憑依転生~女最弱騎士になった『俺』が最強に成り上がるまで

水無土豆

第1話 転生したら腹になんか突き刺さっとった。


 薄暗い灰色の空の下、草一本生えていない、荒涼とした大地に人々の怒号が飛び交っていた。


 戦争である。


 戦地には西洋甲冑を着た人の群。

 紅旗を掲げた軍団、蒼旗を掲げた軍団。

 紅と蒼の軍は敵味方に分かれており、それぞれ入り乱れて、剣や槍などでせめぎ合っていた。


 紅の軍団を束ねるはバルト。

 カライ国の将軍であり、数々の武勇伝を、近隣諸国に轟かせているツワモノである。その体躯は熊を思わせるほどに巨大、ひとたび彼の槍が振るわれれば、何人もの兵が地に伏すといわれている。


 対する、蒼の軍団を束ねるはフレイ。

 エストリア王国の白銀騎士。

 カライの将軍バルトとは違い、武ではなく、己が智で武勲をあげた男である。その男の立てた戦略はいかなる難局をも打破してきた実績がある。

 しかし、此度のこの戦局においては、フレイ率いるエストリア王国軍の劣勢。

 ――というよりもすでに、戦争はカライ軍による掃討戦と化していた。

 フレイはこの戦渦からの脱出を試みるべく、数人の兵士を時間稼ぎ・・・・として、戦地に留まらせようとしていた。



「いいか、お前たち。なんとしてもここで時間を稼ぎ、私の逃げる時間を一秒でも多く稼ぐのだ。私が倒れればこの戦争は敗戦必至。それは即ち、我らの祖国エストリア王国の敗北につながるのだ」



 誰が聞いても明らかに無謀な作戦に、兵士たちは困惑した顔を見せていたが、フレイは構わず続けた。



「なに、心配することはない。おまえたちにも、あとで必ず援軍を寄越す。そうだ、これは陽動作戦なのだ。それまで耐え忍んでくれ……!」


「はい!」

「おまえもいっしょにくたばれ、役立たず!」


「だ、だれだ!? 今言ったのは」



 大勢の兵士の返事に紛れ、約一名が、フレイに対し暴言を言い放った。

 フレイは耳ざとくも、その声を聞き逃さなかった。

 フレイは真っ赤な顔で兵を見渡すが、誰一人として名乗り出ようとはしない。

 どの兵もみな、一様に、表情は変えず、まっすぐフレイを見据えていた。



「オホン、もう一度言う――」


「さっさと援軍とやらを呼んで来い! この木偶デクの棒! つかえねえな!」


「だ、だれよ!? だれなのよ!? さっきから!」



 兵は名乗り出ない。

 フレイはそれに激怒し、数人の側近を連れ「もういや!」とだけ吐き捨て、その場を後にした。



「……なぁ、おまえ。どう思う?」



 ひとりの兵士が、フレイの背中を見送りながら、その隣にいた小柄な兵士に声をかけた。



「どうって……、フレイ殿がオカマさんだったことですか? びっくりしました」


「おバカ! この状況でしょ! 何考えてるのよっ! もう!」


「あ、あなたもですか……」


「いや、マジな話。これってもう、イケニエ? みたいなヤツじゃねえか! オレたち! 援軍とか、ゼッテーこねーだろ! ……なあ、このまま逃げちまわねーか?」


「……ダメですよ。気持ちはわかりますけど、ここから逃げて、責任を放棄するなんて……」


「そんな律儀に言いつけを守る必要もねえだろ! つかそもそも、こんな死刑宣告みたいな命令に、責任もクソもねぇだろ。……だからこその提案なんだって。一緒に逃げようぜ、な? おまえだってこんなとこで死にたくないだろ?」


「そりゃわたしだって、死にたくないですよ……けど、逃げて、逃げて、それで、その先はどうするんですか?」


「それは……その、この辺の同盟国とかに……助けを求めるとかさ……」


「なんの後ろ盾もなくですか? 入国どころか、こんな恰好ですと、門前払いが関の山だとおもいますよ」


「裸で入国すれば――」


「それこそ、すぐに捕まっちゃいますよ! ……それに、仮に入国できたとしても、必ず身元を調べられます。そうなってくると、自分たちは戦地から逃げ出した――いわば命令違反をした兵です。強制的にエストリアに送還されて、罰を受けるのがオチだとおもいますけど……」


