第174話 ボクっ子占い師!

 でも、俺は松岡先生と伊達先生の試合が最後まで行われなくて逆に助かった。実は試合に夢中になり過ぎて、あやうく泰介との交代の時間を過ぎてしまうところだったのだ。俺は慌てて2年A組に戻って行ったが、藍は自分のお昼ご飯がまだだからそのまま食堂へ行った。高崎さんは他のクラスイベントや部・同好会のイベントを見に行くと言ったからここでお別れとなり、舞は俺についてきて廊下の占い待ちの最後方にそのまま並んだ。

「おーい、たくまー、ちょっと遅刻だぞー」

「わりーわりー、テニスコートに行ってたから危うく忘れるところだったよ」

「そんな事だろうと思ったよ。紙の補充と積み木を戻すのはこっちでやっておいたぞ」

「サンキュー」

 そう言うと俺と泰介は雑用係を交代し、泰介はさっさと教室を出て行った。歩美ちゃんと遅い昼飯を食べる約束をしていたから張り切って食堂へ行ったんだろうな。

 俺が教室の中を見渡すと、占い待ちのはどれも1人か2人で、しかも1人を除いて全部一般来場者だ。つまり、藍の時と同様、廊下で待っている状態だ。

 今の占い担当は、タロットカードが平野さんと森川、易が小倉さんと日野、占星術が花澤さんと増田だ。他に受付担当を藤原がやっている。廊下で待っている連中はこの後にスペシャル占い師第2弾が登場するのが分かっているから、意識的に誰も部屋に入って来ないのだ。しかも、午前中の藍はわざと担当を入れ替えるサプライズをやっているから、余計に誰も部屋に入らない。

 俺が特等席に座ったら、舞が俺に手を振りながら教室に入ってきた。さっきは列の最後方に並んだけど、室内がガラガラなのを見て入ってきたのだろう。その証拠に舞はタロットカードを示す赤色の積み木を持って占い待ちの席に座って静かに待っている。

 舞が席に座るのとほぼ同時に廊下が急に騒がしくなった。恐らくスペシャル占い師第2弾が登場したからだろう。やがて歓声が大きくなったと同時にその人物が2年A組に入ってきた。担任の山口久仁子先生だ。

 山口先生は室内にいるみんなを見渡したあと、

「やあ、お待たせー、みんなボクの事を待っててくれたんだねえ。うーん、感心感心」

と言って、予定表通り小倉さんと交代して易の席に座った。山口先生!自分でトップシークレットの1つとまで言っていた『ボク』という言葉を使うってどういう事だあ?

 でも、俺は山口先生のコスプレを見て唖然とした。帽子を被っていて、このジャケットとジーンズの格好はどこかで見た事があるような・・・思い出した!天才高校生探偵と呼ばれた江藤新一が謎の組織に不思議な薬を飲まされた結果、小学生の姿になってしまい、江川乱歩君として活躍する人気アニメ『名探偵乱歩君』に登場するボクッ子の女子高生探偵、世良真澄じゃあないかあ!

 という事は、山口先生はわざとボクッ子キャラのコスプレをして、『ボク』という言葉を使っても怪しまれないように、いや、逆に周囲から「雰囲気を盛り上げている」と思わせているに違いない!まさに「見てのお楽しみ」サプライズ企画第2弾というところだ。

 当然だが山口先生が『ボク』という言葉を使って占いを始めた事で教室中が騒然となり、あちこちでスマホ片手に写真を撮りまくる連中が続出している。舞も興奮したような顔で山口先生を撮ってるし、廊下で並んでた連中も青色の積み木を争うように藤原から受け取ってゾロゾロと教室に入ってきた。青色の積み木が取れなかった連中も赤色や黄色の積み木を受け取って教室の中に入ってきて山口先生の写真を、中には録画までしている連中もでてくる始末だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る