第251話 協定違反にはなってないからね
昨夜は殆ど寝れなかった。
藍を選ぶべきか、それとも唯を選ぶべきか、どうすれば選ばなかった側が素直に受け入れてくれるか、考えれば考えるほど泥沼に入り込んでいく気がしてきた。
だから今朝も母さんが俺の布団を引き剥がして・・・ではなかった!
「「起きろー!!」」
いきなり床に蹴落とされて俺は無様に転がった!そう、藍と唯が二人掛かりで俺を起こしに来たのだ!
「たっくーん、いい加減に起きなさい!」
「そうよそうよ、遅刻するわよ!」
俺は寝ぼけ眼で二人を見てたけど、二人共口調は厳しいけど顔は笑っている。
「おい、これってどういう意味だ!」
俺は二人に抗議したけど二人とも俺の抗議を無視して笑っている。というか「起きてこない奴が悪い」と言わんばかりの態度で笑っている。
「どういう意味って言われたってさあ、たっくんを起こしに来たにきまってるじゃあないの!」
「そうよ、いつも通り目覚ましが鳴っても起きないからお義母さんがキレ気味に起こしにいこうとしたから『私が代わりに起こしてくるね』と言って起こしに来ただけよ!」
「お姉さん一人で起こしに行くとぜーったいにエッチな事をやるって分かり切ってたから唯も来たんだぞ」
「あらー、そんな事ないわよ。普通に起こすつもりだったわよ」
「その『普通』っていうのはどんな起こし方なの?」
「えっ?そ、それは・・・(^_^;) 」
「あーー!ぜーったいにエッチな事を考えていたんだあ!」
「そ、そんな事はないわ。普通に『起きてくださーい』って言うつもりだったわよ!」
「その割には冷や汗をかいてますけど」
「うっ・・・(^^ゞ と、とにかく拓真君、お義母さんがキレてるから早く降りた方がいいわよ!」
「あーあ、上手く逃げたわね。ま、今日は大目に見ましょう。二人同時に起こしたのは事実だから協定違反にはなってないからね」
おいおい、マジで勘弁してくれよお。こんな事を毎日やらされたら俺は朝からゲッソリさせられるぞ!とにかく、早く決めないと毎朝こんな事をさせられるっていう恐怖体験(?)をさせられたのは間違いなーい!これがエスカレートする前に決めないと・・・いや、これがエスカレートしないよう、俺が目覚まし時計で起きるクセをつけないと駄目だ・・・
「「「行ってきまーす」」」
俺たち三人はいつも通りの時間に家を出た。
今日は三人での登校だ。でも、藍と唯は協定があるからなのか、二人揃って俺の前を歩いている。いや、二人が俺をけん制し合っている感じで何も喋る事なく俺の前を並んで歩いていると言った表現が正しいかもしれない。
だが、ここで俺はハッ!となった。もし唯が朝の風紀委員担当で昨日のようにいなかったら・・・朝から藍は俺にちょっかい出し放題だ。しかも半ば唯も黙認しているのと同然だ。
い、いや、違う!今日の放課後の藍は生徒会、唯は風紀委員会があるから大丈夫だけど、明日は藍だけが生徒会があるから唯の放課後は何もない!だから藍よりも先に唯がちょっかいを出してくる!何とかしないと・・・
篠原と長田に言って無理矢理クイズ同好会の活動日にしてもらうしか・・・い、いや、考えてみれば篠原は既に藤本先輩の軍門に下ったから藤本先輩には逆らえない。相沢先輩の出方次第では俺たち以上の修羅場が待ってるから篠原に頼むのは無理だ。長田は長田で完全にラブラブモードに入っていて、昨日だって学校帰りに黒沢さんと二人揃ってマイスドで飲茶していたらしくてラブラブで自撮りした写メを送りつけてきたくらいだ。しかもワザとらしく「早く決めろよー」というタイトルで送り付けてきやがってマジでキレそうになった!
泰介と歩美ちゃんにダメ元で話してみて・・・い、いや、たしか明日は歩美ちゃんの同好会だ。泰介は絶対に歩美ちゃんの同好会が終わるまでは校内に残ってるけど、終わり次第二人揃って帰るはずだ。校内に残っていたら唯に見付かって即アウトだから無理だ。
俺は一歩進むごとに体が重くなっているような錯覚を覚えた。早く何とかしないと・・・
“♪♪♪~”
はあ?朝からメールかよ!?しかもこの音は・・・
『まさかとは思いますけど、朝から修羅場モードですか?いつもの時間のいつもの車両に乗らない方がいいですか? 舞より』
はー・・・やっぱりそうだよな。昨日の出来事を知ってるから誰だって二の足を踏むよな。でも今朝は大丈夫だ。一時休戦中だから今まで通りの時間に乗っても大丈夫だからメールで連絡して・・・
“♪♪♪~”
はあ?今度は誰だあ!・・・中村かよ!?しかも『おーい、神谷や福山だけでなく他の連中からも「いつもの時間のいつもの車両に乗っても大丈夫か?」というメールが殺到しているから教えてくれ』だとお!
はー・・・恐らく内山も同じ事を言ってくる筈だ・・・仕方ない、内山と中村にも同じ内容で送信して・・・
あーあ、マジで朝から気分が重くなるぞ。早く何とかしないと・・・いや、早く藍と唯のどちらを選ぶかを決めないと俺自身が潰れそうだ。
いつも通りの時間の東西線のいつも通りの車両に乗り込んで、藍と唯はいつも通り俺の前に座って俺は立っていて・・・束の間の休戦で修羅場よりはマシか・・・いや、こんな日が続いたら間違いなく俺の方が壊れる。決着を急ぐべきだ。
「おはようございます・・・」
次の駅で舞が恐る恐るという感じで乗り込んできたけど、完全に腰が引けている。藍と唯はニコニコ顔で舞を迎えたから逆に舞がビビっているくらいだ。
「あのー・・・ホントに休戦中なんですか?」
「本当よ。昨日はごめんなさい」
「唯も謝るよ。色んな人に迷惑をかけちゃったからね」
「あー、いえ、わたしは気にしてませんから」
「とにかく登校したら教頭先生と校長先生に真っ先に謝りに行ってくるよ」
「私も唯さんも朝から謝罪行脚になるのは間違いなさそうね」
「そうですか・・・拓真先輩に一任と解釈していいんですか?」
「うーん、そういう事になるよ」
「その解釈で合ってるわ。とにかく、拓真君が選んだ方が彼女、選ばなかった方は単なる義姉もしくは義妹という事になる約束をしたわ。これはみんなに宣言してもいいわ」
「分かりました。わたしも藍先輩と唯先輩の判断を尊重します。あとは拓真先輩がお二人のどちらを選ぶかを見守るだけですね」
「たっくんはぜーったいに唯を選ぶに決まってるよ」
「そんな事はないわ。拓真君の隣に立つのは私よ」
「藍先輩、唯先輩。拓真先輩の顔が引き攣ってますから暫くは静観していた方がいいんじゃあないですか?」
「それもそうね。唯たちが決める問題じゃあないからね」
「拓真君、早く決めてね」
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