177話

 ノブナガと呼ばれる女性と出会った俺達は、彼女に誘われてとある料亭に来ていた。

 何故誘われたのかは分からないが、とても断れる雰囲気ではなく、こうして大人しく着いてきたのだ。


「さて、改めて名乗ろう。ワシの名は、オダ・ノブナガじゃ。大陸の人間も居るので一応説明すると、ノブナガの方が名前じゃ。このヤマトの国の現当主をやらせてもらっておる」


 ノブナガは、胡坐を掻きながら自己紹介してくる。

 ていうか、ヤマトの国のトップかよ。

 まさか、いきなりそんな大人物に出会うとは思っていなかった。

 ていうか、良いのかよ、こんな気軽に外なんか出て。


「そして、ワシの右に居るのがヒサヒデ。左がミツヒデじゃ」


 そして、ノブナガは次に両隣に居る人物を紹介する。

 ノブナガの右に控えている人物は、切れ長の目が印象的な涼しげな顔をした妙齢の女性。

 左に控えているのは、腰までありそうな長い白髪で、温和そうな表情を浮かべた男性だった。

 右がヒサヒデに左がミツヒデね。了解。

 っていうか、どっちも裏切りフラグがビンビンなんですが。

 特にヒサヒデの方は、茶釜に火薬詰めて爆死しそう。

 そして、ギリワンさんとか呼ばれてそう。いや、その武将自体は好きなんだけどね?



「おい、アルバ。オダ・ノブナガって確か……ジャパンアニメによく出てくるブショウとやらじゃないか?」


 初めての畳にどうやって座ろうか苦戦していたジャスティナが俺に耳打ちしてくる。

 ああ、すっかり忘れてたけど、そういえばジャスティナも地球出身だったな。

 台詞から日本出身ではないと分かったが、どこの国なんだろうな。


「ああ、俺も名前を聞いた時ビビったよ。でも、女だからただの同名なだけだと思うんだけどさ」


 俺も、ジャスティナ同様に相手に聞こえないよう声を小さくして答える。

 昨今のアニメやらでは女性として描かれているが、史実として伝わっている信長は男だ。


「ふむ、その様子じゃとそっちの黒髪の女もワシ……というかワシの名前を知っているようじゃの?」


 ジャスティナの様子を見て、ノブナガは愉快そうに口を歪める。


「ワシは謀は得意ではないから単刀直入に聞くぞ? おぬしら、地球とやらから来たじゃろ」


 ノブナガは、俺達の方を見ながら確信を持ってそう言う。


「……何故、そう思ったんですか?」


 別に誰かに言われて隠しているとかではないが、もし良からぬ輩に知られれば、未知の技術を教えろとかそういう事を言ってくるかもしれないので警戒していた。

 もし、それを教えて世界のバランスが崩れてしまったら俺は責任を持てない。

 え? 魔法には地球の知識使ってるじゃねーかって? あれは、魔法っていう不思議パワーを経由してるから良いんだよ。

 ご都合主義万歳。


「おぬし、ワシの名前を聞いて驚いてたじゃろ? ワシがこの国のトップだと予め知っていたら驚くこともあるじゃろう。じゃが、おぬしはさっきの自己紹介で初めてワシをトップだと知った反応をした。ならば、あの時の反応は何だったのか? それは、地球でワシの名前……正確に言えば初代の織田信長を知っているからこその反応じゃ。違うか?」


