第43話 リアル脱出ゲーム開始前①~待ち合わせ
今日は泰介たちとリアル脱出ゲームに挑戦だ。
本来なら楽しい朝になる筈なのだが、俺も藍も唯も、朝から笑顔を見せない。その理由は一昨日の件である
結論から言えば、俺と藍は舞を味方につける事が出来なかった。
俺と藍は、スナバでコーヒーやケーキを摘まみながら舞を味方につけるべく奮闘したが、舞は最後まで首を縦に振らなかった。
舞が言うには、部長以下の男子は話せば分かってくれるだろうが、村山先輩は自身が推理小説作家を目指している事もあってかトキコー七不思議への思い入れが一番強く、また、誰よりもトキコー七不思議に執着しているらしい。だから『解明されていない七不思議を入れ替えるというのは納得がいかない』と言って断固拒否するだろうと。
このような事柄は多数決で決めると禍根を残す。だから全員の意見を一致させる必要があるが、村山先輩は多分
俺も藍も、山口先生と教育実習生の高崎さんの名前を出してまで舞の説得を続けたが、結局、駄目だった。
ただ舞からは「村山先輩には今日中にメールしておきますから、とりあえずその反応を見てから考えても遅くないと思いますよ」と言われたので、村山先輩への連絡は舞に任せる事になった。
結果、俺と藍は一昨日の段階で舞を説得するのを諦め、また、藍が異常な程テンションが下がってしまったので、家に帰る事にした。
だが、俺と藍は家に着いてから大失敗をやった事に気付いた。そう、俺と藍は唯に相談することなく舞に話を持って行った事で、内緒で二人だけで札幌中心部にいた事が舞に露見している。このままだと、4日に舞と会った時に絶対舞がこの事を話すだろうから唯が不審に思う可能性を否定できない。だから、俺と藍は口裏合わせをして「たまたま札幌駅周辺でバッタリ会った、さらに山口先生や舞にも会った。ただ、山口先生からちょっと面倒な相談をされた」と唯に嘘の話をして、なんとか誤魔化したのだ。
昨日の俺は部屋にパンと菓子、それと飲み物を持ち込み、トイレ以外は一歩も部屋から出る事なく夕方まで4DSをやっていたので何とか藍と唯の矛先を逸らす事に成功したが、夜、舞から1本のメールが入ったのだ。
『村山先輩にメールで簡単に説明したんだけど、どうやらわたしたちと同じ時間の脱出ゲームに参加するので、始まる前にどこかで会って直接拓真先輩たちと話をしてみたいと言ってましたよ。どうしましょう? 舞より』
俺はとりあえず唯と藍の部屋をノックして二人に俺の部屋に来てもらった。そしてこのメールを見てもらい、昨日言った「面倒な話」を唯に説明し、その後で三人で相談した結果、メールの通り舞と村山先輩に直接会ってみようという事になった。
ただ、唯は俺よりは各段に上ではあるが基本的に話し上手とは言えない。この三人の中では間違いなく藍が説得役に向いているので、藍が村山先輩と話す事になる。もちろん、藍はこの話が上手くいけば山口先生が自身をバックアップしてくれると本気で信じているから、村山先輩を何が何でも説得するつもりだ。舞も場合によっては俺たちに協力してくれるだろうが、積極的に村山先輩の説得に乗り出すとは考えにくい。
舞が説得役をやらない以上、藍にかかるプレッシャーは半端ではない。なにしろ、教育実習生の未来と自身の未来(?)の両方が自分の双肩にかかっているのだから。俺も唯もそれをピリピリと感じているから藍に話しかけるのも憚っているし、俺たちが二人だけで無邪気に話をするのも藍に失礼な気がして、結局、朝からほとんど会話らしい会話をしていないのだ。
村山先輩と舞との待ち合わせ場所は、大通りの地下街にあるWcDである。10時半からリアル脱出ゲームが始まるので、少なくとも10時にはサッポロファトリーに行く必要がある。だから俺たちはここに8時半に集まり、9時半までの1時間で話をする事にした。
俺たち三人がWcDに来たのは8時頃だ。だが、村山先輩も舞も来てなかった。舞はほどなくやってきたので、俺たち『佐藤きょうだい』は立ちながら今日この後に起こりうる話の展開について予想しあったが、どう転んでも俺たちが希望する通りにならなそうだ。舞も今回ばかりは匙を投げたような恰好であり、藍はますます悲壮な決意を固めたように思えた。結局、村山先輩は約束の時間ギリギリにやってきた。
俺たち五人は適当に注文を済ませると店内の席に座った。藍が真ん中に座り、藍の左に唯、右に俺だ。村山先輩は藍と向かい合う形で座り、俺の正面に舞が座った。
朝なのでポテトといってもハッシュポテトであり、それを俺たちはつまみつつコーヒーを飲んでいる。だが、席に座ってからは誰も会話をしないので重苦しい空気に包まれていて、まるでここだけ別の空間になったかのような感じである。
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