第88話 女王様VSオタク女

 あきらかに舞は動揺している。そりゃあそうだろ、誰だって告白タイムに別の女が乱入してきたら、しかも藍は舞の目の前で「拓真君の彼女に収まってもいい」とか「私の隣の席はいつでも空いてるわよ」とか言ってるのだから、普通に考えたら自分の恋路を邪魔しにきた厄介者以外の何者でもない。つまり傍から見たら『女王様VSオタク女』のバトル勃発以外の何物でもない筈だ。

 だから舞はすぐいつもの冷静な顔になって反論した。

「ちょっと待って下さい。たしかにわたしが拓真先輩に告白しようとしたのは認めますが、それを藍先輩が拓真先輩をわたしに取られるのが嫌で乱入してきたとしか思えませんよ。木立の影に隠れていたなんて卑怯です!正々堂々とわたしに反論すべきです」

 だが藍はいたって冷静に、いや『A組の女王様』を彷彿させる、あのクールな目で舞を見ながら俺の横にまでゆっくり歩いて来た。そして静かに語り始めた。

「・・・舞さん、まず確認したいんだけど、どうして拓真君の彼女が唯さんだというのを知っているの?校内でも噂が上がっていないのに、どうして知ってるの?」

「そ、それは・・・あくまで状況判断です。唯先輩は今週に入ってから一度も拓真先輩と一緒に行動していません。それに、昼休みとか放課後の職員室で拓真先輩や唯先輩が一緒にいたのを何度か目撃しましたが、あきらかに拓真先輩の口調が変でした。だから、わたしは唯先輩が拓真先輩の彼女で、しかも大喧嘩が元で喧嘩別れしたと判断したんです。何かおかしいですか?」

「たしかに筋は通ってるわ。拓真君と唯さんの会話が非情にぎこちないのは私も気付いていたわ」

「なら、私の推理が正しいと認めるんですよね」

「でもねえ、あの話はウソよ」

「ウソ?・・・ま、まさか・・・」

「そう、ちょっと拓真君に頼んでやってもらったのよ。因みに拓真君と唯さんは昨日もラブラブよー。聞かされる身にもなって欲しいくらいよ」

「じゃ、じゃあ、あのぎこちない話っぷりは・・・演技とは思えなかったけど」

「あー、あれね。多分だけど唯さんを悪者扱いした事で申し訳なく思っていて、逆に喋りにくくなっていたんじゃあないかしら?」

「そ、そんなあ・・・わたしを騙したんですね!」

「まあ、それは認めるは。でも、あなたの話は嘘よね。あなたは唯さんが拓真君の彼女だという事を知っていた。正確には目撃した事で確信した!違いますか?」

「そ、それは・・・証拠はあるのですか?」

「あるわよ!」

 明らかに舞はこのセリフで動揺している。それに藍はその微笑みがますますクールになっている。そう、女王様が目下の者をいたぶるかのように。

「舞さん、いや、佐藤舞・・・あなた、二週間前に寝坊して遅刻寸前に学校へ来たと拓真君に言ったそうね。でも、それは嘘ですよね。あなた、拓真君や唯さんとほぼ同じ時間に登校していましたよね」

「!!!!!」

「おい、藍、その話は本当か?」

「本当よ。生徒昇降口と廊下のカメラに写ってたわ。だけど、誰も佐藤舞だと気付かなかったのよ」

「藍、どういう意味だ?」

「この子の特徴は、その大きな丸眼鏡と癖毛をまとめる為のポニーテールよ。だけど、その日に限っては眼鏡を外し、しかもポニーテールにしてなかった。大胆にも誰にも気付かれる事なく登校し、しかも登校してすぐに廊下の靴箱の脇にあるトイレでポニーテールに直して教室へ向かったわ。防犯カメラの映像には、佐藤舞が昇降口から入ってくるシーンは写ってないわ。しかもトイレに入って行く佐藤舞の姿は写ってないのに、トイレから出ていく佐藤舞の姿が写っていたわ。そして、背中まで伸ばしたロングヘアーの女の子が昇降口から1年B組の靴箱のある場所に入って行くシーン、その女の子がトイレに入って行くシーンは写っていたけど、逆に背中まで伸ばしたロングヘアーの女の子がトイレから出てくるシーンは1時間目の授業が始まった以降もないのよ。しかも1時間目の授業を佐藤舞はちゃんと最初から受けているわ。さあ、あなたの華麗なる推理でこの状況を説明して欲しいわ」

「・・・でも、それはわたしが拓真先輩に『遅刻した』と嘘を言ったという証拠ですよね」

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