第50話 リアル脱出ゲーム⑤~セピア色
俺は解答用紙を持ち、走ってテーブルに駆け込んだ。そして、男性スタッフは解答用紙を確認したら、すぐに薄い赤色の紙袋を俺に渡したので、俺は再び走って泰介たちの元へ戻って行った。
この紙袋の中には、通し番号が入った黄色の解答用紙と、10段になった鍵付きの引き出し式トレーが入っていた。
唯と歩美ちゃんが引き出しに手を伸ばした。だが、
「ねえたっくん、この引き出し、全然動かないわよ?」
「はあ?そんな事がある訳ないだろ!」
「たっくん、本当に開かないわよ」
「あ、ちょっと待って!唯ちゃん、ここだけ開いたわよ」
「上から2段目だけ?他は駄目なの?」
「そうよ。他の9か所は開かないわよ」
歩美ちゃんは引き出しを全部引き抜いた。そこに入っていたのは、2枚の写真、それとクシャクシャに丸められた紙だった。
「拓真先輩、この写真、おかしいですよ」
「本当だ・・・1枚は普通のカラー写真なのに、もう1枚はセピア色だ・・・何故だ?」
「泰介、このセピア色の写真に写っているのは指輪よ。私の想像なんだけど、セピア色にする事で指輪の宝石が分からないように細工してあるのよ」
「あー、そういう意味ね。唯も言いたい事が分かったわ」
「歩美、どういう事だ?」
「例えば、ルビーなら赤、エメラルドなら緑、サファイアなら青というように、色を見れば分かっちゃう物があるのよ。だからわざとセピア色の写真にして色が分からないようにしてあると思うわ」
「なるほど・・・じゃあ、このもう1枚の写真は何だ?」
「1円玉・・・しかも、上半分が無くて下半分だけにカットされている」
「おい拓真、この1円玉は『昭和44年』ってなっているぞ。これに意味があるのか?」
「可能性はあるけど・・・何ともいえないなあ」
「拓真先輩、昭和44年といえば1969年ですから、7月20日にアポロ11号が人類初の月面着陸に成功しています。有名な出来事ですぐに思い浮かぶのはこの位ですよ。でも、まさか半分だから昭和22年とかのオチはないと思いますけど・・・」
「うーん・・・藍、お前、さっきから何を見てるんだ?」
「・・・私、この紙に書かれたグラフを解こうと思っていたんだけ、全然分からないのよ」
「「「「「グラフ?」」」」」
「そうよ。斜めの直線がいくつも引かれていて、所々平行線の物もあるし、しかも特定の横軸の所でクロスしているのよ。横軸の間隔は方眼紙のように一定なんだけど縦軸の間隔が一定じゃあないから、意味が分からないのよ。しかもこの直線の傾きも所々で傾斜が変わってるから、余計に意味が分からないのよ」
「あー、それはダイヤですよ、藍先輩」
「「「「「ダイヤ?」」」」」
「そうです。ダイヤとは略称で、正式には『ダイヤグラム』といいます。ほら、よく真冬にニュースで『大雪のためJRのダイヤが大幅に乱れています』とか言ってますよね。あれの事ですよ。ダイヤグラムは、縦軸に駅や
「拓真、という事は、この指輪はダイヤモンドだ!」
「ああ。ダイヤモンドとダイヤグラムはどちらも略してダイヤだからな」
「じゃあ、この1円玉が表す意味は何だ?」
「たっくん、これって、昭和44年は引っ掛けじゃあないかしら?1円玉は1枚1グラムと決まっているから、半分、つまり0.5グラムという意味だと思うよ」
「そうか、分かったぞ、ダイヤモンドの場合、重さを『カラット』という単位で表現するから、0.5グラムが何カラットかが分かればいいんだ」
「あー、それ、簡単よ。2.5カラットよ」
「歩美、どうして2.5カラットなんだ?」
「1カラットが0.2グラムだから、0.5グラムなら2.5カラットよ」
「2.5カラット・・・という事は・・・拓真、2号車5番という意味か?」
「ああ、多分そうだ。あとは座席の位置が分かれば・・・」
「拓真先輩、上から2番目に入っていて、他が開かないのだから、多分B席だと思います」
「俺もそう思うぞ」
「唯もそう思います」
「オレも同じ意見だ」
「私もです」
「いいえ、これはE席です!」
「はあ?歩美、どうしてE席なんだ?」
「泰介、あなた、ダイヤモンドの鑑定書を見た事があるの?」
「いや、全然ないぞ」
「はー、まあいいわ。詳しい説明は省くけど、ダイヤモンドの価値に大きく関わってくる4つのC、つまり『Cutting Style(カッティングスタイル=どのような形状に切ったかという事)』『Carat(カラット=重さ)』『Clarity Grade(クラリティグレード=傷や内包物の有無⇒透明度)』『Color Grade(カラーグレード=色の等級)』のうち、アルファベット1文字で表すのは最後のColor Gradeだけ。しかも最上級の無色透明はDで、以後、E、Fと進むにつれて黄色っぽくなっている事を意味するわ。上から2番目の等級はEだから、E席よ」
「おいおい、ホントに大丈夫かよ!?」
「大丈夫よ。まあ、4回答えられるから、最初にE席で提出し、駄目ならB席にすれば問題ないと思うわよ」
「そうだな。時間が勿体ないから、通し番号1に2号車5番E席、通し番号2に2号車5番B席と書いて、俺と拓真で出しに行こう」
「ああ。じゃあ、俺がE席で先に行くから、泰介はB席で俺に続いてくれ」
「りょーかい」
俺と泰介はそれぞれ解答用紙に記入し、俺が先に向かった。
そして、俺の提出した紙を見たスタッフは黄色の紙袋を俺に渡した。つまり、歩美ちゃんの言った通り、2号車5番E席で正解だったのだ。
作者注1
『
『
「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」で、信号場は「専ら列車の行き違い又は待ち合わせを行うために使用される場所をいう」と規定している。
作者注2
相対する列車が同じ線路を通るため、正しく列車の運行を制御しないと正面衝突の危険性がある。そのため種々の閉塞方式により確実に1閉塞区間に1列車のみを保証する必要がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます