グリムノーツ偽典 クロスオーバードライブ
時速32mm
プロローグ 英雄Aの想区
この世界の住人には、生まれながらに与えられる一冊の本がある。
『運命の書』、生まれてから死ぬまで、いや時に死んだ後の運命さえ記されたその本の内容は、ストーリーテラーと呼ばれる存在に管理され、悠久の時を経て繰り返される。
人々は、己の運命に悩み、期待し、時に無念と、未来に続く意思を残す。
だが、自らの運命、また世界に絶望した運命の『主役』たちはその拭えぬエゴをもって堕落する。
カオステラー、繰り返された運命の癌細胞、混沌の渦に呑まれしストーリーテラーと主役の成れの果て。彼らは想区の運命を、書き換え、塗り潰し、破り捨て、無に帰す。
そしてここにもまた、運命を変えようとあがき、運命の破壊者となったカオステラーが、一つの想区を終わらせようとした。
ついに倒したぞ!!我が宿敵たる英雄を!!
カオステラーは、混沌の力を持って、自らを倒すはずだった英雄を返り討ちにした。
英雄の仲間たちも、カオステラーの尖兵たるヴィランに倒され、同様に地に伏していた。
カオステラーは上機嫌に言った。
「このまま世界を支配し、潰えるはずの野望を成し遂げる!!だがその前に……そこにいるのは誰だ!!」
カオステラーは咆哮し、物陰に隠れていた人影を飛びだたせる。
現れたのは、奇妙な二人組だった。
一人は、丈夫そうな皮のロングコートを着た幼い顔立ちの男だった。紫がかった青い髪と、左目につけた片眼鏡が特徴的であり、魔法使いのような雰囲気を持っている。
もう一人は、綺麗な銀の長髪をシンプルにリボンでまとめてある、男よりも幼く見える少女だった。白を基調とした、赤いデザインが映える服装をぎこちなく着ながら、カオステラーに怯えている。
「何だ…我が力が働かぬ。何者だ貴様ら。」
男がビシッと指差し、高らかに言う。
「空白の運命をもって、お前の夢を覚ますものだ!!」
空白の書
それはごく稀に現れる、特殊な運命の書の持ち主たち。ストーリーテラーの運命に縛られず、さまざまな想区を巡り、自らの運命を選ぶ力を持っている。
「まあ良い、貴様らも我が野望の糧となれ!」
クルルルルァ!とヴィランたちが雄叫びを上げる。
「ひぃ!ヴィラン来た!ヴィラン来たよクリウス!!」少女が悲鳴をあげる。
「よし!!いくぜメル!」クリウスと呼ばれた男が言う。
「いくって…何を…」
「…………逃げ回ってて!!」
「やっぱりいいいいい!!」
少女はワーワー叫びながら、小人型のブギーヴィランに追いかけられてた。
「さあ、
男はコートの裏地から小さな何かを取り出した。
それは厚みのある栞のようなもので、二つのハートの先端が向かい合ってる形をしていた。
男はさらにコートの裏ポケットから、二本の誰が見ても栞とわかるものを取り出した。枝葉のデザインと上についたリボンがわかりやすいものを。
その二本の小さな栞を、最初に取り出したもののハートの上から、差し込んだ。
カシンッ、という音と共に、栞のようなものの形が変化し、ハートが四つ合わさった、クローバーの形に変化しました。差し込んだ栞のリボンが、まるで剣を十字に交差させたような印象を持たせる。
「何だ…それは一体!?」
「『双剣の栞』さ、こう使うんだよ!!」
腰のベルトに吊るしてあった運命の書を取り、バラララっとページが走る。
真っ白な運命の書にカオステラーが気づいた時には、男はソレを書に挟んでいた。
「コネクト!!」
男の体が光に包まれ、現れたのは先程とは全く違う端正な顔立ちの少年だった。
「ああ、ジュリエット。君は美しき太陽。」
「一体全体、何なのだぁー!!」カオステラーはヴィランを放ち、自身もまた長く伸びた爪をふりかざす。
「ハァ!!」
とロミオは手にした長剣で薙ぎ払う、カオステラーの爪は弾かれ、ヴィランは吹き飛び、霧散した。
その後も大量のヴィランが放たれたが、ロミオは剣で防ぎ、切り捨て、時に蹴りを放ち、蹂躙していく。
「「言ったはずだ。お前の夢を覚ますと!!」」
ロミオと男の声が重なるように放たれ、カオステラーへと疾走する。
「「終わりだ!!」」
ノット・ア・ナイチンゲール
悲恋の闇を纏った斬撃が、カオステラーをいくつも捉えた。
「がああああっっ!!」
カオステラーは、がっくりとその場に膝をつき、倒れた。
再び体が光り、元の姿に戻った男が、先程の栞を元の形に戻し、中の栞を引き抜いた。
「お前の運命は、俺たちが持ってく。」
そう言って新たな小さい栞を取り出すと。それが光り輝き、カオステラーの体を包んだ。しばらくすると光が止み、そこにはカオステラーになる前の誰かがいた。
男は先程かざした栞を、いつの間にか側にいた少女に渡した。
「頼むぜ、調律。」
「わかった。頑張る!」
少女は先程の鬼ごっこでゼーゼー息を切らしながら、ゆっくりと深呼吸をし、よく響く声で栞に語りかけた。
「混沌の渦に呑まれし語り部よ、
我が言の葉によりて、この綻びを縫い止めん」
栞から緑の光がゆっくりと登って、空で弾け、想区を優しく包み込んだ。
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