158話

「それじゃ、私達は行くでちよ」


「本当に大会見ていかないんですか?」


 翌日、早速出発するというエレメア達に尋ねてみる。


「まあ、今の実力ならお前達は大丈夫だと判断した結果でちよ」


 俺の問いに対し、エレメアはそんな事を言うが正直買被りすぎだと思うんだが。


「うう、私としてはこのままアルバ殿達と一緒に居たいであります……」


 エレメアはまだ未練があるのか、リズは名残惜しそうにしている。


「えーい、しつこいでちよ。恨むなら、あんな組織に所属していた自分を恨むんでちね」


 リズは、エレメアの言葉にグッと言葉を呑みこんで大人しくなる。

 まあ、過去は気にしないとは言ったが元々邪教団の幹部だしな。

 かつて世界を救った英雄の監視下に居るのが一番安全かもしれない。


「きっといつかまた会えるさ。だからそう落ち込むなって」


 今まで敬語で接していたので、タメ口にまだ若干の違和感を覚える。

 もう自分を偽らないと決めたから、慣れるしかないんだけどな。


「ア、アルバ殿ぉ……」


「ほらほら、さっさと行くでちよ。魔導船が出ちゃうでち」


 エレメアは、鼻水垂らしながら俺に抱き着こうとするリズの首根っこを掴むとそのまま立ち去ってしまう。

 俺は、エレメア達が見えなくなるまで手を振りながら見送る。


「……ふう、行っちゃったな」


 なんだかんだでエレメア達とは一年近く一緒だったので、急に居なくなると寂しくなってしまう。

 やはり、別れというのは何度経験しても慣れない。

 

「もう行ってじまったんでずの?」


 俺がしんみりしていると、宿の中から鼻声が聞こえてくる。

 扉を開けて出てきたのは、鼻水やら涙やらをだだ流しのフラムだった。正直、女の子がしちゃいけない顔だが、親しい人と別れるのだから仕方あるまい。


「フラム、また鼻出てるよ。ほら、チーン」


 アルディが、母親の様にティッシュを持ってフラムの鼻へと持っていく。

 フラムも大人しくされるがままになり、そのまま鼻をかむ。

 最初は、アルディ達も一緒に見送りする予定だったのだが、この通りフラムが穴という穴から噴水の如く液体をまき散らしてしまって別れどころじゃなかったのだ。

 アルディがフラムを宥め、代表して俺が見送りしたというわけだ。


「うう……申し訳ありません」


 やっと落ち着いたフラムは、シュンと落ち込みながら謝ってくる。


「気にする必要は無いよ。誰だって別れは悲しいもんさ」


「アルバ様はお強いんですのね……」


「伊達に中身はおっさんじゃないからねー」

 

 フラムの言葉に、俺は軽くそう答える。

 悲しくはなるが、流石に鼻水ぶっ垂らして泣くほどではない。

 もっとも、さらに年取ったら涙腺が緩くなるかもしれないがな。


「ほらほら! 今日から大会が再開するんだから、エレメア達に会った時に恥ずかしくない報告を出来るように頑張らなきゃ!」


 俺は、パンパンと軽く手を叩きながらフラムを励ます。


「そう……ですわね。頑張って、良い報告を出来るようにしないといけませんわね」


 俺の励ましが上手くいったのか、フラムは涙を拭くと笑みを浮かべる。


「うへへ、久々に戦うから楽しみだなー」


 アルディは、体を軽く動かしながら笑顔で話す。

 その後、俺達は朝食を済ませ、それぞれの会場に向かうのだった。



「あっらー! アルバ君じゃなーい! ようやく見つけたわよ!」


「うげ……」


 会場に着くと、俺は朝から会いたくない人物に会ってしまい露骨に嫌な表情を浮かべる。

 

