魔女の相棒
鋼雅 暁
第1話 出会った日
あの子を拾ったのは、南国にあるあたしのプライベートビーチだった。
ん? なぜ魔女がプライベートビーチなど持ってるのか、って? それはね。あたしが、「魔法コンサルタント」として大人気だから。
聞きなれない職業だろうけれども、魔界と人界のトラブル、魔法事故、魔法動物関連の専門家でね、たぶん、あたしが先駆者だ。魔界からも人界からも仕事の依頼がひっきりなしなのさ。
あたしのプライベートビーチに観光客が迷い込むことはよくある。
たいていは飽きれば帰るから放置。ゴミ? そんなものは、あたしが杖を振ればたちまち消え去るから問題ないのさ。
けれども、夕方、子供が一人で泣いているのは放置できない。
あたしは、子供を無駄に驚かせないよう、魔法使い協会指定の黒い制服制帽を脱ぎ、同じく協会指定の黒いビキニに着替えた。かなり面積が小さな水着、なかなかセクシーだ。さらにあたしは、パチンと指を鳴らした。あたしたち、魔女のイメージを保つためにしわしわの老婆の格好をしていたが、子供を怖がらせてしまうし、セクシーなビキニが似合わない。そのため、魔女は魔女でも美魔女に変身してみた。
「よし!」
夕陽の名残が微かに照らすビーチへおりると、砂の上にぺたんと座る子供がいた。暗くて顔はよくわからないが、5歳くらいだろうか。男の子だ。
「どうしたの? パパやママは?」
出来るだけ優しい声をかけて、子供のそばに座り込む。顔を覗き込みながら背中を摩り……手のひらから、子供の情報をスキャン。流れ込んできたデータを見て、あたしは内心、困っていた。
――この子人間、じゃ、ない?
悪魔族の子。幼体なのに完璧に人間に変化しているあたり、相当格の高い悪魔だろう。おそらく、両親ともに悪魔の純血種。
ならば、自力で親元へと行けるはず。
「親は、どうしたんだい?」
「……い」
「え?」
「いない、ぼく、かあさまに捨てられた。ぼく、いらないこ」
だから親元へは帰れない、か……。子供は、ぐすぐすと泣く。
あたしは、目の前で泣きじゃくる子供を抱き寄せながら、ため息をすんでのところで飲み込んだ。
昨今魔界で問題になっているネグレクトか。はたまた、新しい恋のために子が邪魔になって捨てたか。
いずれにせよ、親に捨てられた子がひとりで生きていくのはどの種族でも大変なことだ。昔のように、何かとおおらかな時代なら――天使や悪魔に寛容だった時代なら、悪魔の子や天使の子が、人に育てられることもあった。
しかし今は違う。少しでも人界にそぐわなければすぐに異端児扱いだ。下手すれば通報されたり、糾弾されたりしてしまう。
「辛かった……ね」
「かあさま、なんて、きらい」
深く考えることなくあたしは、腕の中の男の子に声をかけていた。
「しばらく、あたしのところで暮らすかい? あたしは……普通の魔女でしかないけれど、悪魔族やそのあたりに詳しいからなんとかなる、と思うんだ」
「しばらく……どのくらい?」
「あ、え、えーと……きみの親が迎えに来るまで」
少年は、濡れた黒い瞳であたしを射抜くように見つめた。さすが悪魔、鋭くて痛い。しかしあたしは、それから逃げなかった。信じていいおとななのか、そうでないのか、子供なりに見極めようとしているのだと感じたからだ。
「わかった。ぼく、いく。ママの子に、なる」
「ま、ママ!?」
ぐりぐりと体を寄せて来る子を抱きしめ、しかしその温もりに安堵したのは――しかし、あたしの方だった。
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