195話
「此処までありがとうございました。此処は危険ですので、どこかに隠れておいてください」
流石に、此処から一人で帰れというのは酷なので、俺はそう言う。
「分かりました。戦闘で役立てればよかったのですが……」
「いえ、此処まで運んでもらっただけで充分ですよ。俺達、誰も操縦できませんからね」
「そうですわ! 貴方には本当に感謝していますわ」
俺の言葉に賛同するようにフラムが叫ぶ。
他の面々も同じように礼を言う。
「そう言っていただけて幸いです。では……ご武運を祈ります」
その言葉を最後に、俺達は操縦士と別れると城へと向かう。
天空城は思ったよりも広く、俺達は少し先に城門が見えた。
「しっかし、こんな城一体何処で見つけたのか」
「それは私にも分からんが……移動型の村を作るくらいだ。城を浮かせるくらい、あいつにとっては造作もない事だろう」
誰に聞くわけでもない俺のつぶやきにジャスティナが答える。
まあ、それもそうだな。あいつは、俺達の知らない技術をいくつも持っている。
いちいち気にしてても仕方ない。
「さてさて、それじゃーさっさとあいつの居場所探して、また一直線で向かうか」
「それはやめておいた方が良い」
俺が両手を地面について
「ワイズマンの事だ。以前の事から学んで対策している可能性が高い。下手にズルをするのは得策ではないな」
ズルと言われるのは心外だが、確かにジャスティナの言う通りだ。
今俺は、特に何も考えずに
ジャスティナの言うように罠を仕掛けてるだろう。
あいつ、普通に攻略してほしいみたいな事言ってたしな。
「……仕方ない。普通に行くか」
「何で不満そうなんですか……」
俺が渋々そう言うと、キリエが呆れたように言う。
「アルバ様ですからねぇ」
「うん、アルバだからねぇ」
「仕方ない仕方ない」
キリエの言葉に、フラム、アルディ、フォレが悟ったような表情でウンウン頷きながら言う。
誠に遺憾である。
「ほら、馬鹿な話をするな。門に到着したぞ」
ジャスティナの言葉に前を向けば、確かに到着していた。
高さは五m程あり、鉄製なのか非常に重厚感がある門だ。
左右には、門と同じ高さの全身鎧の石像が立っている。
開けるのは苦労しそうである。
「とりあえず、開くかどうか試してみるか」
俺は、一応周りを警戒しながら門へと近づき軽く押してみる。
「お……?」
押してみると、見た目の割に意外とあっさりと開く。
まあ、流石に門には何も細工してなかったか。
警戒してただけに、少し拍子抜け……、
「っとぉ!」
俺は、殺気を感じるとすぐさまその場から離れる。
すると、さっきまで俺が立っていた位置には巨大な剣が二本振り下ろされていた。
どうやら、左右に立っていた石像が攻撃したらしい。
「これまたド定番だな」
動き出した石像達は、門の前に立ち塞がる。
どうやら、自分達を倒さないと通さないって事らしい。
なんとも面倒な事だ。
「ふん、ただデカいだけで動きは鈍い雑魚だな」
「ですわね。この方達に構ってる暇はありません。さっさとカタをつけますわ!
「風雷弓!」
フラムとフォレが前に出ると、それぞれの石像に魔法攻撃を与える。
石像は、それを避けるそぶりも見せずに受ける。
フラムの放った魔法により、石像達は土煙に包まれる。
「やったかな?」
リーベがフラグな台詞を吐く。
「な、あいつ全く効いてないよ!」
土煙が晴れると、全く無傷な石像が現れタマ姉が驚く。
まあ、リーベがあんな台詞を吐いた時点で予想はついていた。
無傷なのは、流石に少し予想外だったが。
「やったか⁉」は、やってないフラグなので、あまり言わない方が良い。
「ならば、これはどうですの!
