ボクの願い

アンクロボーグ

空き地

『ボクの願い』


風雨にさらされ、塗料も剥げ落ち、誰も興味を示さなくなった古い看板。

「管理地」「建設予定地」との文字。


空き地には小雨が悲しく降り続いていた。

薄暗くなりかけた空、高く延びきった雑草に覆われた奥のすき間に1匹の野良犬の姿があった。


ボクは、とっても幸せだった、あの頃を思いだしていた。

むつみちゃんと、いつも一緒だった頃を。

ボクとむつみちゃんとは、違う種類の生き物。もちろんボクは最初から知っていたよ。

ニオイがちゃんと、そう教えてくれていたからね。

むつみちゃんは、人間、そしてボクは、犬。


でも…ボクが普通の犬では無いと知ったときは、驚いたけどね。

それは、むつみちゃんがボクをはじめて外へ連れだしてくれた時の事。

そこは、はじめて嗅ぐニオイだらけだった。ドキドキがいっぱいの


外 の 世 界


ボクたちは知性化された犬。生まれてすぐに処置を受ける。

ボクのような犬は、け・ん・き・ゅ・う・じ・ょ・の施設に他に9匹いて、ボクが最後の10匹目。

一番年下のボクのことを、他のみんなは、ちび、ちび、って呼んで可愛がってくれていた。

ボクらには、頭の後ろから首にかけて盛りあがった出っ張りが有り、自然犬とは、すぐに区別できた。

その出っ張りの中には、人間に近い思考を可能にしてくれる人工脳が植え付けてある。


生まれてから、しばらくして、ボクがボクという存在を認識出来るようになった時、最初に話しをした人間…が、むつみちゃんだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る