第51話 リアル脱出ゲーム⑥~モザイクだらけ

 俺が黄色の紙袋を開けると、今度は水色の解答用紙4枚と写真が2枚入っていてた。

 だが、今度はこの2枚の写真に加えて全国版のミニサイズの時刻表も入っていた。そして、1枚目の写真は普通のカラー写真なのだが、見た瞬間、全員が仰天した!

「ちょ、ちょっと何これ?」

「マジですかあ!モザイクだらけじゃあないですか!?」

「ああ、しかも文字が途中で切れているから、その続きが何なのかが分からんぞ」

「読めるのが ■7:■■ O■ だけで、しかもそれより右側の文字が切れちゃってるから、次に何と書いてあるのかが読めないですよ」

「ねえたっくん、時刻表があるって事は、『コロン』が入っている事から見て、駅の電光表示板で、行先案内が英語表記に変わった時の写真だと思うよ。そうなると、これは『0(ゼロ)』じゃあなくて、『O(オー)』になる筈だから、『お』で始まる駅が終点の列車で、なおかつ17時台にこの駅を発車する列車という意味じゃあないのかなあ」

「ねえ歩美さん、『お』で始まる駅が日本でいくつあるのか知ってる?」

「さあ、10個くらいかなあ」

「杉村先輩、冗談もほどほどにしてください!『お』で始まる駅の名前は、JR北海道だけでも『追分おいわけ』『大麻おおあさ』『大沼おおぬま』『大沼公園おおぬまこうえん』『大和田おおわだ』『荻伏おぎふし』『筬島おさしま』『長都おさつ』『納内おさむない』『渡島大野おしまおおの(作者注釈:現在の新函館しんはこだて北斗ほくと)』『渡島砂原おしまさわら』『渡島当別おしまとうべつ』『渡島沼尻おしまぬまじり』『長万部おしゃまんべ』・・・ああっ!!もうこれだけで10個を超えていますよ!!!他にも九州の『大分おおいた』とか関西の『大阪おおさか』、中国地方の『岡山おかやま』もそうですから、候補が多すぎます。お願いですからこんな事で無駄な解説をさせないで下さい!」

「すみません・・・」

「おーい、唯、これだけしかヒントがないのか?」

「という事はもう1枚の写真を・・・ええっ!またセピア色ですかあ!?」

「唯さん、色であっさり特定されるのを防ぐ為に、わざとセピア色にしてあるとしか考えられないわ」

「ホント、製作者側も捻くれた問題を考えてくれますねえ」

「唯ちゃん、関心している場合じゃあないわわよ。少しはヒントになる事を考えて下さいよお!」

「拓真先輩、時刻表とセットになっているという事は、これも列車の一部の写真ですよ」

「だろうな。多分、モザイクだらけの写真が示している列車の一部分なんだろうなあ」

「でもさあ、なんか模様が書かれているよ。見方によってはアルファベットにも見えなくないわよねえ」

「そう言われてみれば・・・TI・・・うーん、この次の文字が切れてしまって読めない」

「仕方ない。多分、この沢山の写真の中から、この2つの写真に該当する、たった1つの列車を探すんだろうな。こりゃあ、骨が折れるぞ」


七「ひふみちゃん、新富士(静岡県)を通過したわ」


「おーい、唯さん、その写真、オレにも見せてくれ」

「あ、小野君、いいわよ」

 そういうと唯は泰介にセピア色の写真を渡した。

「おい、この文字、オレは見た事があるぞ」

「おい泰介!それはどこで見たんだ?」

「札幌駅だ」

「「「「「札幌駅?」」」」」

「間違いない!特急列車の先頭車両の側面に書かれていたぞ。何しろ、俺が帰宅部で寄り道しないで帰る時、同じホームの反対側に止まる特急列車の先頭車両の側面部にこう書かれているからな」

「おいおい、即答かよ!」

「たしかJR北海道の特急列車には『HET』と書いてある国鉄時代から使っている物、それと振り子がついたスマートな車両には『FURICO』と書かれている物とがあるけど、もう1つ、車体傾斜装置をつけた車両には『TILT』と書かれているんだぜ」

「でも小野先輩、だとすれば、わたしの記憶が正しければ、その車両はキハ261系という、ディーゼルエンジンを使って非電化区間を走る気動車特急列車ですが、稚内わっかない行の特急『スーパー宗谷そうや』と帯広おびひろ行の特急『スーパーとかち』・・・え?え、え?という事は、この『O』が意味するのは・・・」(作者注1)

