第180話 唯、不満爆発!

 高崎さんは再びアイドルとして軽音楽同好会との共演を果たし、トキコーを後にした。姉貴も新千歳空港へお出迎えがあるからライブが終わると同時に帰った。

 俺はというと舞との約束を果たす為、1年B組の『ネコえもんワールド』へ舞と一緒に行った形になった。ネコえもんクイズやトリビア的ネタの紹介、小学校の図画工作教室でも取り上げられている『空気砲』作り、さらには数学教師にして日曜大工の天才でもある原田先生監修の元に作られた秘密道具『重力ペイント』を体験できる部屋は小学生や幼稚園児だけでなく大人からも大好評で、俺も舞も小学生や幼稚園児に混じってキャーキャー騒いでいたのも事実だ。ただし『重力ペイント』の部屋は長時間入っていると本当に頭がフラフラしてくる後遺症も出てくるので「ほどほどに楽しんで下さい」との注意書きがしてあったくらいだ。さすがの俺もそれは嫌だったからほどほどに出て来たけど。


“午後5時になりました。トキコー祭1日目は終了です。みんな、明日も頑張ろうね”


 唯が放送室からトキコー祭初日の終了を宣言し、長いようで短い初日が終わった。俺はこの放送を聞いた時にはまだ1年B組で小学生に混じって舞と一緒に空気砲の打ち合いでワイワイ遊んでいた。正直に言うが遊ぶ事に夢中になり過ぎて時計を見るのを忘れていたのだ。

「拓真せんぱーい、もう今日はおしまいですよー」

「もう5時かあ・・・あーー!!もう5時だあ!!」

「拓真先輩、どうしたんですかあ?」

「5時から教室の模様替えをやる担当になっていたのを忘れてたあ!」

「マジですかあ!?高校生にもなって小学生や幼稚園児と本気で空気砲の打ち合いをしてるからですよー」

「わりー、教室へ戻る」

「頑張ってくださいねー」

 俺は舞に右手を振ると大慌てで2年A組へ戻った・・・のだが、当然だが模様替えの旗振り役が時間になっても来ないので泰介や神谷を始め、模様替え担当の連中からブーブー言われてしまった。

 少々予定よりも模様替え開始が遅れてしまったが、それでも予定していた時間内に模様替えが終わり、俺たちの教室は『占いの館』二日目バージョン、そう、神谷が提案した占星術、つまり星と天体、黄道十二星座を散りばめた飾りつけに変わった。まあ、予定時間内に終わる事が出来たのはクラスのみんなの協力のお陰だ。それに唯もメイド服から制服に着替えた後に2年A組で模様替えを手伝ってくれたし、それは藍も同じだ。

「みんなー、明日もよろしくねー」

「明日も頼むぞー」

 クラス委員の村田さん、それと実行委員である俺が解散を宣言し、本当の意味でのトキコー祭1日目が終わった。

「たっくーん、今日は寄り道しないで帰るの?それともどこかへ寄っていくの?」

「うーん、正直、何も考えてなかったなあ。藍ならどうする?」

「そうねえ・・・歩きながら考えましょう」

「そうだな。とりあえず靴を履き替えよう」

 結局、俺たちは寄り道しないで家へ帰る事になったのだが、その理由は・・・想像できるかと思うが学校を出て地下鉄に乗った途端に唯がヘソを曲げたからだ。

「やっぱり今日は真っすぐ帰ろう」

唯はぶっきら棒に行ったかと思うとデンと椅子に座り込んでしまった。しかも、これまた超がつくほどの低いドスの効いた声で


「たっくん、唯に隠してる事があるわよね」


 顔は超がつく程真面目だが目が血走ってる。この瞬間、俺は唯が何故不機嫌なのかが分かった。唯は俺が浮気したと勘違いしている。しかも、その相手は・・・舞だと思っているはずだ。

 まあ、昼飯の時はたしかに浮気の可能性があるけど、この時間帯に唯が食堂にへ来た可能性はゼロだ。となると・・・ライブを見に行く前に廊下を歩いていた時、それも姉貴が合流する前に目撃したはずだ。もしくはその後に1年B組へ行く時だ。

 唯は実行委員長として奔走しただけでなく、校長や理事長に振り回され(正しくは松岡先生と伊達先生のテニス勝負に振り回された)今日の午後は目茶苦茶だったようだ。恐らく、そのわずかな自由時間を使って俺に声を掛けて校内を一緒に散策しようと考えたが、そこで運悪く(?)俺が舞と並んで歩いていたのを見付けたに違いない。多分それ以降は内心は怒り心頭であったみたいだけど顔に出さなかったのは立派(?)だ。

 つまり、さっき「たっくーん、今日は寄り道しないで帰るの?それともどこかへ寄っていくの?」と言ったのは、俺を早く教室から連れ出す為の方便でしかなかったのは明白だ。

 でもなあ、あれで疑われるのは正直勘弁して欲しいぞ。でも、以前も堀江さんや平野さんとの浮気騒動の時もこんな感じで歩いていただけで疑われたからなあ。勘違いも甚だしいぞ。それとも、独占欲が強すぎるのか?

 出来れば穏便に済ませたかったのだが・・・不幸にも俺の勘は当たった。例の如く地下鉄を降りて家へ向かって歩きだしたら唯の不満が爆発した。


「たっくーん!どうして舞ちゃんとデートなんかしてたのよ!!」

「はあ?デートって何だ?」

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