第106話 おかしいです

 そうだ、たしかに以前もあった。その時は・・・もしかしたら、何とかなるかもしれない!

「・・・あのー、俺の意見を言ってもいいですか?」

「ん?たっくんは何かいい解決策を持ってるの?」

「・・・いや、解決策ではなく、解決策を導き出せそうな人物がいるから、そいつをオブザーバーとして呼んでみたらどうかと思っているんだ」

「おい、佐藤拓真!そんな人物が校内にいるのか?」

「私も聞きたいわ。拓真君、それは誰なの?」

 俺は相沢先輩と藤本先輩を交互に見た後、少しだけ自信ありげな顔をして答えた。

「・・・舞だ」

「舞?三姉妹の末っ子の事か?」

「そうです。あいつは与えられた情報を整理し、そこから答えを導き出す事に長けています。あいつの情報処理能力は俺も藍も認めていますので、もしかしたら何らかの解決策を出せるかもしれません」

「藍ちゃんも認めている程の子ならやれるかもしれないわね」

「みさきちもそう思うか?」

「じゃあ、すぐにでも舞ちゃんを呼んできてよ。たっくん、舞ちゃんを呼んできてもらってもいいかなあ」

「分かった。多分、あいつは今は2年B組にいる筈だから、ちょっと行ってくるよ」

「頼んだわよー」

 そう、俺は何も考えず「舞ならなんとか出来るはずだ」という単純な発想で意見を述べただけだった。ただ、それを唯だけでなく相沢先輩や藤本先輩も賛成してくれたから、俺は少し自分を褒めてやりたい気分になっていた。こういう所は俺の悪い癖だが、この場は最良の策だと思ったから即実行に移した。

 唯は俺に左手を振って「頑張ってね」と言って送り出し、相沢先輩と藤本先輩も「任せたぞ」と言って送り出した。その後は三人でまた色々と話し込んでいるので、俺は相沢先輩たち「行ってくる」とだけ言って生徒会室を出て2年B組へ向かった。

 俺は2年B組に行ったら、丁度そこには舞と村山先輩の二人だけいて、お互いに1台ずつパソコンを使って何かをしているところだった。

「おーい、舞、ちょっといいかあ?」

「あー、拓真先輩ですかあ?何かあったんですかあ?」

 そう舞は答えると俺の方を見た。村山先輩も手を動かすのをやめて俺の方を見ている。

「実は、ちょっと舞に頼みたい事があってここにいたんだけど、いいかなあ」

「うーん・・・話を聞く程度ならいいですよ」

「実は、生徒会からお前にオブザーバーとして参加して欲しいっていう依頼があったんだ。それで、お前が参加できるか聞きに来たんだ」

「・・・内容によりけりですけど、今の私はあくまでミステリー研究会の一員としてここにいます。ですから少なくとも村山先輩の了承を得て下さい」

「分かったよ。村山先輩、この場で説明しても構いませんか?」

「いいわよ」

「ありがとうございます」

 村山先輩がOKを出したので俺は軽く村山先輩に頭を下げた。村山先輩も軽くだけの頭を下げたので、舞の横の席にあった椅子に座ってから舞に話しかけた。

「実は・・・2年F組とG組からトキコー祭で共催したいという提案があって、それで生徒会三役がどう返事をすればいいのか考え込んでいるんだ。とりあえず関係部門の意見を聞こうって話になったんだけど、その意見を聞いてみて、どういう返答ならば各方面で納得できるのかという解決策を作るにあたって、舞の力というか情報処理能力を借りたいんだ」

「・・・だいたいの話は分かりました。ただ、どうして拓真先輩がここに来たんですか?」

「あー、いや、たまたま俺は唯と一緒に生徒会室に行った時に黒田先生に呼び止められただけなんだ。今は黒田先生は職員会議に行ってていないけど、その後に相沢先輩たちと話しをしていた時に舞の名前がでたんだ。それで、唯が俺に呼んできてくれって言ったから俺がここに来たんだ」

「それは・・・拓真先輩、おかしいです」

「はあ?」

「生徒会側も、拓真先輩もおかしいです。今のままではわたしは首を縦にふれません」

「どういう事だ?」

「・・・わたしの想像が正しければ、2年F組とG組の問題が起きた原因と、拓真先輩が今やっている事の根は同じです。それが分からない限り、わたしは拓真先輩の依頼を聞けません」

