隠れ屋風実験室、ってトコか?

 三人は階段の前で、一階に避難していた者も含め、被害の状況を調べる人たちを眺めるようにして立っていた。


「そこの部屋に、まだ妖異の一部が残っているかもしれません」

「え、どうやって?」


 ひそめたルカの声に応じて、リツも囁き声だ。消滅しそこねたものがあるとでも思ったのか、不快そうではないが、不思議そうに首をひねる。

 ルカは一度、深く息を吸った。


「さっきの妖異ですが、十隊の研究していたものを培養したと聞きました。多分それは、僕に使われているものと同じだったんです。共鳴――という言い方で正しいのかどうかわかりませんが、あの妖異に反応して、僕の中の妖異も動いていました」

「お前、身体は?!」

「今はもう大丈夫です、なくなったことで落ち着いたようで。でも、そこの部屋からも、少しですが反応があるんです」


 心配のあまりか、怒るようになったリツの顔から表情が消える。へえ、と漏らされた声すら平淡だ。

 ソウヤを見れば、黙って肩をすくめる。


「ソウヤ、あそこってどこのだっけ?」

「第一部の物置き、ということになっていますね、書類上は」

「さっき中を見たフルヤは、実験室と言ってました」

「さっき? ってことは開いてるな。――ルカ、悪いけど一緒に来てくれ。どこか判るか」

「はい」


 そっと踏みった部屋は、たしかに実験室のようだった。

 壁際に並ぶ棚には、手前の方には雑多なものが詰め込んである。整理もろくにされていないだろう資料の山は、ぱらぱらとめくっただけでも脈絡がないことが見て取れる。

 だが、少し奥の方を見れば、紙の資料の代わりに、暗くて文字は読み取れないが、レーベルの張られたビンやフラスコが整然と並ぶ。

 奥まった中央に、手前に林立する棚に隠すようにして、大テーブルがあった。水場もある。


「ちょっとした、隠れ屋風実験室、ってトコか?」


 皮肉気な言葉は、しかし淡々と吐き出される。

 不意に、ぴぃ、と一声鳴き、ウタがガラス瓶の一つに飛んでいった。とくん、と、ルカの中の妖異が動く。


「隊長、それ――ウタの止まっているビンです」

「よし。ソウヤ、取ってくれ。俺が持つとそのまま叩きつけそうだ。もしかすると、このあたりもそうかも知れねーな。…ルカ、これは俺が絶対に処分する。わかったことは後で話すから、今日のところは帰れ」


 難しげな顔をしていたソウヤも、ルカが見ると、落ち着かせるように肯き返す。たしかに、ルカがいたところでできることがあるとも思えなかった。

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