1匹目 お困りですか?
僕は
そんな僕はかれこれ社会人3年目となったが未だに、仲いい同僚というものができていない。それに、仕事も怒られてばかり。いい加減勇気を出さないといけないのに、自分のことで精いっぱいで、話しかけられない。こうなったのも自分のせい、と思いつつ仕事をしていると、
「・・・い、歩紋君、おい!!歩紋君!!来たまえ!!」と上司が叫んでいるが聞こえて、僕はすぐ様飛んで行った。
「君、何のためにこの会社に来たんだね!ちゃんとした仕事もせずに!いいかね、クビだ、クビ!」
なんてことだ。ちゃんと仕事をしていたつもりだったんだが、上司にはそうは見えなかったのか。悔しい。皆がこっちを見ている。視線が背中に突き刺さる。こうなれば、他の仕事を探そう。
自分のデスク(もう僕のじゃないが)に戻った僕にみんなが憐みの目を向ける。そんな大したことじゃないのに可哀想という目で見ないで欲しい。隣の山川君が一番激しかった。泣いている。
「ぐずっ・・・ねえ、ほんっっとに辞めちゃうの?・・ぐずっ」
お前は女子か。と言う前に今まで関わりなかったくせになんてことをしだすんだ。どうせ、女子ウケだろうな。《優しい山川君❤》とか思ってんだろうな。そんな奴に辞めて欲しくないなど言われたくもないし、喋りたくもない。
山川君を無視し(女子の目が怖いが)、一人黙々とデスクを片付け、上司の元へ行き、
「今まで、お世話になりました。新しい人が働き者であることを願います。ありがとうございました。」と吐き捨てるように言った。上司の顔が引きつっている。すぐさま、「ま、まだ、1日居ていいんだぞ?」と焦ったようにように言うが、
「いえ、居ても、会社の利益に一つもならないと思うので辞めさせていただきます。明日、お菓子を送ります。皆さんで食べてください。」
よし。さ、すぐ帰ろう。ツカツカと会社を出ていく。ふと、デスクを見ると山川君だ。もう泣いてない、しかも前の女子をナンパし始めている。やっぱり女子ウケのため。うっとうしい奴だ。
会社を出て、家に直帰した。それまでに会社から何件もの電話がかかってきた。もちろん全部無視している。誰が電話に出るものか、と意地をはっていた。
帰って、私服に着替えて、街に行くことにした。着替えている間も電話が鳴りやまない。うっとうしい会社に就職してしまったもんだ、とため息をついた。
街に着いた。その辺の喫茶店のコーヒーを手にし、独りぽつんと噴水の枠に座っていた。ここは楽しくできるはずの場所。毎回来て、テンションが上がっているのに今回ばかりはテンションが上がらない。当たり前だが。
僕は誰も聞いてくれてないと思いつつ、小さい声で
「…会社を辞めて何をしよう。」とつぶやく。本当に何がしたいんだろうか。いや、何もしたいことが無い。学生の頃はいっぱいあった。夢も希望もあった。今はもう、夢どころか生きる気力すらもない。そうだ、生きる価値が無いんだ。そう思って、しばらく子供の遊ぶ姿を見つめていると、「・・・あ、そうだ」と思いついて家に帰った。
帰ってきて、パソコンを開いて、ネットにつないだ。調べることはただ一つしかない、《自殺の名所》。
調べてみると、色んなところが出てきた。ここの近くは、よく釣り人が来るF川。よく釣れるらしい。・・・じゃなくて、何で自殺の名所か。ほう、崖があるのか。よく人が自殺して、崖崩れもあって。自殺とか人殺しには十分なところだな。よし、ここに決めた。
「そこまでの道は・・・」
うわ、予想以上に近い。僕はそんなところで暮らしていたのか。
まあ、細かいところは気にしないで何来て行こうか。恥ずかしくないスーツか見つかっても解剖しやすい普段着か。人には優しくしよう。親切心で普段着かな。
一人で寂しく用意をしていると、親から電話がかかってきた。
「あんた!会社やめたってホンマか!」
本当にこの母親は悩んでいる子供に対して気づかいというものが全くない。
「・・・ああ、そうだよ。誰から聞いたの」
「あんたの会社の上司だよ!あんたが会社出てから連絡つかへんって電話あったで!」
「もういいよ、この会社やめたかったし、もう切るよ?今から出かけるんだ」
「なんやて!自殺だけはあかんで!」
すぐに電話を切った。まったく、この親は感が良いのか悪いのか。とにかく急ごう。一刻も早くこの世から出たい。
その一心で急いでF川に向かった。
F川までは歩いて行ける距離だ。だから歩いて行く。スマホのアプリで位置を確認しつつ、歩いていると、いい香りがしてきた。しかもどこか懐かしい匂いだ。匂いが一番強いところで止まってみた。すると、横に店があった。
「え?こん・・なところに・・・店・・?」
初めて見る。なんだこの店、と思って看板を見るとネコネコ学食と書いてある。
「は?ね・・こ・・?」
それに、よく見てみると店のドアに「あなたの心、学生に戻して、癒します。ただし、犬派はお断りします。」と書いてある。ネコカフェのようなものか?とひとり延々と考えていると後ろから
「どうかしましたにゃ?お困りですかにゃ?」と猫耳?を付けた(と言うより生えている)男性が立っていた。可愛い系男子に部類されそうだな。と思いながら
「え、・・・い、いや」と言葉を詰まらせていると
「お客様ですかにゃ!?大歓迎です!ひとつお聞きしてもよろしいですかにゃ?」ときらきらした目で見つめてきたので半信半疑のままうなづいた。
「お客様は猫派ですかにゃ?」と元気に聞いてきた。
「え?ま、まぁ・・」何が何だかわからないまま答えてしまった。すると男性はきらきらした笑顔で「いらっしゃいませ!ですにゃ」と僕を無理やり店に押し込んだ。
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