「いや、それもそうだけど! それでも、やっぱり死ぬよりは――」



 兵士がいいかけて口をつぐむ。

 敵の追手が続々と、エストリア兵たちの前に現れた。

 カライの軍勢は、もうすぐそこまで迫ってきていたのだ。


 

「お、おおお……オレはやっぱだめだ! すまん!!」


「あ、ちょ、ちょっと……!」



 弱腰だった兵士は、小柄な兵士の制止も聞かず、武器を投げ捨て、その場から一目散に逃げ去っていった。



「おい、カライの兵だ! 来るぞ!!」

「ここを死守しろ! ひとりも通すな!」

「エストリアの底力を見せるんだ!」

「エストリアに栄光あれ!」



 エストリアの兵たちが次々と、自身を奮い立たせるように声をあげていく。

 退路を断たれた兵士たちは、カライ軍の猛攻に対し、果敢に応戦したが、圧倒的な兵数の差に、ひとり、またひとりと力尽きていった。

 小柄な兵士は最後までカライの兵相手に善戦していたが、それもカライ国の将軍、バルトが来るまでの間だけであった。


 バルトが其処・・に現れるや否や、エストリアの兵たちはまるで、虫けらのように叩き潰され、刺し貫かれ、蹂躙されていった。

 もうすでに疲弊しきっている小柄の兵士は、肩で大きく息をしながらも、敵国の将軍バルトを、まっすぐ睨みつけていた。

 その圧倒的な体躯の差は、例えるなら象と人間。

 しかし小柄な兵士は巨馬にまたがったバルトに対し、その構えた剣の切っ先を下ろさなかった。

 兵士の誇りからか、足が竦んで逃げられないでいるのか……。

 その兵士は圧倒的不利な体格差を前にしながら、自らの背中を敵兵に晒すことはなかった。



「ふむ、その心意気やよし! 最後のひとりとなりても、このバルトに向かってくるとは、敵国兵士ながら見上げた度胸である!」



 カライ国の将軍バルトは馬上より、野太い声で、その兵士に賞賛の言葉を言い放った。腹の底まで響くような声に、小柄な兵士は、蛇に睨まれた蛙のようになっていた。



「ゆえに、我は謹んで貴殿の名を尋ねよう。勇気ある者よ、名乗りをあげよ」


「わわ、わたしはルーシー……じゃない! ルーシーではない! わたしはルーシーじゃない!!」


「ルーシーじゃなかったら……なんなのだ」


「えと、さ、サルバトーレ! そうです、吾輩はサルバトーレ……伯爵、なり! ……たぶん」


「たぶん……?」


「そうだ、サルバトゥォーレだ! 命が惜しければ、みみ、見逃してやらんでもないぞ! この、おお……、大男よ! ……というか、馬から降りろ! ……降りてください」



 サルバトーレと名乗った兵士は、震えながらも、甲高い――少し上ずった声でバルトの問いに答えた。

 手に握っている両刃剣の柄はときおり手甲と擦れ、カチカチと音を鳴らしている。



「笑止。戦士が敵に背中を見せることは死と同義! それは貴殿が一番よくわかっているであろう! サルバトーレよ!」


「で、ですよねー……うう……死にたくない……」


「ゆくぞ! サルバトーレ! 新生カライ国の礎になる、その栄誉を誇りながら逝け!」



 バルトはそう見得を切ると馬を駆り、サルバトーレめがけ、持っていた槍を突き出した。



「ひぃっ! で、でも……わたしだって、ここで、負けるわけにはいかないんだ……っ!」


「愚かなりサルバトーレ! そのような矮小な剣では、我の一突きは防げぬ!」



 ――刹那。

 剣と槍が激突し、火花が辺りに散った。

 バルトの繰り出した凄まじい突きは、サルバトーレの剣を一瞬で砕く。

 そしてその勢いのまま、サルバトーレはまるでサッカーボールのように、大きく後方へ吹き飛ばされた。

 サルバトーレは受け身をとることなく、ゴロゴロと後転し、地面の上に這いつくばった。


 

「ここまでか……、貴殿の命、もらいうけた!」


「うぐぐ……っ!」



 バルトは馬のスピードを上げ、再度、槍を振り上げた。

 ズドン!!