「帯広よ!」

「そうか、だとしたら『スーパーとかち』しかありえない!」

「小野君、本来ならこのセピア色の写真の列車を探す為に会場内を走りまわされる所だったけど、歩美さんのさっきの大ボケを彼氏が帳消しにした、まさにナイスフォローよ!」

「藍!17時台にどこかの駅に停車する帯広行きの『スーパーとかち』を時刻表で探して紙に書き写してくれ!」

「わかったわ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「拓真君、17時台に走っている帯広行きの『スーパーとかち』は7号だけよ。それも17時台にどこかの駅に止まるは、これだけよ」


(16:37  札幌)

 17:09  みなみ千歳ちとせ

 17:20  追分おいわけ

 17:39  新夕張しんゆうばり

 17:59  占冠しむかっぷ      (作者注2)


「拓真、なんかおかしくないか?」

「俺もそう思うぞ。何か見落としてないか?」

「あのー、藍先輩、その時刻表をわたしに見せてもらえませんか?」

「ええ、いいわよ」


七「ひふみちゃん、静岡(静岡県)を通過したわ」


「・・・なるほど、拓真先輩、分かりました。これで合ってます」

「舞、どういう意味だ?」

「この時刻表に答えが出ていました。列車番号ですよ」

「舞さん、列車番号って何?」

「鉄道のダイヤにおいて、個々の列車に与えられる数字や記号のことですよ。単に『スーパーとかち』と言っても、毎日5往復が運転されていますから、どの列車の事を意味しているか分からないですよね。この『スーパーとかち7号』の場合、列車番号は『37D』とちゃんと時刻表に書いてあります」

「そうか、37Dだから、3号車7番D席になるんだ」

「そういう事ですよ」

「おっしゃあ、これでクリアだ!」

「じゃあ、俺がまた行ってくるぞ!」

 俺は水色の解答用紙に答えを書き込み、それを提出したら今度は水色の紙袋をもらえた。



作者注1

 新幹線のN700系にも使われている『車体傾斜装置(空気ばね式車体傾斜装置)』は、日本ではJR北海道が平成8年(1996年)に開発したキハ201系気動車で初めて実用化され、平成12年(2000年)にJR北海道が開発したキハ261系は、初めて高速運転を行う車両に『車体傾斜装置』が取り付けられた形式であり、札幌~稚内の特急『スーパー宗谷』として運転を始めました。

 旧国鉄が昭和48年(1973年)に開発した381系電車特急の『自然振り子式』、JR四国が平成元年(1989年)開発した2000系気動車特急の『制御付き自然振り子式』が実用化されていたにも関わらず新幹線で採用されなかったのは、超高速運転の新幹線で振り子式の傾斜装置を使うと、かえって車体の安定性を維持できなくなる為でしたが、キハ261系の成功で新幹線にも採用されました。

 現在、新幹線では、N700系の他、E5系とE6系でも採用されています。

 ただし、キハ261系は2014年(平成26年)8月30日以降、『車体傾斜装置』の使用をとりやめ、それ以降に配備されたキハ261系は『車体傾斜装置』そのものがついていません。


『TILT』は「傾く」という意味ですが、現在、キハ261系のデザイン変更が進んでいます。

 特急『スーパー宗谷』は、今は『宗谷(札幌~稚内)』『サロベツ(旭川あさひかわ~稚内)という名称に変わり、こちらで使われるキハ261系基本番台は既に『HET(Hokkaido Express Trainの頭文字)』の文字に変わっています。

 特急『スーパーとかち(札幌~帯広)』と『スーパー北斗ほくと(札幌~函館はこだて)』に使われるキハ261系1000番台はカラーリングが青色から、白と黄色、紫色を基調にした物になっています。

 そのため、まもなく全ての編成でこの『TILT』という文字は見られなくなります。



作者注2

 この作品は、北海道新幹線開業より前の設定になってます。詳細は2018年4月11日

の近況ノートをご参照下さい。そのため、このダイヤの時の『スーパーとかち』の最高速度は時速130キロです。また、ダイヤ改正により今と発車時刻が違うのでご注意下さい。

 注釈にあった渡島大野駅は、北海道新幹線開業と同時に新函館北斗駅と改称しています。


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