第211話 もう後には引けない
昼休みに泰介が校内の優勝予想の人気順を教えてくれたが、佐藤三姉妹と相沢先輩・藤本先輩・村山先輩のチームがほぼ互角で、両チームが一番人気を分け合っていると言ってもいいだろう。3番人気が『新旧生徒会の苦労人トリオ』、意外にも4番人気が土方先輩、折茂先輩、上野先輩のチームで俺たちは5番目らしい。上位3番目までは分かるが、4番人気は校内随一のイケメンと言われる土方先輩個人の甘いマスクから来る三年生女子の希望的観測なのは間違いなさそうで、泰介や歩美ちゃんも言ってたから実質俺たちは4番人気だ。でも、俺たちが校内ではその程度の評価でしかないのは正直ガッカリだ。実際、俺たちの次に人気なのが唯派会長・副会長トリオらしいのだが俺たちを含めて残り9チームは殆ど同列の扱いに等しいというのだから正直悲しい。その理由が2回戦にあるのは間違いない。誰も俺たちが決勝に進めるとは思ってないという事だ。
いよいよ決戦の時がきた。
6時間目が終わりショートホームルームも終わり、俺も篠原も長田も小ホールに向かったが、既に昼休みのうちに平川先生と松岡先生、それに山口先生の三人が準備を整えていて、俺たちは指定されたテーブルの前に立つだけだ。
俺たちが行ったら既に松岡先生は待機していたが、他の出場者は誰も来てなかった。観客も既に来ていたが、ホールを埋め尽くすほどには来てない。この程度の人数だけで終わるのか、それとも小ホールに入りきらない程の人が来るのか、それは分からない。
「よお、お前たちが一番乗りかあ。自信はあるか?」
「勿論ですよ。俺たちの為に最高の舞台を整えてくれた松岡先生には感謝してます」
「悪いが審判長だからお前たちを
「構いませんよ。おれたちクイズ同好会が最強だという事を見せつけてやりますから」
「しのはらー、今日のお前はいつになく強気だな」
「ここで負けるようならクイズ同好会の名折れですよ。悪いけど相沢先輩と藤本先輩では拓真と長田に比べたら数段劣りますから、そんな人と組んで全国制覇できるなら苦労しませんよ」
「おーおー、本人たちが聞いたらどういう反応するか見てみたいな」
「松岡先生、まだ来てない人の反応を見ても仕方ないですよ」
「しのはらー、お前のすぐ後ろにいるのに気付いてないのか?」
「「「えーーー!!!」」」
俺たち三人は恐る恐る後ろを振り返ったら、そこには相沢先輩と藤本先輩、それと村山先輩がいて、特に相沢先輩と藤本先輩はニコニコはしているが明らかにコメカミがピクピクしている。今の篠原の発言に激怒しているのは間違いなさそうだが、あくまで『挑発』として受け流そうとしているみたいだ。当然だが篠原は顔を真っ青にしているし、長田は早くも逃げ腰だ。俺も多分顔色が悪くなっているはずだが、自分で自分の顔が見れないのが辛い。
「ま、まきー、挑発に乗ったら負けよねー」
「そ、そうだよなあ」
「弱い犬ほどよく吠えるって言うからねー」
「みさきちー、いい事を言うなあ」
「しのはらくーん、別に発言を撤回しろとは言わないけど、本当に劣ってるかどうか、その身で判断してねー」
「みさきちの言うとおりだぞー」
それだけ言うと相沢先輩と藤本先輩は自分たちの名前が貼られたテーブルの前へ行ったけど、そのテーブルは俺たちの左だ。相沢先輩も藤本先輩も最後までコメカミをピクピクさせてたなあ。村山先輩はその間はずうっとニコニコしながら俺たちを見ていた。恐らく『あらあらー、篠原君、これで委縮しなければいいけどねー』とでも思っていたんだろうな。
やがて教頭先生や山口先生、他の審判役の先生たち、出場者も次々とやってきて、さらには観客たちも大勢やってきて小ホールは超満員に膨れ上がった。だが、まもなく時間だというのに一人だけ来ない人がいる・・・それは藍だ。
藍と唯、舞は俺たちのテーブルのすぐ右だ。まもなく開始時間になるから教頭先生は腕時計を見ている。もし時間までに藍が来なければ唯と舞は無条件で失格だ。だから唯は必死になってスマホで藍を呼び出しているけど全然応答がないようで焦っている。
「あー!何でこんな肝心な時に電話に出てくれないのよ!」
「唯先輩、落ち着いて下さい!」
「これでも落ち着いているつもりよ!本当なら学校中を走り回りたい気分なんだからさあ」
「焦りは禁物ですよ」
「はー・・・勘弁してよお」
唯は結構焦っているが、逆に舞は努めて冷静を装っているみたいだ。内心まではさすがに分からないが、一種の勝負師の目をしている。俺の直感が警告を発している。もしかしたらこの中で一番の強敵かもしれないと。
「あと1分で佐藤藍さんが来なければ、唯さんと舞さんは失格とします」
教頭先生が冷酷に宣言した。藍派や唯派の連中も焦って校内中を探しているようだが、未だに藍が見つかったという連絡は誰も受けてないようだ。
「残り20秒」
教頭先生がそう告げた時
「すみませーん、遅くなって申し訳ありませーん」
そう言って観客の後ろから声が聞こえた。この声は藍だ。藍派や唯派の連中が大歓声を上げて道を空けると、堀江さんに手を引かれて息切れしながら藍が入ってきた。しかも手にはボロボロになった厚いノートのような物を持っている。
俺はそれを見た瞬間、背筋に冷たい物が走った!藍は一瞬だが俺を冷酷な目で見たが、それは本当に一瞬だけであり普段のようなクールな表情で
「教頭せんせー、すみませんが、これを預かってください」
藍はそういうと手に持っていたノートを紙袋に入れ、その紙袋を教頭先生に渡した。カンニングは当然失格だから藍がノートを教頭先生に渡した行為自体は合法だ。だが、問題はその本というかノートの中身だ!もしあれが『知識の女神』が残したノートなら・・・もし平川先生が見つけ出したという七不思議の4番目だとしたら・・・それに藍のあの冷酷な目は・・・俺はこの瞬間、心が折れそうになった。
いや、ここで折れたら全て終わりだ。俺は、いや、俺たち三人は『知識の女神』の力を得た藍といえども打ち負かさないと道は開けない。
もう後には引けないのだから・・・。
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