謝ってゆるされることじゃない

「朝になれば、大騒動でしょうからね。上に情報を上げようにも総括が黒幕ですから、明日の朝、肩書きのある者総出で話し合いですかね。ですから、今のうちに話すことと隠すことは決めておいたほうがいいでしょう。隠しておきたいこともすべてを隠し通すことはできないでしょうが、無理のない程度なら、私も聞かなかったふりはできます。練習台とでも思って話してみてください」


 にこりと、サガラは笑う。下手をすればリツの倍以上も生きているはずだが、やたらと爽やかだ。

 そこに、小さく戸が叩かれた。

 ルカ以外の者らは、外に立っているのが誰かわかっているようだった。どうぞ、とサガラが代表して口を開く。


「――失礼します」

「ヒシカワさん?」


 強張った顔で入ってきたヒシカワは、ルカの声を聞くなり、身をすくめた。が、深呼吸をして、思いきったように顔を上げる。

 ルカを、真っ直ぐに見た。


「ごめんなさい」

「え?」

「謝ってゆるされることじゃないけど、でも――ごめんなさい」


 今に土下座でもはじめてしまいそうで、ルカは一人、おろおろとする。ソウヤが椅子を勧めたが、断って、ヒシカワはルカの目の前に立った。


「フルヤ君を兵団に連れて戻ったのは、サクラちゃんなんだよ」


 それなら、謝る必要などどこにもないはずだ。それなのに、ヒシカワは泣き出しそうに顔を歪めた。


「私――総括に、頼まれていたの。第十一隊のことをしらせるようにと、途中からは、あなたのことも。私のことを認めてもらってるんだって、有頂天になってた。だから、全部、光園であなたと園長の話を少しだけ聞いて、それも、すぐにではないけど…報告した。私が――」

「もしヒシカワさんがこうなったのが自分のせいだと思うなら、それはやめてほしい。僕の元々の隠し事のせいだし、総括のせいだよ」

「――っ、ごめんなさい!」

「ルカはそう言うけどな、サクラ、途中で怖くなるようなら、やるべきじゃない。今回はそのおかげで助かったけどな。でも俺は、もうお前を仲間とは思えない」

「――はい」


 隊長、と出しかけた声は、飲み込んでしまった。

 リツは、怒っているわけではないと、わかってしまったから。ヒシカワと同じくらいに、やりきれないかおをしている。

 ヒシカワは、もう一度深々と頭を下げると、出て行った。

 静まり返った部屋の中で、サガラも立ち上がる。もう一度、爽やかに笑みをたたえる。


「打ち合わせはしておいたほうがいいとは思いますが、この状況で、私を信用してほしいといっても難しいでしょうね。正直なところ、私も深入りしたいと思いません。総括たちの様子を見てきますから、フワ君、お願いしますね」


 軽やかな音を立ててもう一度戸が閉められると、ふう、とソウヤとアラタが息を吐いた。


「逃げられたな」

「逃げましたね」

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