさらわれた、って言ってきてね。まだその時点では総括のことまで話す決心はついてなかったから、俺たちもどこに探しにいけばいいやら頭をかかえたところで、ウタが反応してくれたんだよ。もうルカ君発見器だね」

「ぴ」


 ソウヤの妙な言いように、ウタが胸を張る。まさか気に入ったのか。しかも、ルカに反応しているわけではなく、ルカの中の妖異に反応しているのだろうに。


「あの隠し部屋にたどり着いてみれば、拘束した君に、血まみれで刃物振りかざすハゲ親父がいたってわけだけど。あの血は、ルカ君のものだった? だとすれば、傷一つ残ってない君の身体は、リッさんよりもずっと妖異との同化が進んでいるということになるけど、それも、十隊の遺産?」

「――はい」


 ゆっくりと、ルカは思い出したばかりの記憶から言葉に変えていく。

 両親のこと。

 当時は総括ではなかっただろう祖父のこと。

 第十隊の人たちのこと。

 実験のこと。

 出向しゅっこうで来ていた現総括のこと。

 リツたちが駆けつけてくれるまでにあったこと。

 すべて、この二人に隠す必要は感じない。ルカが第十隊の実験体と知っても受けれてくれた二人にこばまれるのであれば――仕方がない。


「ルカ、」


 地響きがした。

 咄嗟に刀をつかもうとして、手元になくて布団をつかむ。武具は、取り上げられたままになっているのだろう。

 それでも、既に駆け出したリツとソウヤを追った。

 立ち上がるだけでよろめき、あの二人に待っていろとも言われていたが、じっとしていられるわけがない。

 部屋を出たところでサガラにぶつかりかけ、肩を借りて下へ向かった。

 駆けつけた地下一室は吹き飛び、サガラの部下たち、当直の第四隊の面々が倒れていた。そこに、第一部の面々はいない。


 ――こうして、元凶だろう総括とその仲間たちの生死不明のまま、幕は閉じられることとなった。

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