焼失する矯飾
逆傘皎香
1.紅炎より生ずる
炎よ。どうかこのまま、私を染め上げてくれ。その深紅の中に、私を受け入れ、一つに。私と貴方を一つに。
身体が灼けていく。炎に溶けて、融け落ちていく。混じっていく。
足が灼けた。腹が、肩が、首が灼けていく。さぁ、我が脳を喰らい、私をその内へと取り込むのだ。この時をずっと、待っていた。嫌悪すべき空気の中で、この瞬間を、焦がれていた。
歓びにより無意識に発していた笑い声は、咽喉が灼けたのか、脳に炎が回ったのか、それとも、心が灼け尽くされたのか、それがもはや音となってその場に響くことはかなわなかった。
私を燃やす音だけが、空気を揺らしていた。
いつも通りの日々を、いつも通り過ごしていた。他人のすることに、自分の気持ちを押さえつけて看過し、それによって生まれる行き場のない感情も殺し、連鎖的に生じる虚無感と脱力感とをよく覚えている。
いや、以前のことは、それ以上覚えていないというのが正しい。あの鮮烈な事象の前に、ほとんどが色褪せて感じられる今では。何にせよ、私を刺激し変えるものは何もなかった。
心に響く詩も、心を動かすような音楽も、心を変えるような絵画も、出会うことはなかった。周りが世界一だと決めた作品を見た時の感想も覚えていないし、どんな作品であったかも思い出せない。多分何とも思わなかった気がする。今でも、それらは「形の整った何か」でしかない。
あれは冬の夜だった。雨交じりの雪が降っていたのを覚えている。肩に落ちるのと同時に融けて水になるような雪だった。だが、ここでのイメージは負の黒や青ではなく、高揚の赤だ。
冬の夜の寒さも、濡れる冷たさも、自分自身の確かさでさえも、目の前に広がる紅き光の大海に呑み込まれてしまっていたからだ。雨も雪も、それを打ち負かし、私との世界に入るのは不可能だった。
炎に見つめられていた。その感覚が確かにあり、それはその時から今まで私の中に存在して私の原動力となっていた。目を見られて何かを語られるのは幼少の頃以来だった。何を語られたかは、言葉にすることができないが、私を魅入らすのに十分だった。
瞳は鏡のように紅の光を反射していたと思う。炎がすべての真実であり、同時にすべての神秘であることが理解できた。
炎の中、全てが灼けていく中で、一枚の絵画が見えた。
白いフレアのワンピースに、麦わら帽子を被った少女が、青空と草原に立ち、風に飛ばされないよう帽子を押さえている。
炎は、草原のある地から、少女の白い足、ワンピースと絵画を染めてゆき、何の面白みもない絵画でさえ隔たりなく最高の芸術へと昇華していく。
夜の間中、炎が人間の業を蹂躙していく様子を見ていた。
その後、いつか私も炎の中へと溶け合えたら、あの少女のようになれたらどんなに素敵だろう、と思うようになった。
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