 バルトが振り下ろした槍はサルバトーレの鎧を貫通し、地面をも貫いた。

 サルバトーレは苦悶の声を洩らし、必死に槍を抜こうともがくが、バルトは腕にグッと力を込めていたため、槍はピクリとも動かない。


 やがて力尽きたのか、サルバトーレは一切の抵抗をやめ、パタンと動かなくなった。



「逝った――か。その剣は未熟ではあったが、その勇気は称賛に値する。サルバトーレ卿よ、その誇りを胸に――」



 サルバトーレが死んだことを確認したバルトは、サルバトーレに刺さった槍を引き抜こうと試みる。

 しかし――



「ム!? 槍が……抜けぬ……!?」



 ガクンッ! 


 突如として、サルバトーレの体が、脈打つようにして震える。

 死んだはずの――少なくとも、バルトは死んだと思っていたサルバトーレの死体が息を吹き返したのだ。

 バルトはすぐさま槍から手を離すと、馬を操り、サルバトーレからおおきく距離をとった。



「――ぐっ!? な、なんだ……、こりゃ……! いってぇ……!」



 サルバトーレは悲痛なうめき声を上げると、四つん這いになり、腹部に刺さっていた槍に手をあてた。

 槍はボロボロと泥のように崩れると、サラサラとした砂になり、風に乗って消えていった。

 槍が刺さっていた傷穴からは、ドクドクと赤黒い血がとめどなく溢れている。



「やべえ……、せっかく体を手に入れたのに、このザマかよ……。……だけど……、へへへ、やってやったぜ……! ざまーみやがれ、インチキ事務員ども……!」



 サルバトーレはそう小さくつぶやくと、穴の空いた腹部にそろそろと両手を当てた。

 パァッと、サルバトーレの両手から緑色の光が溢れる。

 その緑の光は、みるみるうちに腹部のケガを塞いでいった。

 そして流れ出ていっていた血液も、サルバトーレの体内へと戻っていった。

 逆再生。

 まるで、逆再生でもしているかのように、サルバトーレの体から、みるみるうちに、怪我がなくなっていった。

 カライ国の兵とバルトは、その光景に対し、ただただ立ち尽くしていた。

 ケガが塞がったことを確認したサルバトーレは、のそのそと起きあがると、呑気にも周囲を見渡した。



「戦争、だよな……これって。だいぶ前だけど、なんかどっかで見たことがあるぞ。西洋の騎士とかが剣とか槍とかを持って戦ってるやつ……ってことは、タイムスリップでもしたのか……? いや、あのクソ事務員が言うには、たしかここは別の世界だって言ってたな……。でも普通に人間はいるし、今は曇ってるけど太陽っぽいのもあるし……、どうなってんだ? ……はぁ、まぁ考えるのはあとでいいか。とりあえずいまは、こんな物騒な場所からとっとと脱出――」


