リッさんの悪影響?

「ルカ君、手伝って」

「はい」


 様子を見て呼んだのだろうソウヤの元に行くと、班長の手当ては粗方あらかた終わっていた。

 元から意識は失っていたから、出血を止めるだけの本当の応急手当でしかない。それだけでも手間取ったことが、事態の悪さを再認識させる。


「ちょっと言い過ぎ」

「はい」


 後で謝ろう、とは思うが、受けれてもらえるかどうか。

 ルカが育った施設は常に人手が足りていなかったから人の相手をしたり面倒を見るのは慣れているはずなのに、いまだに問題を起こしてしまったりする。根っから不器用なのかもしれない。

 だがソウヤは、班長の加減を見ながら、あるかなしかにわずかに微笑んだ。


「でも、助かった。押し付けてごめん」

「いえ。僕が短気なだけですから」

「リッさんの悪影響?」

「聞こえてんぞ」


 わあ、と、急に割り込んできたリツに二人が揃って首をすくめる。

 リツは、何も言わずにばしばしとルカの背を叩くと、二人にそっと顔を寄せた。三人で班長を取り囲んでいる状態だが、二人とも気にしていないので、ルカも無視を決め込む。


「ルカ、お前、フルキ見習いと芳香の妖異なんとかしろ。ソウヤは俺とスダ一佐と鼠だ。指示は、階級通り。スダ一佐、俺、ソウヤの順で守れ。ソウヤ、サワキ一佐に守の九は使えそうか?」


 守月の九の式。それは、時間の流れから切り離す閉鎖の術だ。

 ソウヤは、意識の戻らないサワキに目を落とし、少し首を傾けた。


「大丈夫とはえませんね。この面子めんつなら俺の役どころでしょうが、正直、無事にく自信はありません。現状がいいんじゃないですか」

「わかった。ルカ、いけるか?」

「――はい」


 おとりということですよね、という言葉を飲み込み、ルカは肯いた。よし、と頷いたリツが立ち上がりかけたところを、はたと気付いて止める。

 いぶかしげなリツに、ルカは隊服のたもとから出した小箱を差し出す。妖異捕獲用の携帯檻だ。


「お願いします。僕が持っているより、隊長の方が安全です」

「あー、ダメ。悪いけど、俺、そーいった対妖異のもんは相性悪いし持ち物の扱い雑で。いーじゃんルカが持ってりゃ。お前になついてんだし」

「あ、俺も無理。保証できない」


 二人ともに断られ、隊服と同じ緋色の小箱を手に、ルカは途方とほうに暮れた。

 中には、先ほど捕まえた歌の妖異の小鳥がいる。持ったまま戦闘になると、うっかり死なせそうで怖い。ましてや、フルキと組むとなればルカが囮役のはずだ。


「なんなら、ここに置いてったらどうだ。ケガ人のところには胎の八で防壁つくっし」

「…はい」


 不安は残るが、それ以上の得策が思い浮かばないのにごねるわけにもいかない。

 ルカが肯くのを見届けて立ち上がったリツは、即座にスダに怪我人たちの現状維持の方がいいことと三人の用意ができたことを報告した。あくまで、下につく腹らしい。

 そうしてルカは、むっつりと黙り込むフルヤと二人、肩を並べて歩くことになった。他の三人もそれぞれ距離を置いて近くにいるはずだ。

 謝るのは終わってからだよなあと、自分でつくった重苦しい空気に、ルカはひっそりとため息をついた。

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