第208話 ワクワクしてきた

 はあ?誰がこんな『挑戦状』なる物を作って掲示したんだあ?それに俺たち三人が作ったかのようになっているし・・・何だこりゃあ?

 しかも、どう見たって相沢先輩と藤本先輩に喧嘩を売ってるとしか思えない内容だぞ!正気じゃあない!!

 あ、でもちゃんと掲示許可印も押してある。この場所に掲示したい掲示物は生徒会もしくは風紀委員会、教頭先生が持っている掲示許可印がないと違反になるが、押してあるという事は違法掲示物ではないから、風紀委員も手が出せないという事になる。だから上野先輩と中野さんが俺を白い目で見ていたんだ。

 だが、生徒会も風紀委員会も許可を出すとは思えない。となると、教頭先生が許可した掲示物・・・いや、松岡先生が『挑戦状』を作って、それを教頭先生が許可したんだ。平川先生たちもクイズ作りに賛成しているし、大野先生まで放課後の小ホールの貸し出しを許可している。

 松岡先生が俺たちの為に尽力してくれたんだ。

 あれ?よーく考えたら挑戦状そのものは恐らく原本はA4で作った文書をA2サイズまで拡大したんだと思うけど、一番下の『優勝賞品として、食堂のA定食の食券15枚を進呈する』は手書きで、しかも特徴ある下手糞な字はどう見ても松岡先生の字だ。という事は、松岡先生が自腹でA定食の食券15枚を与える気でいる!

 何だかんだで変わった先生だけど、こんな俺たちのような特例の同好会の為にここまでやってくれるなんて・・・本当の意味でのアホな先生だな。

 藍と唯、それに舞や中村、内山、堀江さんも少し遅れて挑戦状の前に来たけど、それを見るなり全員が口をあんぐりと開けて唖然とした表情をしてる。まあ、俺だって本当は藍たちと同じくらいの衝撃を受けてるけど、周りは俺たちクイズ同好会が挑発というか喧嘩を吹っ掛けてるようにしか見てないよなあ。

「たくまー、お前、頭のネジが飛んでるんじゃあないか?どう見ても正気の沙汰じゃあないぞ」

「おれも内山と同じ意見だぞ。篠原もとうとう狂ったのか!?」

「たっくーん、マジで馬鹿じゃあないの?こんな事をやる為にテスト勉強そっちのけでクイズ合戦をしてたのー?」

「私もそう思うわよ。しかも、どう見たって藤本先輩に喧嘩を吹っ掛けたのと同じよ。正気の沙汰じゃあないわ」

「あー、でも、この掲示許可印はどう考えても教頭先生が押した物だから、教頭先生が喧嘩を認めたって事ですよねえ」

「舞さんの言う通りね。しかも、これで藤本先輩は無条件で挑戦せざるを得なくなった。風紀委員長としても、『トキコーの女王様』としても喧嘩を売られたに等しいから挑戦しなかったら権威はガタガタよ」

「負けたら負けたで女王様のプライドに傷がつくから、本気で勝ちにいくでしょうね」

「ある意味、面白いかもしれませんね。わたしとしても興味津々です」

「あのさあ、どうせなら唯たちも参加してみようよ。唯たちが勝てば無条件でクイズ同好会は解散でしょ?唯も藍さんもたっくんに喧嘩を売られたんだから、その喧嘩を堂々と買って返り討ちにしてやろうよ」

「それもそうね。『A組の女王様』にして生徒会副会長の私に喧嘩を売るとはいい度胸してるから、その鼻っ柱をへし折ってくれるわ!」

「この際だから佐藤三姉妹で参加しようよ。舞ちゃんの雑学の知識は恐らく篠原君に匹敵するわよ」

「それもそうね。雑学問題が出たら私も唯さんも篠原君に勝てる気がしないから、舞さんがいたら心強いわよ。舞さんもいいわよね」

「わたしはいいですよ。拓真先輩の泣きっ面を是非写真に撮っておきたいですからねえ」

「じゃあ、決まりね。唯が後で申し込みしておくからねー」

「頼んだわよ」

「藍さんが出るなら、不肖内山昴、会長として鈴村と宮野と共に援護射撃をしたいと思います!」

「もちろん、この中村雄一も唯さんの為に神谷と福山と共にアホ三人組征伐に協力する事をお約束します!」

 おいおい、藍たちだけでなく内山も中村もかよ!?これじゃあ藍派も唯派もほとんど親衛隊じゃあないかあ。マジで勘弁してくれよお。松岡せんせー、ちょっとやり過ぎですよお。

