157話
ギガを倒してから三ヵ月後。
そこには英雄と持て囃されて調子に乗った挙句、口車に乗せられて街の修復作業で真っ白になった男が居た。
ていうか俺だった。
「お、お疲れ様です。アルバ様……」
俺がベッドの上に死体のように転がっていると、フラムが声を掛けてくる。
「全くだよ……オヤカタめ。人が土魔法が得意だからってこき使いやがって」
怒鳴るわ小突くわ人使い荒いわで大変だった。
「ワシは結構楽しかったぞ。久しぶりの召喚だったしな」
「私も楽しかったー! お昼になると、おばさん達がお菓子くれるんだよ!」
グラさんとアルディがテーブルの上にあるお菓子を食べながら、そんな事を言う。
土魔法を使える人材が必要だと言われたので、グラさんにも手伝って貰っていたのだ。
本人としては、戦闘で役に立ちたかったらしく最初はブツブツ言っていたが、さっき言ってたみたいに後半は楽しく作業をしていた。
そんな風に楽しく作業する人達に仕事を割り振ればいいのに、オヤカタは何故か俺ばかりに仕事を振っていた。
ちなみに、エレメアは上手くサボっていた。
ケットとリズは真面目にやってたというのに困った人である。
お蔭で、無駄に土魔法の熟練度が上がってしまったではないか。いや、悪い事ではないんだけど、過程が過程だけに腑に落ちない。
「皆さん、喜んでらしたから良いではありませんの」
俺が愚痴を言っているとフラムがフォローをしてくる。
いや、そうなんだけどー。
「そうだよ、それにカッコいい二つ名もついたじゃん」
「あー、あれなー……」
「なんじゃ、随分乗り気じゃないな。カッコいい二つ名が付くのが夢だったんじゃろ?」
アルディの言葉に対しテンション低めに返事をすると、グラさんが不思議そうに聞いてくる。
「確かに、
卑劣だとか非道だとかに比べれば……いや、比べるまでもなくカッコいい二つ名なので俺も当初は喜んでいたのだが、オヤカタ含め周りの奴らが面白半分で呼ぶもんだから、すっかり有難みがなくなってしまった。
「よぉ、
ノックもせず、豪快に扉を開けて入ってきたのは人使いの荒さに定評のあるオヤカタだ。
ほらな? こんな感じで、からかう感じで呼んでくるんだよ。嫌になってくるわ。
「なんですか? 修復作業は昨日で終わったはずですよ?」
武闘大会の再開も一週間後のはずだ。
本当は中止でも良かったのだが、景気づけという意味も込めてあえて再開するそうだ。
まったく、此処の住人は逞しくて困る。
「いやな、ちょっとお前さんに見せたい物があってな。ちょっと来てくれるか?」
「見せたい物……ですか?」
なんだろうな。オヤカタが笑顔な時点であんまり良い予感はしない。
「まぁ! オヤカタさんが見せたい物ですの? それは、是非とも見なきゃいけませんわね!」
「そうそう! オヤカタが言うなら絶対見なきゃ!」
俺がオヤカタの誘いに渋っていると、フラムとアルディが不自然なくらい明るい調子で言ってくる。
「……二人共、何か知ってるの?」
「さ、さー? 私は知りませんわ? ただ、オヤカタさんが見せたい物があると仰っているので見た方が良いかと思いまして……」
「そ、そーだよそーだよ! 私もよく知らないけど見た方が良いなら見なきゃね!」
「グラさんは、何か知ってる?」
「うーん? ワシも知らんぞ?」
三人とも目を逸らしながら答えるので、知らないなんて絶対嘘だろうと思うが、多分このまま追及しても無駄だろう。
フラム達が勧めるという事は、そんな悪い物でもあるまい。
「……分かりました。何処に行けばいいんです?」
俺は、渋々ながらもオヤカタにそう尋ねるのだった。
◆
「此処……ですか?」
俺が連れて来られたのは、ギガと戦った中心地にある広場だった。
此処は、最初の内に直した後来たことが無かった。
オヤカタに色々仕事を押し付けられたのもあり、来る機会が無かったのだ。
広場の中央には、大きな布が掛かった何かがあった。
すぐ傍には、エレメアとケット、それにリズが居た。宿に居ないと思ったら此処に居たのか。
スターディとカルネージも居たが、それよりも周りにも大勢人が居たことが気にかかる。
「それじゃ、この紐を引っ張ってくれや」
オヤカタと一緒に布が掛かっている何かの近くまで来ると、布にくっついている紐を渡してくる。
「……これ引っ張ったら爆発とかしませんよね?」
「お前は何をビビってるでちか。良いから、さっさと引くでちよ」
俺がビビっていると、エレメアが呆れながら話しかけてくる。
「そそ、ビビらんとさっさと引けばええんや。大丈夫、何も恐くあらへんから」
「そうでありますよ。さぁ、一気に……」
ケットやリズも笑顔でそう言ってくるが、胡散臭すぎて何も安心できない。
とはいえ、周りの人間も何やら期待を込めた目でこちらを見ているので、紐を引っ張らないわけにも行かない。
「……えーい、やってやらぁ!」
俺は覚悟を決めて、一気に紐を引っ張る。
布がそのまま地面に落ちると、そこに台座に乗った銅像が立っていた。
「これは……俺か?」
少し美化されてるような気がしなくもないが、それは間違いなく俺だった。
台座には、『
「まぁ、なんだ……その、な。お前さんに街を救ってもらったのは事実だからな。感謝の気持ちを込めて建てたんだ。お前さんを驚かせようと思って、わざと近づかせないようにして秘密にしてな」
オヤカタは、照れくさそうに頬を掻きながら言う。
「じゃあ……わざと俺に仕事を押し付けてたのも……?」
俺を広場に近づかせないようにって事か。
そう考えれば、この三ヵ月死に物狂いで働いてたのも許せるかもしれない。
「いや、それは単にお前さんが便利だから。ほら、お前さんは若いが、此処の誰よりも土魔法に長けてるからな」
俺の言葉に、オヤカタはあっけらかんと言い放つ。
なんだよもう! 俺の感動返せよ!
