第161話 神様もそこまでのサービスをしなかった

 ヤバイ、姉貴は完全に俺が藍か唯のどちらかに手を出したという事に気付いている。という事は、間違いなく俺が帰ってくる前に勝手に『元・自分の部屋』に入ってベッドの下をガサ入れしたはずだ。その時に『あれ』が隠してある事を見つけて、それを元に俺を問い詰めているとしか思えない。

 だが、唯との約束で、この事は超がつく程のトップシークレットだ。たとえ姉貴であっても言えない。

「・・・まあいいかあ。あんたの態度でだいたいの事は読めたから、この辺にしておくわ」

「・・・答えを聞かなくてもいいのか?」

「べっつにー。あんたの事だから、表向きは優等生らしく『きょうだいの関係を壊したくない』と思いつつ内心では彼氏彼女の関係を言い出せなくて苦悩してるんじゃあないかっていうのが容易に想像できたからね」

「だーかーら、どうして俺が藍か唯の彼氏だって事になってるんだよお」

「父さんと母さんから聞いたよ。混乱を避ける意味もあって藍ちゃんと唯ちゃんが義理のきょうだいっていう事は先生方の間でもトップシークレットになってるってね。たしかにあれだけの美少女二人と同居してたら、あんたの立場は相当ヤバイわよね。妬み、僻みを一身に浴びるのはウチにも容易に想像できるからね」

「・・・・・」

「しかも、そのうちの一方と彼氏彼女の関係なら、なおさら立場がないわねえ」

「ちょ、ちょっとー。勘弁してくれー」

「父さんと母さんは付き合ってもいいって言ってるよ」

「はあ?父さんと母さんが何を言ってたんだ」

「あくまで父さんと母さんの個人的意見だけど、どっちかと付き合う事になって、ましてや結婚する事になっても、もう一方が納得してるなら別にとやかく言う気はないみたいだよー。でも、それと同時にあんたが両方とのバランスを取るのに相当気を使ってるのがアリアリと分かるから、父さんも母さんも拓真が先に潰れないか心配してるよ。まあ、最終的に決めるのは拓真自身なんだから、あんたが好きな方を選べばいいし、別に二人のうちのどっちかを選ばないといけないという事もないからねー」

「じゃあ、父さんも母さんも、藍と唯のどっちかが俺の彼女だって言ってないぞ。付き合ってもいいって言ってるだけじゃあないか!」

「まあまあ。ウチはあんたにその気があるのか聞きたかっただけ。気にすんな」

「・・・・・」

「まあ、普通に考えたら昨年の学園ナンバー1とナンバー2美少女が目の前にいるのを放っておいて第三の子を選ぶというのはあり得ないし、しかも同級生にウチとソックリな子が二人いて、しかも玄孫やしゃご同士だから法的にも問題ないから、理想的な展開ね。ウチとソックリな子が一人だけなら最高だったんでしょうけど、さすがに神様もそこまでのサービスをしなかったという事でしょうね」

「・・・いつから知ってたんだ?」

「ん?唯ちゃんは去年の夏。あんたが学校へ行ってる時に母さんと一緒にイーオンで買い物をしてたら『そういえば、拓真のクラスに絵里ソックリな子がいるわよー』って言われた。母さんも最初に唯ちゃんを見た時に一瞬『ウチが来てる』って勘違いしたみたいだけど、あんたのクラスメイトだって言われたからマジで腰を抜かしそうになったって言ってたよー。藍ちゃんの事は養子縁組した日の夜、母さんがウチに電話してきて、その中で教えてくれた。ウチも母さんから聞かされた時には信じられなかったけど、今日、実際に二人に会ってみて納得した。しかもさっき唯ちゃんが言ってたけど、藍ちゃんは『A組の女王様』って言われてるんだろ?ここまでウチと同じだとは思わなかったよ。ま、ある意味、神様はウチを二つに分けて拓真に与えて、それを見て楽しんでるのかもねー」

「・・・・・」

 姉貴が俺を揶揄うのも無理はない。姉貴と唯は実の姉妹かと見間違えるくらいに似ていて、それでありながら姉貴の声は藍ソックリなのだ。

 俺の母さんと唯の実の母親である悦子おばさんは再従姉妹同士の関係だ。それが理由とは思えないが唯と母さんは何となく雰囲気が似ていて、二人で歩いていても実の親子のように見られている。姉貴は小学生まではおかっぱ頭だったけど、中学生になってからは今の唯のような髪型に変え、結婚した今も変わらない。さすがに姉貴と唯は9歳違いなので瓜二つとはいかないが、それでもさっき藍と唯が最初に姉貴を見た時に思わず立ち止まったくらいにソックリだ。しかも高校生の時の写真やDVDを見れば、今の唯とソックリ、というか双子かと思うくらいに似ているのが分かる。そう言うからには当然だが、中学・高校・大学と結構モテまくっていたのは事実だ。

 母さんの声は唯の声よりも少しキーが低い。唯はかなり高いキーの声、どちらかと言えば子供っぽい声をしているから『A組の姫様』と呼ばれているくらいだが、藍は『A組の女王様』と言われるくらいだから少しキーが低い。母さんのキーは藍と唯の中間くらいなのだ。その母さんよりも少し低い声なのが姉貴で、まさに藍ソックリであり、電話口で突然入れ替わっていたとしても気付かないくらいだ。

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