「おーおー、正義の味方の風紀委委員長が悪者になってるじゃあないかあ」

 その声に俺たち全員がビクンとなって声がした方向を向いた。そこには・・・ニヤニヤしながら藤本先輩が立っていた。

「よお、たくまー。このわたしに喧嘩を売るとはいい度胸してるぞ。いやー、関心関心」

「ふ、藤本先輩!こ、これはですねえ」

 俺は藤本先輩に弁解しようと思ったけど、アタフタしてうまく言葉が出てこない。完全にテンパってるし、藍たちも顔を真っ青にして俺と藤本先輩を交互に見ている。当然だが藍たちも藤本先輩がいつ爆発するのかと思って完全な逃げ腰だ。

「おーい、勘違いするな、別に怒ってないぞ。元々篠原を引き抜こうとしたのはこっちだからな。でも、まさか先生方全員を味方に引きずり込んで対抗するとは思ってなかったのも事実だ。モヤシモンの集まりかと思ってたけど、完全にこっちが悪役の立場になっちゃったからなあ。こんな事なら三人に頭を下げて『譲ってくれ』って正攻法で言えば良かったのかもしれないと思ってる」

「い、いや、そういう事じゃあなくて・・・」

「だが、こっちに非があったのは認めるが、売られた喧嘩を見過ごすのは『トキコーの女王様』としての威厳にかかわる。お前たちクイズ同好会との勝負、受けてたとう!もちろん、みさきちにも正々堂々勝負するよう話をしておく事は約束しよう。三人目を誰にするかはまだ決めてないが、お前たちクイズ同好会に匹敵する奴とのトリオで挑んでやる。もしクイズ同好会が勝つようなら素直に敗北を認めて大人しく引き下がる事も約束する」

「あ、あのー」

「正直に言うが、わたしはお前たちを見直したぞ」

「へ?」

「だいたい、うちの学校の連中はわたしの顔色を伺う事しかしなくて、全然骨のある奴がいなかったからなあ。わたしに正々堂々と喧嘩を売って勝負をかけてくる程の集まりだったのかと思うと、逆に嬉しいぞ」

「あのー、誉め言葉と受け取っていいんですか?」

「勿論だ。なーんか、こうやって勝負されるのはトキコーに入って初めてだからワクワクしてきた。それに引き換え、他の連中はそれこそクズだなあ。佐藤藍、お前も結構腰が引けてるぞ。わたしに喧嘩を売るくらいの度胸がないと『トキコーの女王様』の称号は譲れんぞ」

「いやー、さすがに私が藤本先輩に喧嘩を売ったら、内山君や奥村先輩たちまで巻き込まれるから自制しないとマズイですよ」

「それもそうだなあ」

 それだけ言うと藤本先輩と藍はニコリとして笑いあった。

「あー、だがなあ佐藤拓真、もしお前たちが負けたら本当にクイズ同好会は解散してもらうぞ。お前たち三人は優勝するしか生き残る方法がないんだから、まさに『背水の陣』だな。わたしの辞書には『遠慮』という言葉がないから、今回ばかりは憎まれ役としてクイズ同好会を完膚なきまで叩き潰すから、そのつもりでいろ!藍も全力でクイズ同好会をぶっ潰せ」

「了解であります!」

「当然だが、唯も舞も手加減したらクイズ同好会に失礼だから全力で叩き潰せ」

「分かってまーす。唯も手加減する気はないですよ」

「わたしもです。拓真先輩どころか篠原先輩も長田先輩も泣いて詫びを入れに来るくらいに叩き潰す気満々ですよ」

「よーし、その意気だ。拓真もヒーローならヒーローらしく、全ての挑戦者を退けてみせろ」

「勿論ですよ。俺たちが最強だという事を証明して見せます」

「じゃあ、金曜日を楽しみにしてるぞ。もちろん、明日からのテストもそれなり頑張れよ」

 それだけ言うと藤本先輩は右手を軽く上げて立ち去って行った。

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