「き、貴殿は……、なぜまだ生きている!?」



 バルトがようやっと、そのきつく閉じていた口を開いた。

 その声はさきほどの、ずしんと腹に響くような声ではなく、かすかに震えている。



「えっと、おまえはたしか……、ああ、そうだ。さっきこいつ……いや、オレか。オレを串刺しにたやつだったな。オレはタカシっていうんだ」


「ッ! もしや、これがうわさに聞くエストリアの悪しき研究というものか!」


「はぁ? おっさん、何言ってんだ?」


「死者の尊厳をも冒涜するとは許すまじ、エストリア王国! 貴殿らには我が直々に引導を渡してくれる!」


「お、おいおい、話を聞けって――」


「者ども! 手を出すな! こやつは我の敵である!」



 バルトはタカシの言葉に、一切、耳を貸す様子はなかった。

 バルトは、後ろに控えていた兵士の槍を強奪すると、馬を駆り、先ほどと同じように、タカシに突進していった。



「まじかよ、こっちに来て早々これか……どんだけついてねえんだよ!」


「問答無用! 成敗!」



 バルトは槍を大きく振りかぶると、そのままタカシめがけて振り下ろした。

 一閃。

 再び、鋭い突きがタカシを襲う。

 しかしタカシはその攻撃を、紙一重で避けてみせた。



「あっぶねえっ! なにすんだ!」


「な、なんだと!? く、やるな、屍人よ。だが奇跡は二度ない! 覚悟せよ!」


「まーたズンズンズンズン、バカみたいに突っ込んできやがって! イノシシかテメーは!」


「猪突猛進! 我の槍技は何人たりとも止められはせぬ!」


「いいから話くらい聞けって、おっさん!」


「生憎、外道の言葉に傾ける耳など持ち合わせてなどおらぬ! 貴殿はここで我の前に倒れるのだ!」


「ど、どうあっても、オレを殺す気かよ……! この牡丹イノシシ野郎!」


「安心するがいい。我が直々に冥土に送り届けてやる!」


「どこに安心する要素があるんだよ……。だけど、ちょうどいいのかもしれねえな。ここらで力を試すってのもアリだ。……いいぜ、おっさんでデモンストレーションしてやるよ! 逆にオレのこの技を、冥途の土産にしてやる! 今更、後悔すんじゃねえぞ!」



 タカシは武器を構えるでも取るでもなく、ただ自らの両手のひらをバルトに向けた。

 バルトはほんの一瞬だけ、ピクッと眉を吊り上げてみせたが、かまわずそのまま突撃した。



「ウンヌオオオオオオオオオオ! 消し飛――」



 タカシが大声をあげるのと同時に、両者が交錯する。

 ふたつの影が重なり、片方の影が衝突地点から大きく吹き飛ばされた。



「アレ!?」



 吹き飛ばされたのはタカシだった。

 タカシは受け身をとることなく、勢いよく地面をゴロゴロと転がり、やがて地面に這いつくばった。

 しかし、タカシはその場で素早く跳ね起きると、手のひらをまじまじと見つめて叫ぶ。



「なんでェ!?」

「なぜだァ!?」



 両者の声が重なり合い、タカシはバルトにそろりそろりと向きなおった。



「――へ?」


「貴殿は……! 貴殿はなぜ、我が槍技を素手で受けて無事でいる!?」


「素手……? お、おう、そういえば……全然痛くないような……?」



 タカシは腕をぶんぶんと振り回したり、その場で屈伸運動をした。

 たしかに体には外傷などはなく、元気が有り余っているように見てとれた。



「我が槍技が、不死者を前にして鈍ったとでもいうのか……ッ!」


「え? ま、まぁ? そういうことだろうな。どのみちおまえはここで終わりなんだよ。騎士なら潔く負けを認めろって。このまま逃げてくれれば命までとりゃしねえからよ」


「戯言を! 騎士に退路など――」



 バルトが言いかけた途端――持っていた槍が、ボロボロと、砂のように崩れた。



「な……ッ!? これはさきほどと同じ……!」


「ほ、ほらぁ! あきらめなー? あきらめちゃいなー? 無駄に命を落とす必要もないんだからさー? 生きてたらなんかいいことあるって! そんなに気を落とすなって、おっさん! 元気出しなよ!」


「く、くどい! 槍がなくとも、我は貴殿をここで止めなければならぬ!」


「おいおい。まだやんのかよ……しつけーな……」


「構えよ、サルバトーレ卿の亡霊よ。我が国の騎士の誇りは、貴殿の……貴国の邪悪な研究には屈さぬ! 見よ、この剣を!」



 バルトはそう言うと、腰に提げていたひと振りの剣を抜いた。

 抜かれた剣は曇天の太陽の光を身に浴び、それを鈍く、鋭く反射した。

 いかによく手入れされているのかがわかる一振りである。



「よもや、この戦局で、この破邪の剣を使うことになるとはな……、心するがいいエストリアの亡霊よ。今迄、この刀身を見て生き残った者などおらぬ!」


「いやいや、もういいって。わかったから――」


「覚悟ォ!!」



 バルトが手綱をひき、馬がひときわ大きく嘶く。

 するとバルトは、今までにない速度でタカシに突っ込んでいった。

 一方、タカシは腕組みをしながら、その場で仁王立ちしている。



「どうだ! 動けぬだろう! 指一本、筋一本、眉でさえも! これが、この破邪の剣の効力だ! 邪なる者は、この剣の前では身動きひとつとれはしない! 貴殿の負け――」


「もう、どうなっても知らねえぞ、おっさん!」



 バルトはタカシの首めがけ、剣を振り下ろしていた。

 ガキィィン!!

