父、幽霊になる

@noritaka1103

第1話 あの日の出来事

東海地域を連休を利用し出掛けたその帰り道に悲劇が起こってしまった。

静岡県から自宅のある埼玉県へ向かっていると前方から一台のトラックが迫ってきた。

「帰ったら、その饅頭食べような!」


この一言が最期の言葉だった。

次第に異変に気づき、とっさにハンドルをきったがトラックは前から減速することなく突っ込んできた。

その瞬間、身体が宙に浮いたような感覚が微かにあった。

その後、車から飛び出し道路に胸を強打。


即死だった。

妻や子供も大怪我を負ったが助かった。

しばらく、死んだという事に対して受け止めることが出来ず葛藤した。

「オレ、本当に死んだんだな。」と思ったのは死後から5日後の葬儀の日だった。

今でも、逆走してきたトラック運転手には憎んでいる。

葬儀には同僚や学生時代の懐かしい友人も参列してくれた。

「高校の卒業式の時、こっそりお前の大事にしていたキーホルダーを盗んでしまいました。ごめんなさい!」


高校時代、共に部活で汗を流した親友の太郎が打ち明けてくれた。

「あのキーホルダー、太郎が持っていたのか。なくしたと思って、同じもの買っちゃったよ!」


同僚たちは泣いていて、何も言わなかった(言えなかった)。

ちなみに家族は事故で怪我をしたため母が代わりに葬儀の準備と喪主を務めてくれた。

「アンタがハンドルをきっていなかったら、助手席に座っていた理奈さん(妻)も亡くなっていたかもしれないと言っていたよ。

家族を守ったんだよね?偉いよ。」

母の言う通り、あの時は反射的にハンドルをきったのを覚えている。

正義感というものが働いたのかもしれない。


そして、火葬される自分を見て「やっぱり、死んだのか。」と改めて思った。

自分が火葬中、参列してくれた、母や同僚たちは皆で談笑していた。

心の中で「仲間に入りたい!一緒に談笑したい!」などと思った。


その後、怪我で葬儀に出席できなかった、家族の元へ向かった。

子供達は、事故後の2時間後あたりに意識を取り戻したようだが、助手席に座っていた妻の理奈はしばらく昏睡状態だったらしい。

オレの次に危なかったらしく、死の間際まで行っていたらしい。


あれから、二週間後に家族は退院することができた。

特に事故の後遺症も無かったが精神的なショックで自宅に帰れた後もみんな寝ていた。

形見となる、仕事のカバンや携帯などは押し入れの奥にしまわれていた。

「これ(仏壇)を見ると事故を思い出してしまうからしばらく、お父さんの遺影だけでも置いて置きましょう。」


事故を起こしたトラック運転手も怪我をし入院していたそうだが数日後に退院し逮捕されている。

どうやら、居眠り運転をしていたらしく車線をはみ出してた上、法定速度を大幅に超え走行していたようだ。

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