第209話 名誉ある第一号

 俺はさっきまで三人で全校生徒の相手をする事に怯んでいたのは事実だけど、これだけ大勢の前で藤本先輩が非を認めたので俺たちの行為(松岡先生の暴走?)に正義がある事が知れ渡り、ある意味藤本先輩には感謝している。

 でも、藤本先輩の言葉ではないが俺たちが『背水の陣』である事には変わりない。ただ、俺たちの舞台に藤本先輩や相沢先輩を乗せる事には成功した。藍や唯、それに舞も内山も中村も強力ではあるが、こいつらに勝てないようでは全国制覇どころか東京の本選に進むのも無理だ。俺たちにとっての最初の予選のつもりで全力で叩き潰して今月末の北海道予選への励みにするだけだ。


 俺と篠原、それと長田は昼休みに職員室へ行った。そう、松岡先生に事の顛末を話しに行ったのだが、職員室へ行ったら松岡先生はニコニコしながら俺たちを出迎えてくれた。

「よお、思った以上に反響があったな」

「松岡先生、舞台を整えてくれた事には感謝してますけど、結構ドキドキものでしたよー。藤本先輩自身が相沢先輩と二人で篠原を引き抜こうとした事実を大勢の前で認めて陳謝したから俺たちに同情してくれる奴が出てくれたけど、それまでは俺たちが全校生徒相手に喧嘩を吹っ掛けたと思われていて結構悪者扱いだったんですよ」

「そうだよー。オレはリアルで『四面楚歌』を経験しちゃいましたよー」

「おれが登校した時には英雄扱いだったから、一番の冷や飯を食わされたのが長田だ。ある意味、貧乏クジを引かされた訳だ」

「まあ、結果的にお前たちはになれたんだから良かったじゃあないか」

「結果的にはね。でも、松岡先生もこうなるって予想してた訳ではないですよね」

「まあ、それは認めるぞ。でも、本当は平川先生が舞台を整えてくれたんだぞ」

「平川先生が?」

「そうだ。俺はただ平川先生にボソッと言っただけだぞ。そうしたら平川先生が『俺が何とかする』とか言って教頭先生の重い腰を動かし、校長と理事長まで動かしたんだぜ。後は斎藤先生を平川先生がけしかけたら斎藤先生が妙に乗り気になって他の先生に問題を作らせたんだ。間違いなく最大の功労者は平川先生だぞ」

「あー、そうだったんですかあ。でも、どうして平川先生は斎藤先生を嗾けたんですかねえ」

「それはだなあ、何しろ風紀委員会は実質藤本が仕切っていて斎藤先生は名目上の顧問になってるから、ある意味、藤本に顎で使われてるからな。日頃の鬱憤を晴らす意味でも斎藤先生が平川先生の提案に乗ったんだ。他の先生方に至っては篠原たち三人と相沢、藤本、それと佐藤藍と唯が教師陣を凌駕するほどの力を持ってるのを知ってるから、どっちが教師なのか分からないってボヤいてる連中ばかりだ。だから教師としてのプライドを掛けてお前たちに知力勝負を挑んできたんだ」

「「「へえ」」」

「だから、このクイズ勝負は生徒対生徒であると同時に、教師対生徒のガチンコの知識勝負でもあるんだ。当然だが、俺も難問を作らせてもらったぞ。恐らくニュートンやピタゴラス、関孝和とかでないと解けない問題を用意させてもらったからな」

「うわっ!松岡先生が珍しく真面目な顔をしてる!」

「当たり前だ。いくら拓真が常識外れの計算力を持っていても式が出てこなければ解けない。長田が桁外れの記憶力を持っていても世界中の小説を全て覚えている訳ではない。篠原の雑学だって、この世の全てを知ってる訳ではないから穴がある。答えられなければ教師陣の勝ちだ。答えられたらお前たちの勝ちだ」

「いいですねえ。それくらいのガチンコ勝負を校内でやれるなんて夢みたいですよ」

「山口先生も本気で長田に挑むみたいだぞ。『いつも粗探しばかりされてるようで面白くないから長田が泣いて詫びをいれるような問題を作ってやった』とか豪語してたぞ」

「うへー、オレって『トキコーの〇クセン』からそこまでボロクソに言われてるんですかあ!?」

「当日のルールはもう決まってるが公平を期すため教える訳にはいかん。でも、お前たちが苦手としている分野での出題もあるとだけ言っておこう。これはお前たち三人が去年のトラウマを克服できるかの試金石でもあるからなあ」

「あー、それなら大丈夫ですよ。何しろ長田が恐ろしい方法で解決してくれましたから」

「はあ?長田、お前、何をしたんだ?」

「それを松岡先生に言ったら面白くないですし、他の奴らに手の内を明かす事になるから絶対に教えないですよ。まあ、当日、その問題が出題されたら分かりますよ」

「よっし、期待してるぞ」

「任せて下さい。それに松岡先生が用意してくれた舞台で最高の結末を迎えられるよう、全力を尽くしますよ」

「おー、いい目をしてるなあ。その目を曇らせないよう、頑張れよ」

「「「はい、頑張ります!」」」


 火曜日・水曜日の期末テストは俺は冴えに冴え、もしかしたら入学以来最高の結果が得られるんじゃあないかと思うくらいの出来だった。気分が異様な程に高揚しているというか、ひらめきが物凄くて自分でも怖くなったくらいだ。本当にそうだったかはテストが戻ってこないと分からないけど、もしかしたらクイズ勝負に最高の気分で挑めるかもしれない。

 さすがの藍も水曜日の朝は俺と手を繋いだり腕を組んだりする事はなかった。むしろ「金曜日までは敵として振る舞わせてもらうわ。そうでないと篠原君や長田君に失礼だからね」と言って俺の前を歩いていたくらいだ。

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