脱出

そして…今…ここにいる…


「管理地」「建設予定地」と表示されている、古ぼけた看板の立つ空き地には、尚も小雨が悲しく、悲しく、降り続いていた。


すっかり暗くなった空、高く延びきった雑草に覆われた奥のすき間に1匹の野良犬の姿があった。


ボクは、今、とっても悲しかったあの時を思いだしていた。

むつみちゃんと、別れた瞬間を。


ボクとむつみちゃんとは、違う種類の生き物。


もちろんボクは最初から知っていたよ。

ニオイがすべてそう教えてくれていたからね。

むつみちゃんは、人間、そしてボクは、犬。


むつみちゃん、そして研究所の優しい人間たち、マサさんやウッキさんたちとの楽しい暮しは長くは続かなかった。


出来事は突然に訪れた。


あの日、人間の・お・と・こ・(オス?)の斎藤さんと定時の散歩から戻り、研究所施設に入ったその時!

一瞬で危険なニオイを感じとった。


マサさんやウッキさん達はゲージに入れられていた。

リールにつながれていなかったのはボクだけ。

危険なニオイに促されボクは走った!


逃げた!


そしてむつみちゃんから送られてきた、あの最後のメールを受取り、受信トレイに保存しながら一生懸命に走った…

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