あてどもナシ

明日の飯代にもならない

千羽鶴を頂いた


町へ、町へ、町へ


何処かで汽笛が鳴った

耳鳴りががやり出す


くもの群れからは雪がこぼれ落ちてきて

雨ざらしの洗濯物は

はためくばかり


鶴を一羽置いて、わたしは歩く


路上の薄雪には無数の足跡が往き交い

車は見えずバスストップのベンチは

空いている

十字路には猫の鳴き声が残され

コンビニには清潔な明かりだけ


鶴を一羽置いて、わたしは歩く


商店のシャッターは落書きだらけ

誰も見ない掲示板に貼られた沢山のポスター

いつかタバコ屋だった空き地は均され

誰も潜める余地は無くなっていた


わたしは歩く

河川敷に降りて行く

彼岸は遠くまだ遠く

どう渡ればよいのかと途方に暮れる

橋の下にドラム缶はぽつんと座り込み

暖かな火を抱いてちろちろと舌を出す

千羽鶴を投げ込むと

灰が舞って風に巻き上げられた

火はわたしの視線に燃え移り

町は静かに焼却されて

耳鳴りも尽きていく


甘やかな匂いと騒めき

突き出されるカップ酒と手

雪は唸り声をあげ歌っている

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