石像が無傷なのを確認すると、フラムはすかさず次の攻撃を放つ。
「光浄の突き!」
「炎熱剣!」
それに追撃するようにキリエやジャスティナも魔法放つ。
しかし、ジャスティナの斬撃こそ効いたようだが、魔法自体は効いてないようだった。
「……なるほど、魔法無効化か」
石像の様子から、そのからくりが分かったのかジャスティナは忌々しげに言う。
「魔法無効化⁉ そんな魔物、聞いたことがありませんわ!」
「……奴なら、それが出来るんだよ。どうやってるかは分からんがな」
驚くフラムにジャスティナが答える。
魔法無効化、それは文字通り魔法を無効化してしまうチート能力だ。
魔法が普及しているこの世界では、魔法無効化を持つ魔物は天敵だろう。
だが、物理攻撃は効くようなので物理で倒せば良い。
「仕方ない。皆は下がってて、俺とアルディ、グラさん。後は、フォレとジャスティナの物理パーティであいつを倒す」
タマ姉は物理と言えば物理だが、実体がある相手には弱いので数に入れない。
くそ、初っ端から面倒なの用意しやがって。
見れば、先程ジャスティナから受けたダメージも回復している。
魔法無効化に回復持ちとか本気でめんどくせぇ。
ワイズマン戦前にあまり魔力を使いたくなかったのだが、仕方あるまい。
「きええええああああああ!」
「でりゃあっ!」
いざ戦闘を開始しようとしたところで、二つの叫び声が聞こえ、俺達の横を通り過ぎる。
一人は、何やら大剣を担ぎながら軽々と飛び上がると石像の首を落とし、もう一人はス〇ンドのような黒い物体を背中に背負い、もう一体の石像をぶっ飛ばす。
「にんっ!」
そして、最後に何かが空から現れ大量のクナイを石像達に突き刺していく。
「……ふう、遅れてすまんのう。アルバ」
「ノブナガ!」
石像を攻撃したのは、ノブナガ達だった。
大剣の男は知らないが、もう一人の方は見覚えがあった。
「久しぶりでゴザルな、アルバ殿」
「……ええ、学園の時以来ですね」
そこには、真っ白な肌と四本の腕が印象的なクノイチ……ツバキ・ヤツアシが立っていた。
彼女は、俺が学園に居た頃に武闘大会で戦っている。
その後も、風雲アルバ城の建築を手伝って貰ったりした。
「ヤマトから戻る時に偶然会ってのう。おぬしらを知っているというから連れて来たのだ。そして、こっちの大剣の男はトヨヒサじゃ」
「よろしくな。
自己紹介するトヨヒサに俺はペコリと頭を下げる。
「案の定、ヤマトも襲われておっての。その対応に遅れてしまったわ」
「大丈夫だったんですか?」
「ああ。後は雑魚ばかりじゃったからな、ミツヒデやヒサヒデに任せて来た!」
ノブナガの言葉を聞いて、面倒な事を丸投げされたミツヒデとヒサヒデに俺は同情する。
「ま、という訳で助太刀に来たわけじゃ。こいつらは、ワシに任せてお主らは先に行けぃ!」
「でも……」
「拙者らを信じるでゴザル。拙者も、学園を卒業してから腕を磨いたでゴザルからな」
渋る俺に、ツバキはそう言う。
「アルバ様……あまり時間を掛けてる余裕はありませんわ。此処は、この方達に任せて行きましょう」
フラムのいう事も分かるが、敵は回復持ちだ。三人だけでは荷が重い。
「……なら、ボクも残るよ。一応、弓も物理だしね」
「でしたら、回復係で私も残りましょう。体力を回復させる魔法もありますし」
そこへ、フォレとキリエが名乗りを上げる。
「おお! 回復役が残ってくれるのはありがたい! ワシらの中には、回復魔法を使える奴がおらんからな! ……じゃが、そうするとそっちに回復魔法を使える奴は……」
「ふははははは! 此処に居るぞ!」
ノブナガの疑問に答えるように、後ろから声が聞こえる。
振り向けばそこには、三人の人物がいた。
「ヤツフサ! それにスターディとカルネージも!」
先程魔導船に乗っていたヤツフサに、大盾を持った桃色の髪のスターディ。それに何故かヤツフサに背負われたマスクを着けたカルネージ。
「ヤツフサは分かるとして、二人はどうして……?」
「ヤツフサさんの魔導船に一緒に乗ってたんですよー。久しぶりに王都に帰ったら、ヤツフサさんにお会いして……アルバさん達が大変だって言うので付いてきたんですー」
「そういう訳だ! ありがたく思うがいい!」
いまだに人前で素顔を出すのが恥ずかしいのか、中二病になってしまう仮面を着けたカルネージがヤツフサの背中で偉そうに叫ぶ。
「確かにありがたいけど……カルネージはどうしてヤツフサに背負われてんの?」
「ふっ、愚問だな……高いところが怖くて腰が抜けたのだ!」
俺の問いに対し、カルネージは情けない事を自信満々に言い放つ。
「……馬鹿なのか、あいつは?」
ジャスティナの言う事も分からなくはない。
彼の素顔を知らなければ、そう思ってしまうだろう。
だが、素顔を知ってる俺達からすれば、怖いのを我慢して駆けつけてくれたという事実が嬉しかった。
「回復魔法は俺様も得意だからな。これからは、俺様達がアルバに同行しよう」
三人の実力は、学園時代から知っているからかなり心強い。
「ふむ、これなら人数も充分じゃしアルバも安心して先に行けるじゃろ?」
「……そう、だな」
確かに、これなら安心できる。
