あいつの分も酒いると思う?

「それでは――あ、ウタは、どうしましょう」


 寝床は破壊されてしまっている。

 ソウヤの手にしたビンの上に止まったままの青い小鳥は、ルカに名前を呼ばれて飛び立とうとしたが、一瞬早く、リツの手が捕らえた。


「どうせ今日は泊まりみたいなもんだろーし、俺が預かっとく。安心して、ゆっくり休め」

「はい。お先に失礼します」


 頭を下げて一足先に部屋を出ると、フルヤがアラタに捕まっていた。

 心なし泳いでいる目がルカを見つけると、いっそあからさまなほどに安堵の色を見せた。


「ルカ!」

「やあ、キラ君」

「――お久しぶりです、フワ少将」

「一時は同僚だったっていうのに、冷たいあいさつだなあ。リ隊長とうちの弟は? そろそろ会議再開だって呼んでるんだけど、お、出てきたね。それじゃあ、キラ君フルヤ君、また」


 アラタが、リツとソウヤとともに大会議室へと消えたのを見送って、ようやく、フルヤは大きく息をついた。


「ルカ、早く出ようぜ、とっとと帰るぞっ」

「うん。…何かあった?」

「何かってなあ、あの人、事こまかに何があったのか聞いてきて、そのクセ、話聞きたいわけじゃないみたいだしっ、値踏みされてるっぽかったしっ、なあルカ、あの人の評価で兵団の評価も決まるってマジかな?! 総括直属とか、三隊は隠れ蓑で実は二隊の隠し玉って噂もあるんだぜ?!」


 小声で、しかし切羽詰ってまくし立てるフルヤを引っ張って、とりあえず建物の外に出る。当初出られるはずだった時刻からは、随分とってしまっている。


「どうする、今から食べに行く…?」

「あー…。でも食堂は…ぎりぎり無理だな。食べるものと酒と、適当に買って帰るか」

「そうだね」

「あ、スガ見なかったな。もう部屋戻ってんのかなあいつ。あいつの分も酒いると思う?」


 さっきの余韻なのか、いつもより多少饒舌なフルヤとともに、ルカは兵団本部に背を向けた。

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