第172話 対決!松岡先生VS伊達先生 前編
コイントスは伊達先生が取ったが伊達先生はコートを選び最初のサーブは松岡先生に決まった。松岡先生はセンターマーク付近に立って右手にラケットを持ち、左手でテニスボールを握って気合を入れている。それに対し伊達先生は左手でラケットを持ち、コートのベースラインギリギリの位置で腰を落とし体を左右に揺らしながら松岡先生のサーブを待っている状況だ。
松岡先生は2、3回ボールをコートに軽く打ち付けたかと思うと左手でボールを高く放り投げ、気合を込めて右手を振り抜いた!
「!!!!!」
「!!!!!」
その瞬間、観客の誰もが度肝を抜かれたような顔していた。松岡先生の放ったサーブは伊達先生の左手が差し出したラケットの先を物凄い勢いで駆け抜けていき、いきなりサービスエースが決まった!
「すっげえ!あのサーブ、いったいどんだけの速度が出てたんだあ!?」
「拓真先輩、男子のトッププロのファーストサーブは時速250キロくらい出しますよ」
「250キロ!」
「そうです。日本人プロの最速は220キロくらいですが、それでも男子のプロは200キロ前後のファーストサーブを普通に出します。女子のトッププロは200キロくらいで普通の男子のアマチュア選手は130キロから150キロくらいと言われてます。松岡先生は200キロ近く出てるんじゃあないですかね」
「私もそう思いますよ。サーブだけなら松岡先生はプロ並みの速さじゃあないですか?」
「それじゃあ、伊達先生は圧倒的に不利ですよね!?」
「ですが、それだけの速度を出しつつコート内に入れるとなると相当の技量が必要です。恐らく松岡先生はゲームの最初は高速サーブで伊達先生を揺さぶるでしょうけど、それ以後はリスクが大きすぎますから、絶対に速度を落とします!」
15-0で松岡先生が次のサーブを放った。今度はさっきとは逆方向で伊達先生の右側に飛び、伊達先生のラケットに当たったがボールは無情にも後方に流れてしまった。
『フォールト!』
この時、線審の大きな声がした。俺の目にはラインギリギリに入ったように見えたが線審の判定はフォールト、つまりラインの外側という判定だ。松岡先生は悔しそうな顔をして伊達先生は安堵したような顔になったが、お互い判定には異議を唱えない約束になっているから大人しく従っている。松岡先生のサーブは1回のみだから伊達先生のポイントだ。
15-15から松岡先生が放ったサーブは明らかにさっきより速度が遅い!だから今度は伊達先生も反応し、伊達先生の左手から放たれたリターンは鋭く曲がってサイドラインを抜けていき、松岡先生も呆然と見送るしかなかった。
「すっげえ!見事なリターンエースだ」
「そうですね。左利き独特のスライス回転を効かせたリターンで、しかもシングルのコートならミスリターンですけど松岡先生はダブルスの広さというハンデだから、松岡先生にしてみればアンラッキーなリターンエースですよ」
「舞さんの言うとおりね。その証拠に松岡先生は一度は小さくガッツポーズしたけど、ダブルスの広さだと思い出したみたいで天を仰いでましたからね。私もあんな松岡先生は初めて見たわよ」
「わたしも見てましたよー。思わず笑っちゃいましたー」
「高崎先生も気付いたんですか?」
「はあい。松岡先生、よっぽど悔しかったんでしょうねー」
「俺は伊達先生の方を見てたから松岡先生は見てなかったぞ。伊達先生は『してやったり』といった感じのニコニコ顔をしてたぞ」
「そうなんですか。実習中の伊達先生は結構厳しい事を言う方で、笑顔は見た事がなかったですよー」
「あー、たしかに伊達先生はほとんど笑顔を見せた事がないからなあ」
「でもー、これで松岡先生はサーブの速度を落とせなくなったと思いますよー」
「高崎先生の言う通りだと思います。恐らく次のサーブはさっきよりも早く、かといって早すぎるとコントロール出来ないから、ギリギリ自分でコントロールできる速度で勝負をかけてくるはずです。それと、あのスライスに対抗するため松岡先生は前に出てくるはずです。伊達先生もそれを分かってるから何らかの対抗策を取ってくるでしょうね」
「次の勝負は見ものだな」
「そうですね、次は面白くなりますよ」
15-30から放たれた松岡先生のサーブは伊達先生の右側に飛んだ。伊達先生は両手のバックハンドで打ち返し、松岡先生も再び打ち返したがが、やはり伊達先生の右側に打ち返している。左のフォアから打ち出されるスライス回転の打球を警戒しているが見え見えだ。伊達先生も松岡先生が前へ出てこれないようにコート深く打ち返している。
だが、その松岡先生が伊達先生の左側に球を返した。その瞬間、伊達先生は一瞬だが歓喜の笑みをしたかと思うと左手のフォアで打ち返した。でも松岡先生が猛ダッシュして前に来ているのに気付いたのか伊達先生も打ち返すと同時に前に走り出した。松岡先生がネットギリギリでボレーで打ち返した球は伊達先生が差し出したラケットに当たったが無情にも横に流れ、この勝負は松岡先生に軍配が上がり、同時に歓声が上がった。
30-30からの松岡先生のサーブは再び伊達先生の右側に行った。伊達先生は両手のバックハンドで松岡先生のコート深く打ち返し、しばらくはお互いの利き腕と逆方向へのラリーが続いが、松岡先生がその虚を突くように前へ出て来た。伊達先生はそれをあざ笑うかのようにバックハンドで高く、深く打ち返したから松岡先生は慌てて後ろへ戻りジャンプして打ち返そうとしたがこれは空振りだ。勝負は伊達先生の勝ち、と思われたけど無情にもボールはわずかにベースラインの外に落ち、松岡先生はラッキーな形でリードを奪った形になった。
結局、第1ゲームは松岡先生が取った。
第2ゲームは伊達先生のサーブで始まる。伊達先生はベースラインの後ろ、ほぼセンターマーク付近に立っているが、それに対し松岡先生はかなり前に立っていて、サービスラインの少し後ろにいる。
「え?どうして松岡先生は前へ出てきてるの?私はルール違反だと思うんだけど・・・」
「たしかに変ですねー。テレビの中継とかでテニスの試合を見た事がありますけどー、ベースラインより後ろに立っていたように思いますが・・・」
「俺も藍や高崎先生と同じ意見ですよ。舞、どうして松岡先生はあんな前で構えているんだ?ルール違反じゃあないのか?」
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