絶対彼女作らせるガール! あらかると

まほろ勇太/MF文庫J編集部

【第1話】プロローグ

「クラスのみんなと休日に遊びに行くことになった」


 僕――亀丸かめまる大地だいちがそう言うと、周囲に緊張が走った。


 ここは校舎三階の文芸部室、部員でもない僕らのたまり場の一つ。

 湯気の立つティーカップが並んだ丸テーブルを囲むのは、僕と三人の女の子だ。


「みんなで遊びに、ね。陰キャの割に成長したんじゃない。それじゃ、もうすぐ六月に入ることだし夏服を買いに行きましょっか。で、覚えてる? あの時教えた『服の選び方』。服選びで大事なのは、模様とか柄じゃなくて――」


 ツインテールの髪が華やかにつやめく。宝石のように輝く瞳が僕を見つめている。

 僕の右隣に座る小さく可愛い女の子の名前は、猪熊いのくまみりあ。

 制服カーディガンをお洒落に着こなした現役読者モデルの人気者で、服選びや髪のカット等々、美容に関する事ならなんでも知っているファッションのスペシャリストだ。


「布きれなどよりも、会話よ。多人数の会話では持つべき意識にコツがいる。それには以前貴方あなたに教えた『一対一の会話法』では対処が困難ではあるし――」


 夜空を溶かし込んだような黒髪が揺れる。吸い込まれそうな光を放つ切れ長の目がこちらを見つめている。

 黒ストッキングの長い脚を組み、僕の向かって正面に座るのは、鷹見たかみエレナ。

 この文芸部室の主、現役恋愛小説家にして会話のスペシャリスト、さらに前年度学園祭ミスコン一位の超絶美人でもある。


「「…………」」


 猪熊さんと鷹見さん。

 ファッションとトークのスペシャリスト。

 そんな二人が、むむ、とにらみ合った。


「まずは服よ。あとダメ丸の髪のセットも毎日すごい不安定だからそれも」

「まずは会話よ。この足置きは、みんなが会話しているのを尻目に、愛想笑いで途方に暮れるしかないのだろうから、こちらの調教が先」


『ダメ丸』

『足置き』

 そんな愉快なニックネームで僕を呼んでくれる二人だけど、いざ僕にお洒落や会話の指導をする時になると、恐ろしく真面目にもなる。

 ほんと、お節介な悪魔というか天使というか。ただまあ、この二人にけっこう救われたんだ僕は。だから一応、天使と呼ぶべきなんだろうな。


 しっかしこの二人、まだにらみ合ってるな。気づくといつも張り合ってるんだこの二人は。


「――大丈夫! 亀丸くんならぜったいに出来るよ!」


 ぱっと明るい声に、みんな視線を向ける。


 そこには笑顔。

 それもただの笑顔じゃない。陽光に透けると金色を帯びる髪ともに、ぺかーと後光を放つような、まさに女神の笑顔があった。


 白星しらほし絵馬えま

 この子こそが、スペシャリストな天使たちをまとめるご本尊だ。

 いつもわくわく楽しそうに輝く大きな瞳、生命力にあふれた瑞々しい白い肌、細い身体だけど出るべきところには奇跡の果実が実ったような完璧な体形。

 白星さんはこの学園における一番の美少女で、さらに「その手のひらに願いごとを書くと叶う」と噂される、通称『必勝の女神』としても有名な女の子だった。


「うんうん! 亀丸くんならそのままでも大丈夫だよ! だって亀丸くん格好いいし! 話してるとすっごく楽しいし! みんなぜったい亀丸くんのこと好きになってくれると思う! だって、わたしは亀丸くん大好きだし!」


 甘い匂いを振りまきながらずいずい迫ってきて、最高に突き抜けた全肯定。

 白星さんは「必勝の女神」の二つ名だけでなく、その性格自体、女神みたいに優しい女の子だった。

 どんな人間相手でも分け隔てなく優しいと学校でも評判で、手のひらに願いを書く必勝のジンクス抜きでも『女神さま』とみんなに呼ばれていたりもする。

 ただしこの女神さま白星さんは……僕に対してだけは、ちょっと特別扱いで。


「でも、心配だったらわたしと遊びに行く練習する? えへへ、デートみたい。わたし、亀丸くんとデートしたい! いつ行こっか? わたしは亀丸くんとデートするならいつでも予定つくるし! えへへ、楽しみ♪」


 わくわく頬を染めて、うるんだ瞳の熱視線。

 まるで恋人みたいなイチャイチャ言動だけど、実際に白星さんが僕の彼女であるとか、僕の事を好きだとか、そういうことではなかったりする。


「手のひらに願いを書くと叶う」というジンクスでなにかと話題になる白星さんだけど、彼女にはある隠された特性があった。


『女神スイッチ』


 白星さんに向かって『ある言葉』とともに願い事をしたが最後、その願い事を叶えるまで白星さんは止まらない。お願いしてきた相手にスーパー感情移入、全身全霊をかけて、手段を選ばず相手の願いを叶えにくる。


 そのための行動が、イチャイチャしてくるように見えるだけであって。

 白星さんが僕のことを好きだとか、決してそういう事ではないんだ。


 つい数週間前の事だった。

 幽霊みたいな陰キャラだった僕は、偶然、白星さんに『ある言葉』をかけてしまい女神スイッチが起動。それをきっかけに僕の学園生活は短期間で激変した。

 しかし、僕自身の問題はいろいろ解決されたものの、目的の一つだった白星さんの女神スイッチ解除には至らず……イチャイチャ状態のまま、今に至る。


 ――今から語るのは、女神な白星さんと僕、そしてみんなの、日常の物語。

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