第228話 はあ!?そんな昔にかよ!

「はあ?じゃあ、それ以前に3回会ってるのかあ!?」

「そうだよー」

 おいおい、マジで勘弁して欲しいぞ。入学試験の前に3回も唯に会っていたなんて、俺は全然覚えてないぞ。それに藍の時だって最後はアルバムが決め手になって3回会って・・・アルバム?・・・もしかして・・・

「・・・あのさあ、唯はもしかしてアルバムを調べたのか?」

「ピンポーン!まあ、正しくは3日前に何気に昔のアルバムを見ていたらたっくんにソックリの男の子と唯が一緒に写っている写真を見付けたんだよねー。それでお義母さんに昔のアルバムを出してもらったら、見事に同じ写真が出て来たからねー」

「そうだったのか・・・」

「お義母さんも唯から写真を見せられるまでは忘れてたみたいだよ。だから慌ててアルバムを引っ張り出してきたくらいだからね」

「へえ」

「あー、でも、藍さんは知らないよ。家の中には唯とお義母さんしかいなかったから」

「それはそうと、いつ会っていたんだ?」

「一番最初はお互いにまだオムツをしていた時だよ」

「はあ!?そんな昔にかよ!! ( ゚Д゚)」

「うん、ひいおばあちゃんの十三回忌の時。唯もたっくんも2歳の春だよ。さすがに遊びたい盛りの子がいると読経の迷惑になるから一室で親戚のおばさんが唯とたっくんの二人を見ていたんだよね。その時に撮った写真がお互いのアルバムに残っていたよ」

「まあ、たしかにそんな小さい子がいたら迷惑だろうな」

「2回目は幼稚園の年少組の時。さっぽろ雪まつりに実は一緒に行ったんだよね。唯もお義母さんも全然覚えてなくて、大雪像を背景にして唯とたっくんが手を繋いで二人で撮った写真をアルバムで見付けた時に、お互いに『えー!』って叫んだくらいだよ」

「そうだったのか・・・」

「この時にはビデオも撮っていたからそっちも見たよ。ビデオには撮影した日と時間が入ってるから年少組の時だというのが分かったんだよ」

「へえ」

「3回目は幼稚園年長組のゴールデンウィークの時。一緒に桜の花見に行ってるんだよ。さすがにそれ以降はアルバムを探しても出てこなかったから会ってないはず。まあ、道端ですれ違った可能性はゼロではないけど、記録が残っているのはこの3回だけだよ」

 し、知らなかった・・・という事は、藍も唯も親戚であったと同時に広義の意味で言えば幼馴染でもあったんだ。しかも、唯に会っていたのは藍よりも前の事だったんだ・・・藍とも唯とも疎遠になってしまったから同じ高校の、ましてや同じ特進コースに通うなどという情報が無かったにも関わらず偶然一緒のクラスになったに過ぎなかったんだ。

「・・・あのさあ、唯」

「ん?なーに?」

「唯は昔に戻りたいと思った時があるのか?」

「うーん・・・唯は昔に戻りたくないし、先にも進みたくない」

「へ?」

「唯が覚えている限り、お爺ちゃんは体が丈夫な人ではなくて入退院を繰り返していた。お婆ちゃんは健康だけが取り柄だったみたいな人だったけど70歳の声を聞いたら急に衰えた。その二人の子であるお父さんは健康診断やドックで一度も引っかかった事がないくらいの人だったけど突然死した。お母さんは唯が小学校5、6年生の時から入退院を繰り返すようになった。昔に戻るという事はそれを再び繰り返す事になるから戻りたくない。でも、唯はお父さんとお母さんの子だから、病弱になるか突然死するか、どちらかの道は避けて通れない。だから先にも進みたくない・・・」

「・・・・・」

「あ、ゴメン。こんな場所で話す事ではなかったね」

「あー、いや、こんな場所でこんな質問をした俺が悪い。唯のせいじゃあない」

「まあ、こう言うと失礼だけどお父さんは心労と過労が重なっての過労死の可能性が高いんだ。けど、直近の勤務とか仕事内容では立証できないから泣く泣く諦めたというのもあるけど、53歳で亡くなったんだよね。元々お母さんは36歳の時に唯を産んでるから二人共50代前半で亡くなったという事は唯はその程度までは生きられると思うから悲観する方がおかしいから気にしないでね」

「・・・・・」

「おーい、こんな話はもう終わりにしましょう」

「そうだな」

 たしかに重たい話になり過ぎた。すべては俺がこんな話に誘導した事にあるのだが、唯に辛い過去を思い出させてしまったのも事実だ。

 気を取り直してたこ焼きを・・・はあ?俺は1個しか食べてないのにもう残ってないだとお!?

「ゆーいー、お前さあ、半分ずつと言いながら何個たべた?」

「あれ?唯は半分しか食べてないよー。きっと幽霊が食べたんだよ」

「失礼な事を言うなよー。もうすぐお盆だけど不謹慎だぞ」

「まあまあ、そう固い事を言わないの」

「はー・・・わーかった」

「あー、そうだ、唯はフレンチドッグが食べたいなあ」

「はあ?たこ焼きの次はフレンチドッグかよ!?」

「あー、これなら独り占めできないから大丈夫だよ。どうせたっくんはケチャップだけど唯は砂糖だからね」

「佐藤さんだから砂糖ですか?」

「たっくんに座布団1枚!」

「そんな事を言っても払わないぞ」

「えー、そんなあ。いいでしょ?」

「だーめ」

「あー、そうだ、アメリカンドックは和製英語なんだよ。アメリカではコーンドッグと言うんだよね。でも何故か北海道では魚肉ソーセージにホットケーキの生地をつけて油で揚げて砂糖を塗して食べる物をフレンチドックって言うんだけど、これも当然だけど和製英語だよ」

「篠原みたいに雑学の知識を披露したら俺が金を出すとでも思ったのかあ!?」

「ケチ!」

「まあ、今日はいいや。でも、今日だけだぞ」

「ヒャッホー!」

「その代わりたこ焼きのゴミは自分で捨ててこい」

「了解であります!」

 やれやれ、相変わらず唯は「兄貴から金をせびる妹」だよなあ。これはこれで勘弁して欲しいぞ。

 俺と唯はほぼ同時に立ち上がった・・・


 ポツリ、ポツリ・・・

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