指切り
國澤 史
序章
新吾は林の中を歩いていた。脛の高さまで積もった雪の絨毯を一歩一歩踏み崩して進んで歩く。
まだ誰も触れていない雪に自分の足跡を刻むことは、昨年までは特別心惹かれる遊びだったが、今の新吾はそれを楽しむ心を持ち合わせていなかった。理由は単に新吾が大人になったからではなく、そういう心境にないというだけだった。
運動靴に付着した雪が解けて靴下に染み込み、新吾は足の指先が何倍にも腫れたように錯覚するほど、新吾は冷えを感じていた。
時折、木に寄り掛かりながら休憩を取り、大変な思いをしながらも新吾は引き返すことなど一切考えず、ただひたすら林の奥を目指した。
全身を使って一歩一歩進んでいる途中、新吾は足を滑らせ雪の上に転んだ。舗装された道を逸れて林に入ってから想像以上に疲労が蓄積し、新吾はなかなか立ち上がることができなかった。
新吾は肩で息をしながら雪の上に仰向けになり、天を仰いだ。眼前には灰色の空が広がり、葉の落ちた木々と相まって、どこか哀愁を誘う。
まだ起き上がる気力が湧かない新吾は空を見つめ、今ここに来るに至った経緯とその存在なくしては語れない、一人の少年との出会いと出来事を思い返していた。
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