「ちょっと待ってくれ、根が同じとは・・・」

「わたしの気持ちを察してください!」

 そう言うと舞は急に立ち上がり、教室を走って出て行ってしまった。舞が泣いていたように見えたが、本当のところ、どうして舞が教室を出て行ったのかピンとこなかった。

 村山先輩は黙って俺と舞のやり取りを聞いていたが、舞が教室を出て行った後、「はー・・・」とため息をついて俺をじっと見ていた。

「あのー、村山先輩・・・俺はどの部分で舞を怒らせてしまったのでしょうか?正直、分かりません・・・」

 俺はちょっと困ったような顔をして村山先輩に話しかけた。まあ、実際に困っていたのも事実だけど。

 村山先輩はしばらく俺を見ていたけど、もう1回短くため息をついた後、渋々といった顔をしつつも俺の問いに答えてくれた。

「・・・拓真君、舞さんがあなたの事をどう思っているか私は理解しているつもりよ。あなたはそれを知ってるんじゃあないですか?」

「・・・そうです。でも、俺は首を縦に振りませんでした」

「・・・私もさっきの事で確信しましたけど、あなたのプライベートに関わる事をこれ以上詮索するつもりはないので口外しないと約束します。だけど、何気ないその一言が舞さんの気持ちを逆なでしたという事だけ理解してください」

「気持ちを逆なで・・・そういう事ですか、納得しましたよ。たしかに軽率でした」

「・・・相沢会長を始めとした三役は、あなたより自分たちの方が上だという考えが根本にあると思います。だから唯さんがあなたに舞さんを呼ぶように言った時に誰も異議を唱えなかったのだと思いますよ。2年F組とG組がどのような提案をしてきたのかは知りませんが、共催せざるを得なくなった理由は私たち3年生に原因があると思います。まさしく、三役があなたに舞さんを呼びに行くよう言った事、あなたが舞さんに「生徒会の依頼だから」という理由だけで生徒会の為に力を貸せと言ってきた事と、根は同じなのですよ」

「・・・たしかにそうですね」

「・・・それに、今の舞さんはミステリー研究会の一員としてここにいます。それを「生徒会からの依頼だから」と言って連れ出すのはおかしい、ミステリー研究会側の都合を考えてないと言う事です。今日は部長がいないので副部長の私が責任者になりますが私の許可なくして舞さんを生徒会に貸し出す事は出来ません。どうすれば私と舞さんの両方が納得できるかは三役自身が考えて下さい。少なくとも手順を踏めば私は舞さんを貸し出す事を認めます。それ以上は言えません」

「・・・分かりました。三役には俺から伝えます」

「・・・お願いするわ。私はまだここにいるから、考えがまとまったらここに来てね」

「分かりました。その事も伝えます」

 そう言うと俺は立ち上がり、村山先輩に頭を下げてから2年B組を出た。村山先輩も俺にニコッと軽く笑顔を見せた後、再び手を動かし、パソコンを打ち始めた。

 俺は生徒会室に戻ると村山先輩が言った言葉をそのまま相沢先輩たちに伝えた。俺は自分では村山先輩が何を言いたかったのか頭の中では分かっているつもりだったが、自分の考えを相沢先輩たちに説明する自信がなかったし、相沢先輩たちがどういう判断をするのかが分からなかったので、何も言わなかった。

 俺の話を聞いた相沢先輩と藤本先輩は、村山先輩が何を言いたかったのかを直ぐに理解したようで立ち上がり、生徒会室を出ようとした。唯も少し遅れて理解したようで自分も2年B組に行くと言って立ち上がろうとして松葉杖に手を伸ばした。藤本先輩は「唯はここにいろ」と言ったが唯が拒否し、結局は三人揃って行く事になった。俺は本当なら行く必要はなかったが、この騒ぎを作った一端は俺にあるので、一緒に2年B組についていった。

 四人で2年B組に行った時、舞はさっきまでと同じように席に座っていたが、パソコンの前でただ座っているだけで何もしてなかった。しかもパソコンは完全にシャットダウンしていて開いてすらいなかった。村山先輩は先ほどと変わらず、一人で黙ってパソコンに向かって手を動かしていた。

 その村山先輩に向かって相沢先輩が「生徒会執行部としてお願いにきました。佐藤舞さんをオブザーバーとしてお借りしたいのですが構いませんか?」と頭を下げた。藤本先輩も相沢先輩の横で頭を下げ、唯も松葉杖を持ったままだが相沢先輩たちと同様に頭を下げた。俺だけが頭を下げないのもおかしいので俺も頭を下げた。

 村山先輩は相沢先輩に一瞬だけ目線を向け「構いませんよ」とだけ答え、舞は「分かりました」と言って即座に立ち上がった。どうやら二人共、こうなる事を予想していたみたいな動きだったと感じたのは俺だけだろうか。

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