すれ違うだけの女

女の瞳は埋み火に静かに燃えて

黒真珠はぬらぬら、と鈍く光る


そんな女と毎夜、すれ違う

駅のホームで僕が乗り込む

列車から女は降りてくる


猫背気味で倦んだ気を発散させ

地を滑るように、這うように

黒真珠がぬらぬらと僕をみた


あの鈍く光る黒瞳は井戸のようで

僕はその井戸の暗がりに見たのだ

何を?


女の瞳を見た夜は決まって

焦げ臭くなるほどに煎った豆を

細やかに細やかに挽いて泥のように

濃いドリップで

悪魔のように黒く

地獄のように熱く

天使のように純粋な液体を喉に

流し込み塗り潰そうと足掻いて

震えるのだ、希望はとうに絶え果て


あれはわたしの魂の片割れで

ないのか


女の瞳は埋み火に静かに燃えて

黒真珠はぬらぬら、と鈍く光り

渇き飢えていた、底なしの井戸


あの井戸の暗がりを覗けば

そこにはわたしの顔が……


あゝ、ぬりつぶせ、ぬりつぶせ

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