っつーかキナ臭ぇよなあ

 第十隊の末裔と呼ぶなら、ルカこそがそうだ。

 ソウヤにも話してあるが、そこに何らかの含みがあるのかどうかは、慎重に発された言葉だけではうかがい知れない。

 ルカはふと、闇になって肩から掌に移したウタをそっと握った。やはり――震えている。


「そこで、光の妖異を動物に植えつけたって聞いた。人工的に」

「そんなことができるんですか」

「さあ? 俺が聞いたのはそれだけだからね」

「おーいルカ、いるか?」

「はい」

「黙ってるから消えてるかと思っただろ」


 リツの唐突な呼びかけは、心配してのことだろうか。軽口に、ルカの気がやわらぐ。


「すみません。ウタが…怯えているようなんです」

「そういえば。いつもはうるさいくらい鳴いてるのに、声がしないわね」

「暗いのがこわいのか?」

「そんなことはないと思うんですけど…一部一課の実験には、そういうのもあったけど平気なようでしたし」


 何とも言えない沈黙は、リツの「あ、戻った」という拍子抜けしたような声と光とに破られた。

 煌々こうこうとした明かりが戻ると、四人ともが、その下で呆気に取られたようなかおをしていた。

 ぽかんと、目と目とを見交わしていると再び、放送が入る。


『業務連絡いたします。各隊長、副隊長、各部長、各課長及び大将以上の者は、至急、大会議場までお集まりください。なお、当直以外の隊員は、速やかに帰宅し――』


 もう一度、揃って顔を見合わせる。それぞれに渋いかおをしている。


「さて、何人集まりますかね。大将以上なんてもう帰ってるでしょうし、えらくバランスの悪い」


 まずソウヤが、ため息とともに動いた。書類を手早く片付け、会議室へと向かうための用意を始める。

 ルカは、ソウヤの「バランスの悪い」という言葉に引っかかった。

 たしかに、各隊長がすべて本部内にいるとは限らず、召集や通達を徹底するなら、部に対するように、とりあえずとしても班に対した呼び集めも行うべきだろう。

 ソウヤを見ると、軽く肩をすくめて見せた。


「君たちも早く帰りな。残っていても追い払われるだけだよ。――どうにもせわしないなあ」

「っつーかキナ臭ぇよなあ。あーあ、俺もとっとと帰りてー」 

「はいはい、そのためには隊服ちゃんと着てください。小言の時間減らしたほうが早いでしょう。ルカ君、ウタは?」


 小さな鳥は、まだ震えている。それでも光が戻った分落ち着いたのか、一度は飛び上がったもののルカの肩におり、ぴたりと身を寄せてきていた。

 ソウヤだけでなく、リツとサクラの視線も、ウタに集まる。


「何か起きてるのかな」


 リッさんも元に戻ったことだし。


 ソウヤの言葉がそう続きそうだと思ったのは、ルカの思い込みかもしれない。しかし、昨日リツが調子を取り戻したかと思えば、途端にこれだ。

 そこでもう一度先ほどと同じ内容の放送が繰り返され、リツとソウヤは渋々と出て行った。仕方なく、ルカとヒシカワも帰り支度を終える。

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