 ……なんだ、この観察眼は。

 確かにトップだと知って驚きはしたが、表には出さなかったはずだぞ。

 ちなみに、フォレとリーベは状況がつかめないのか頭に疑問符を浮かべている。

 あ、そうそう。リーベは、今はちゃんと服を着ている。

 最初は嫌がっていたのだが、ジャスティナが命令したので渋々といった感じだが。


「……ああ、別に警戒せんでも良い。別に、地球の技術を教えろとかそういう事を言いたいわけではないから」


 俺とジャスティナの緊迫した空気を読み取ったのか、ノブナガはカラカラと笑いながら言う。


「実はの、ワシが地球を知っているのは初代の信長の言葉があるからじゃ」


「信長の言葉?」


「初代信長様は、ホンノージと呼ばれる寺で火に囲まれて死ぬところだったのですが、気づいたらこの島に居たそうです」


 俺がおうむ返しに尋ねると、ミツヒデが答える。

 ああ、本能寺の変か。確か1582年だったかな……1582イチゴパンツって覚えてたなぁ。

 ていうか、その説明をミツヒデがするって何の皮肉だよ。


「細かな詳細は省きますが……当時はヤマトの国というのは無く、それぞれバラバラの集落でしたが、初代が国としての体制を整え、今日まで発展してきたのです」


 なるほど、じゃあ信長は異世界で天下統一を果たしたのか。

 島国だけど。


「そして死ぬまでの間に、おぬしらと同じように地球とやらから来た者に会ったらしい。その度に、自分の名前を聞いて驚かれたと伝わっておる」


 そりゃまぁ、地球では超有名人だからな。その子孫も今はテレビで有名人だし。


「ワシらは、初代の血を引いているのか、そういう珍しい話に目が無くての。地球から来た奴らを見つけやすくするために、オダ・ノブナガという名前を襲名性にしておる。ちなみに、ワシは十五代目オダ・ノブナガじゃ」


 はー、なるほどな。

 しかし、そんな事の為にわざわざ襲名性にするなんて、流石というかなんというか……。


「そして、目論みが当たり、ワシはおぬしらに出会えたという訳じゃ。ちなみに、ワシがおぬしらに聞きたい話は……」


 ノブナガが一旦言葉を切ると、再び口を開く。


「地球の……ニホンとやらに居た時の初代の話を聞きたいのじゃ。初代は今、どういう扱いをされておるんじゃ? 先代達からは、今も向こうでは有名じゃという話しか聞かんでな」


 ノブナガの言葉に、俺とジャスティナは顔を見合わせる。

 多分だが、ジャスティナは俺と同じ時代を生きていたと思う。

 だからこそ、俺と同じような微妙な表情を浮かべているのだ。

 

「ちなみに、我が主様は嘘や誤魔化しがお嫌いだ。もし、主様が納得いかなかった場合……貴様らを爆破する」


 俺達が黙っていると、先程まで静かにしていたクール美人のヒサヒデが物騒な事を言ってくる。

 ていうか、爆破って……これも、ある意味史実に沿っているのだろうか。

 なんか、ここら辺はあいつの作為を感じる気がする。なんせ、日本出身のオタクだし、それくらいの事はしそうだ。


「これ、ヒサヒデ。客人に失礼な態度をとるでない」


「申し訳ありません」


 ノブナガが、先程の発言を諌めるとヒサヒデは素直に頭を下げて謝る。

 うーん……まあ、言っちゃっても良いか。

 

「えーとですね、貴女の先祖なのですが創作物でかなり引っ張りだこなんですよ。俺の住んでたところでも一、二を争う程の人気だと思います」


「ほお? 流石はワシの先祖じゃな」


 俺の言葉を聞いて、ノブナガは嬉しそうにする。

 脇の二人も当然だとばかりに頷いている。


「ただ……」


「ただ?」


「その、それらの作品では……信長は女性になったり、空を飛んだり闇を操ったり、ロボ……巨大なゴーレムのような物に乗ったり、死んでも復活したりしてますね」


 日本は、それはもう本人に怒られるんじゃないかってくらい信長を魔改造してくれちゃっている。


「それは……本当に人間なのか? 確か、初代は魔法も使えないと聞いていたのだが」


「残念だが、本当だ」


 信じられないと言った感じで尋ねてくるノブナガに対し、ジャスティナはコクリと頷く。


「なんと……」


「おやおや」


 ヒサヒデとミツヒデも、予想外という表情を浮かべている。

 まあ、自分の主の先祖がそんなハチャメチャな扱いをしていると知ったら驚きもするだろう。

 

「く……」


 ノブナガも、やはりショックなのか顔を手で覆って俯く。

 そりゃショックだよなぁ。女体化だぜ女体化。自分の先祖が女体化されて萌えの対象になってるとか知ったら俺も微妙な気分になるよ。


「くははははは! 流石は我が先祖だ! 扱われ方も型にハマらないとは!」


 しかし、ショックを受けていたと思ったノブナガは豪快に笑いだす。


「いやー、まさか今はそんな風になってるとはな。おぬしらの居た世界も大分面白いな」


 いやまぁ、サブカルに関しては節操無くて面白いっちゃ面白いんだけどね。

 褒められているんだろうが、なんとも微妙な気分だ。


「愉快な話が聞けて、ワシは気分が良い。おぬしらからは、他にも色々な話を聞きたい。聞かせてくれるな?」


 ノブナガの鋭い眼光に射すくめられ、俺は再びイエスと答えるのだった。

 ああ、ノーとは言えない自分が憎い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る