第181話 墓穴を掘った唯

「とぼけないでよ!今日の午後、たっくんは雑用係の仕事が終わった途端、舞ちゃんと二人並んで校内をラブラブデートしてたんでしょ!唯は見たんだからね!!正直に白状しなさいよ!!!」

「だーかーら、あれはデートじゃあないって」

「あれがデートでなかったら、何を持ってデートと言えばいいのよ!」

「あれは軽音楽同好会のライブを見に行く途中の出来事だ。たまたま二人で並んで歩いていたに過ぎない!」

「はあ?唯を放っておいて舞ちゃんと一緒にライブを見ていたなんて最低よ!結局はラブラブデートじゃあないの!!フーンだ!!!」

「舞とだけじゃあない!姉貴も一緒にいた!!」

「そんな見え透いた嘘は言わないで頂戴!」

「嘘じゃあない!それに高崎さんも隣に座ってた。姉貴に聞けば証明してくれる!!」

「じゃあ、もし絵里お姉さんが違うって言ったらどうするのよ!」

「そんな事はあり得ない!」

「そんなセリフを誰が信じろって言うのよ!もし絵里お姉さんが違うって言ったら罰として明日の午後は唯に付き合ってもらうわよ!」

「唯は占いがあるだろ?無茶言うなよ!」

「占いが終われば閉会式まではフリーよ。たっくんのおごりで3年F組のメルヘン喫茶と2年D組の飲茶ヤムチャに連れてって貰うからね!分かったわね!!」

「いいだろう!じゃあ、もし俺が言ってる事が正しかったら、明日は唯に付き合うのは拒否させてもらうぞ!!」

「上等よ!浮気男と一緒に喫茶に行くくらいなら一人で行った方がマシよ!」

「勝手にしろ!」

「明後日だって唯に付き合いなさいよ!当然、昼飯もショッピングもたっくん持ちよ!!」

「それでいい!当然だが俺が言ってる事が正しかったら俺の好きにさせてもうらうぞ!!」

「いいわよ!舞ちゃんとデートしようがお姉さんとデートしようが勝手にすればいいわ!!」

 唯は自分のスマホを取り出して姉貴に電話したのだが、何度かけてもつながらない。恐らく今頃は雄介さんと一緒にディナータイムだろうから、唯が電話してきた事に気付いてないのかもしれない。結局、唯は姉貴にメールする事にしたのだが、メールの返信が来ないから唯はずうっと怒り続けていた。

 唯、お前さあ、自分で墓穴を掘る発言をした事に気付いてるのか?

 当然だが藍は家に着くまでずうっとニコニコしていた。藍の顔には「さっさと喧嘩別れしろ」「私とデートしましょうね」と書いてあるからなあ。勘弁してくれよお。


「「「ただいまー」」」


 でも、唯は家の玄関に入る直前にいつもの唯に戻った。まあ、あくまで『表向きは』であり、内心は相当怒っているようだが、それを顔に出さないのはさすが(?)だ。

 ただ・・・父さんと母さんはいない。朝のうちから承知はしているけど、今日は雄介さんのご両親と一緒に出掛けている。つまり、娘夫婦は娘夫婦で、親同士は親同士で別の場所で夕食をしている。ある意味微笑ましいのだが、俺たちは冷蔵庫に用意されていた物をレンジでチンするだけ。まあ、それなりに母さんが奮発して作ってくれたけど、同じディナーでも格差があり過ぎる。

 姉貴からのメールは俺たちが夕飯を食べている最中に届いたのだが・・・


『拓真の中学の後輩ちゃんの事よね。結構ラブラブな雰囲気だったように見受けられたけど、無害の鈍感男とデートする子はいないんじゃあないかなあ。ライブ中はウチが真ん中にいたからそんな素振りは一切みせなかったわよー。あー、そうそう、あの教育実習生も同じ椅子に座ってたけど、結構生徒たちから人気あったわね  絵里』


 唯はこれを見た瞬間、呆然とした表情をした。

 しかもこのメールを見せられた藍に

「拓真君が言った通りお姉さんと一緒にライブに行ってるし、それに拓真君の校内での評価がその程度なのは唯さんも知ってるわよね。だから誰も拓真君とデートしているっていう感覚がないんじゃあないのかなあ」

と駄目押しされたから唯はますます沈黙してしまった。

「たっくーん、ゴメン、唯が悪かった・・・」

「分かればいいよ」

「ううん、唯が悪かった・・・明日も明後日もたっくんの好きにしていいよ・・・」

「はあ?お前、それでいいのか?」

「自分の発言には自分で責任を持つ・・・たっくんは悪くない。悪いのは唯だから」

「い、いや、それとこれとは別問題だと思うけど」

「いい。唯がちょっと癇癪を起したのが悪い」

「・・・そうか・・・唯がそれでいいって言うなら」

 唯の奴、結構凹んでるけど大丈夫かなあ。まあ、勝手に勘違いしていたのは事実なのだから、少しは物事を冷静に見つめるだけの余裕を持ってほしいぞ。

 ただ、唯は舞の本心を知らない。舞の本心を知っているのは藍だけだ。舞の行動を藍は内心どう思ってたんだろうか・・・。

 当然、夕食後の藍はニコニコだ。父さんと母さんがいないから無理してクールな自分を演じる必要がないからな。しかも明日の午後の藍は全部フリーだ。つまり、明日も明後日も俺を連れ回す気満々だろうな。

 結局、どう転んでも俺は唯か藍のどちらかに振り回される事には違いないのか・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る