「いやー、そこのお嬢ちゃんからもお前さんをこき使っていいって言われてたからなぁ」
オヤカタが指さす先にはエレメアが立っており、俺が睨むと笑顔を浮かべる。
「これも修行でち。てへぺろ♪」
てへぺろじゃねーよ! 顔が良いだけに普通に可愛いけど、そんなんじゃ誤魔化されねーよ!
「まぁまぁ、男が細かい事で気にしたらダメでちよ。それよりもほら、言う事があるでちよ?」
悪びれもせずそう言うエレメア。
むう、確かにわざわざ銅像を作ってもらったのだから、礼くらい言わんとな。
「その……銅像なんて少し恥ずかしいですけど、とても嬉しいです。あ、ありがとうございます」
俺は、周りの人達に向かって礼を言うと頭を下げる。
「こっちこそありがとうなー! 街を救ってくれて!」
「土魔法見直したぞー!」
「アルバちゃんかわいー! 男でも良いから俺と付き合ってくれー!」
俺の言葉に対し、周りの人達は口々に言葉を投げかけてくる。
ていうか、最後待てや。
「今日は、街の修復終了記念パーティだ! 貴族も平民も関係ねー! 無礼講で行くぞおらー!」
オヤカタが腕を突き上げてそう叫ぶと、辺りは大歓声に包まれるのだった。
◆
それからは、大変だった。
広場では、凄い速さでパーティの準備が行われ、美味しそうな料理が並べられていく。
町長からは改めてお礼を言われ、街の奴らからも代わる代わるお礼を言われた。
女性も居たが、何故か男の比率が多かったのは謎だ。
なんとなく予想はつくが、俺の心の平和の為にも謎のままにしておく事にした。
「うええ、疲れたー……」
ようやく解放された俺は、料理を片手に隅までやってくる。
フラム達も俺の仲間だという事で、街の人達に捕まっている。なので、今の俺は久しぶりにぼっちである。
ちなみに、グラさんはスイーツエリアでご満悦そうにしていた。
幸せそうで何よりである。
「お疲れであります」
ぼっちだったのも束の間で、ワイングラスを持っているリズがやってくる。
「まったくだ。皆、中々離してくれないんだもんよ」
中身が年上だと知るや、リズは俺にタメ口で話せと強要してきたのでタメ口で話している。
最初は断ったのだが、敬語で話すと人には話せないような事をすると言われたのでタメ口で話している。
「ふふ、それだけアルバ殿を慕っている証拠でありますよ」
そういうもんかねー。
それから、しばらくの間リズと雑談をする。
「おお、此処に居たでちね」
すると、酔っているのか若干顔を赤くしたエレメアがやってくる。
「ついでにリズも居たでちか。ちょうど良かったでち」
「何かあったんですか?」
「うむ。ちょっと話したい事があったんでちよ。リズにも関係ある事でち」
エレメアの言葉に、俺とリズは顔を見合わせる。
「明日、私とケット。後、リズも一緒に旅に出るでち」
「え? それまた急ですね。ていうか、なんでリズも?」
「急というか、前々から決めてた事でちね。とりあえず、この街の修復作業を終わるまで待ってたでちが、良い機会でちからね」
「というか、なんで私も一緒なんでありますか? 私はアルバ殿と……」
確かに。エレメアとケットは、元々も一時的にという話だったから分からなくもないが、リズは俺達に着いてくると言っていたので、彼女も一緒というのは不思議だ。
「まあ、リズも一緒の方が都合が良いんでちよ。前までは、アルバと一緒でも良かったでちが状況が変わったでちからね」
状況が変わった?
リズ関連で状況が変わったとなると……。
「
俺が確信を持ってそう言うと、エレメアはコクリと頷く。
「そうでち。わざわざリスクを冒してまでギガを甦らせたり、自分自身を魔人化し始めたりして、ちょっときな臭くなってきたでちからね。私なりに情報を集める必要があるんでち」
「それなら、私は一緒に行く必要は無いのでは? 私は私で、アルバ殿と一緒に情報を集めるでありますから」
「そうはいかないでち。言ったでちよ。リズが居た方が都合が良いって」
尚も食い下がろうとするリズを、エレメアはあっさり一蹴する。
「本当は私だって、隠遁生活を続けたいでちよ。だけど、それを我慢しようって言ってるんでち。だから、リズも我慢するでち」
「……分かったであります」
エレメアの言葉に、リズはしばらく悩んだかと思うと血の涙を流しながら頷く。
そんなに俺と一緒に行きたかったのか。
リズの様子を見たら、俺と一緒でも良いんじゃないかと思いエレメアにそう伝えようと口を開こうとしたところで、
「このままアルバ殿と旅を続けてあれやこれやを期待してたのに……!」
という、リズの言葉により一気に冷めた俺だった。
それから、合流したフラム達にも同じ内容を話し、その日は名残を惜しむように大いに盛り上がるのだった。
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