査問は済んだと思ったけど

「うわー、これが噂の? へえ、見てくれはただの鳥だねえ。これで成鳥オトナ?」


 第一部三課からウタをつれて戻ると、アラタは、面白がるように近寄ってきた。ウタが思い切り警戒しているというのにおかまいなしだ。

 アラタの方が断然階級が高いだけに無下にもできず、ルカは入り口付近で硬直した。

 その間もウタの警戒度は上がり、今や、声も上げずにぴたりとルカに身を寄せる。その小さなぬくもりに、わずかに我に返る。


「あの」

「うん?」

「ウタのことをご存知なのですか?」


 アラタはまじまじとルカを見つめ、盛大に噴き出した。貼り付けたものでなく笑み崩れると、雰囲気がソウヤそっくりになる。

 そのソウヤは、アラタが来てからというもの、笑みが消えて仏頂面か無表情をたもっている。

 正直、みんなの呆気にとられた視線が痛い。


「いやあ、もう、十一隊面白すぎるね。どれだけの注目を集めてるか、まったく自覚ないんだねえ」

「――ああ。そうですね」


 妖異の混じる人間は、団内にはリツとルカの他にも二人いる。

 だが、人外で協力関係にあるものはほぼ皆無だ。意識の基本が元の生き物であれ妖異であれ、人の常識が伝わらず、意思疎通自体が困難というのが通説だ。


 ウタの存在は、そこに一石をとうじた。


 まだ兵団の建物の外へ出ることこそ認められていないが、建物内での行動はほぼ許されている。

 その前には様々な検査や実験を行い、それに合格した上で先日の行動が認められたからこそ――一応は人に敵対しないと判断されたからこそ、今こうして一緒にいられる。

 注目するなというほうが無理だ。そのことを失念しているとは、なるほど、笑われても仕方がない。


「そうだよ。力を持つなら、相応の覚悟と振る舞いをしてもらわないと、周りが冷や冷やする」

「力、ですか」 


 ふっと浮いた笑みを、ルカは即座に打ち消した。代わりに、当たりさわりのない笑顔をつくる。


「認識不足でした。以後、注意します」


 軽い敬礼を向け、自席へと戻る。ちらりとリツを見ると、にやりと笑っていた。

 アラタは一瞬、虚を突かれたように立ち尽くしたが、肩をすくめてソファーに座った。机の空き具合でいけばアラタの席はルカの隣になるはずだが、誰もそのことに触れようとはしなかった。

 妙な空気のわだかまりを破ったのは電話のベルで、わずかの差でヒシカワが受話器を持ち上げ、短いやり取りの後で眉を寄せた。

 困惑したようにリツを見ると、相手に断って送話口をふさぎ、改めてリツを見た。


「リツ隊長――」

「ん? 三部三から呼び出しか? 査問は済んだと思ったけど」

「いえ、一部一から協力要請なのですが――ウタを、と言っています」

「は?」


 何の冗談かと一同の視線がヒシカワに集中したが、当人はいよいよ困り顔になる。

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