キリエは(二つの意味で)腐っても七元徳の一人だ。彼女が居れば、まず死にはしないだろう。
「ごめん、ノブナガ、ツバキ……それにトヨヒサさん。フォレ達も……後は任せた!」
「おう!」
俺の言葉に、ノブナガ達は力強く頷く。
それを合図に石像達も復活したのか、こちらへと襲い掛かってくる。
「首、寄越せえええええ!」
それを見たトヨヒサは物騒な事を叫びながら、石像へと向かっていく。
再び石像との戦闘が始まり、俺達はその隙を突いて城門の中へと駆け込む。
それから少し走った後、俺達は庭園の様な場所に出る。
その中央では、一人の男が立っていた。
「いらっしゃーい、アルバくーん。と、その他大勢。予想よりも石像達で手こずってたみたいだねぇ」
「エスペーロ!」
人を捨てたエスペーロがニヤニヤしながらそんな事を言う。
元の原型は一応残っているが、肌は青白くなり翼も禍々しさを増していた。
「いやー、邪神の力って凄いねー? どんどん力が湧いて出てきて……今、とっても希望に満ち溢れているよ!」
エスペーロは芝居がかった動きで大仰に天を仰ぎながら言う。
「……さぁ、俺にもっと希望を感じさせてくれ!」
エスペーロがバサリと翼を広げると、耳障りな音が耳にまとわりつく。
奴の得意な魔法である振動だ。
あいつは、空気も振動させることができ、直接手を出さなくても敵を無力化することができる。
エスペーロの魔法は、完全に不可視の為、奴を倒すには骨が折れる。
「……タマ姉?」
奴をどう倒そうか考えていると、タマ姉が無言で前に出る。
「久しぶりねぇ、ショタホモ野郎」
「……ああ、いつぞやのワーウルフの女か」
鉱山の事を思い出したのか、エスペーロは苦々しい表情を浮かべる。
「アルバきゅん、この変態は私に任せなさい」
「タマ姉! 一人じゃ危険だよ!」
「そうだよ! だったら、俺も……」
「だまらっしゃい!」
俺とヤツフサの言葉を遮るようにタマ姉は叫ぶ。
「良い? あいつに対抗できるのは私だけなのよ? アンタ達は、ぶっちゃけ足手まといなの。だから、さっさと先に進んで親玉を倒してきなさい」
……確かに、エスペーロに対して有利な手段を持ってるのは、全てが見えるというタマ姉だけだ。
しかも、タマ姉の持つ刀は実体の無い物を斬る。
そう、不可視の魔法でさえも斬れるのだ。そのおかげで、以前もエスペーロ相手に圧勝していた。
「でも、一人だけじゃ……」
今回、相手は一人だが魔人化をしている。
いかにタマ姉と言えど……、
「じゃあ、三人なら良いでちね?」
いつの間に現れたのか、俺達の前にはエレメアとリズが立っていた。
二人共、以前会った時と変わらず魔女スタイルと軍服スタイルだった。
「久しぶりであります。ジャスティナ、それにリーベも」
「……元気そうで何よりだ」
「ふふ、久しぶりだねぇ」
リズがジャスティナとリーベに挨拶をすると、二人も挨拶を返す。
「そして、エスペーロ……堕ちるとこまで堕ちたでありますな」
「進化したと言って貰いたいねぇ? リスパルミオ」
睨みつけてくるリズに対し、エスペーロは涼しい顔をして答える。
「まったく、邪神の臭いが濃くなったかと思えば、面倒な事になってるでちね」
「エレメア……さん。何でここに?」
「邪神の気配を辿ってたら、此処が見つかったんでちよ。それで転移して来れば、アルバ達と目の前の邪神の臭いがプンプンする男が居たってわけでち」
エレメアはさらっと言うが、結構凄い事をやってのけている。
まず離れた場所から邪神の気配を察知してるのも凄いし、転移魔法なんて高等技術を使うのも凄い。
「魔法が効かない相手ならいざ知らず、魔法が効くなら私に負ける理由は無いでちよ」
「あはは! 随分自信満々だねぇ! そんなちんちくりんな姿でどうやって勝つって言うんだい? バトロアでも、手も足も出なかったくせに!」
確かにエスペーロの言う通りだ。
今のエレメアは邪神の呪いによってちんりくりんになっている。
その姿では、全盛期の半分以下の力しかない。
「ふん。アタシが何の対策もしてないと思ってたでちか?」
エスペーロの言葉を聞いて、エレメアはニヤリと笑うと懐から液体の入った試験管を取り出すと、それを一気に飲み干す。
すると、エレメアの体が一瞬光ったかと思えば、大人の体へと戻っていた。
「ようやく完成した邪神の呪いを薄める薬よ。もっとも、まだ試作品だからまだ完全じゃないけどね」
エレメアはそう言うとウィンクをする。
「……ふ、ふん。それも良いさ。絶望が大きければ大きい程、それを乗り越えた時の希望がステキな物になるからね」
「相変わらず、希望希望うるさい奴であります」
「ま、そういうわけだからさ。安心して先に進みなさいな」
「させると思うかい?」
「思ってるよ」
エスペーロが一瞬で距離を詰めてくるが、見えていたタマ姉が前に立ちはだかるとエスペーロの攻撃を受ける。
「早く行きなさい! ヤツフサ、皆を……特にアルバきゅんを守るんだよ!」
「……分かった、タマ姉! アルバ、皆……行こう!」
タマ姉の言葉に、ヤツフサは力強く頷く。
後ろ髪を引かれる思いをしながら、俺達は再び走り出すのだった。
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