 しかし、その剣は見えない円形の壁のようなものに防がれてしまう。



「ぐぬっ!? な、なんだ!?」



 バルトは狼狽えながら体勢を立て直すと、ふたたびタカシに向き直った。

 タカシはバルトの一撃により、かぶっていたヘルムを勢いよく吹き飛ばされていた。

 それにより、タカシの素顔が、白日の下にさらされる。


 風に吹かれ、後ろで無造作に束ねられていた赤髪が揺れる。

 曇天の、灰色の空によく映える、エメラルドグリーンの澄んだ瞳。

 その目が、まっすぐに、大胆不敵に、眼前のバルトを見据えている。

 そのような笑みを浮かべているのは、少女だった。

 自らをサルバトーレと、タカシと名乗ったのは、年の頃が十六、七歳ほどの、未だあどけなさを残した少女・・だった。


 タカシはニヤリと口の端を吊り上げ、不敵に笑うと、両腕を地面深くまでズボっと突き刺した。



業焔滅却ごうえんめっきゃく! 炉心溶融メルトダウン!!」


「なに……!?」



 バルトは顔色を変えると、馬の手綱を引き、その場で制止した。

 馬の蹄から砂煙が舞い上がる。


 ――静寂

 周囲の兵もただ、ふたりの動向を固唾をのんで見守っている。


 ……しかし、待てど暮らせど、一向に何かが起こる気配などはなかった。



「ま、まあまあ、ちょっと待ってろって……いまにこう……バーンってくるんだって。いやいや、マジで。こう……『ばーん』ってな。いや、『ぼーん』だったかな? あれ? 『どひゅーん』?」



 痛いほどの沈黙に耐え切れなくなったのか、タカシが申し訳なさそうに口を開いた。

 さきほどの態度とは打って変わって、すこし申し訳なさそうな視線を、バルトに送っている。



「お、おかしいな、たしかこれで合ってる、はずなん――」


「その魔法を知っていて、口にしているのか……!?」


「は?」


「貴殿は、その魔法を知っていて、それでもなお、口にしているのか、と訊いているのだ!」


「え、まあ……」


「その名は『失われた魔法ロストマジック』のひとつ。かの伝説の生物、神龍ゴッデスドラゴンが編み出したとされる禁術……、地を溶かし、天を焦がす。それをなぜ貴殿のような小娘が……?」


「はぁ? ろすとまじっく? 小娘……? おい、おっさん。あんた何言って――」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 いいかけて突然、大気を震わせるほどの地鳴りが轟いた。

 ガクンガクンと体を大きく揺さぶられるほどの揺れに、兵士たちはみな一様に慌てふためいている。

 そして、地震は止むどころか、次第に大きくなっていく。

 空気が揺れ、地面は割れ、その裂け目からドロドロとしたマグマが噴き出した。

 マグマはその姿を津波のように変えると、サルバトーレの周囲全ての兵士を飲み込んでいく。

 加えてマグマは自然のものではなく、魔力を多量に帯びていた。

 飲み込まれるものは蒸発し、少し触れただけでも、ドロドロに溶けていく。

 阿鼻叫喚。

 もはや、そこにいる兵士の中に、戦意を持っている者はいなかった。



「くっ……! やむを得ぬ、か……。者ども! 撤退だ! 今は生き延びることだけを考えるのだ!」

 


 バルトはタカシに一瞥もくれることなく、その場から兵を束ね、退散していった。



「いいか、小娘よ! 貴殿にはいずれ、必ず天誅が下されるだろう!」


 背中越しに、バルトの言葉がタカシにまで届く。

 しかしタカシはその様子を、ただただ茫然と立って見送っていた。

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現在カクヨムにて開催中の短編小説コンテストにも投稿しております。こちらもギャグに振り切ったものですので、暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです。そして、できれば評価していただけると、もっと幸いです。

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