「うっふっふ……どう? あの事は考えてくれたかしらん?」


「だから、俺はアイドルになる気は無いですって、プロドゥさん」


 俺は、朝からテンションの高いオカマ野郎……プロドゥにそう返事をする。

 プロドゥは、エレメントスリーとかいう三人グループのアイドル冒険者をプロデュースしているプロデューサーみたいなものだ。

 ブラハリーと他二名からなるアイドル冒険者で、土属性だけ居なかったのだがギガの一件以来、こうやってしつこく勧誘してくるのだ。


「なんでよー。だって貴方、土属性の地位向上をしたいんでしょう? なら、アイドルになって人気が出ちゃえば、その夢も叶うんじゃないの?」


 確かに、プロドゥの言う事も一理ある。

 地球でもそうだったが、アイドル効果というのは凄まじい。

 某有名アイドルが愛用している〇〇! とかこのアイドルは今、〇〇にハマっている! とか報道すればたちまちファンの間でブームになる。

 もし、俺が此処でプロドゥの提案を受けて、万が一人気が出れば土属性の地位も向上できるかもしれない。

 だが……。


「確かに、プロドゥさんの言う通り、提案を受ければ俺の夢は叶うかもしれません」


「だったら……」


「だけど、俺はそのプロデュースの仕方が嫌なんです!」


 俺は、プロドゥの目をしっかり見ながら叫ぶ。

 そう。俺が断る理由は、プロドゥの俺のプロデュースの仕方だった。


「何が不満なのよぅ? 折角、可愛くプロデュースしてあげるって言ってるのにぃ」


 プロドゥは俺の言葉に対し、持っていた紙を眺めながら心外そうな表情を浮かべる。

 俺は、そのプロドゥの持っていた紙をひったくって一瞥するとため息を吐く。

 そこには、俺の姿絵が描かれておりキャッピキャピな可愛らしい衣装が着せられていた。

 そして、『コンセプトは、女の子よりも女の子らしい男の子』とでっかく書かれていた。


「これですよ、これ。なんですか女の子らしい男の子って……俺は、そういう趣味はありませんよ」


「えー? だって、可愛くなーい? 男の娘……今は、ニッチなジャンルだけど流行ると思うのよねぇ」


 異世界で、ニッチだとしても男の娘というジャンルが確立されてるのが驚きだわ。


「とにかく! 俺は男の娘とかではありませんのでお断りします!」


 俺はきっぱりそう言うと、持っていた紙を押し付けてその場から離れる。

 なんか、今更何言ってんのお前? とかそんな言葉が聞こえた気がしたが俺は気にしない。

 髪も短くしたし、女の子みたいとかもう言わせはしない。


「あのぅ……」


「……っ。しつこいなぁ、アイドルにはならないって……」


 ズカズカ進んでいると、後ろから声を掛けられたのでまたプロドゥかと苛立ちを隠そうとせずに振り向く。

 この三ヵ月の間、断り続けてるのにしつこいプロドゥが悪いのだ。


「ひゃ⁉ ア、アイドル……?」


 だが、そこに立っていたのはプロドゥなどでは無かった。

 長いエメラルドグリーンの髪を後ろで束ねてポニーテールにした少女……少女? が立っていた。

 何故疑問形かというと、顔立ちは少女なのだが身長が高かったのだ。

 おそらく、ヤツフサと同じくらいあるのではないだろうか?

 防具類は見当たらなかったが、動きやすそうな格好で背中に弓を背負っていたので冒険者だろうと予想がつく。

 ちなみに胸は……大平原だった。

 (多分)少女は、俺の態度に驚いたようで不安そうにしていた。

 長い耳がキュートである。


「って、もしかして君……エルフ?」


 この世界で、長い耳の人型の種族といえばエルフだ。

 別名『森の民』と呼ばれ、世界各地に点在する聖なる森と呼ばれる地で生まれる種族だ。

 ファンタジーのド定番であるエルフは、例に漏れず美形しか居ない。

 しかも、この世界ではエルフは女性しか居ないとのことだ。だから、普通に他種族と結婚したりするので、 フィクションにありがちな気難しい種族なんて事は無い。

 ならば、どうやって純粋なエルフが生まれるかというと先程の聖なる森という地で聖母樹という樹から生まれるらしいのだ。

 どういう原理かは、エルフ達も分かっていないらしい。

 それこそ、神の奇跡だなんだと言われてるが、肝心の神があのアキリなので設定を面倒くさがったとかそういう考えしか出てこない。


「あ、う……うん。そうだよ、ボクはエルフのフォレ」


 フォレと名乗る少女は、気を取り直してそう自己紹介する。

 俺は、初めて出会った念願のエルフに感動するも、その後の自己紹介の方が衝撃が強かった。


「す、すみません。今、なんと……?」


 一応、カミングアウトをしたが初対面の人には敬語で接するのは変わらない。

 単純に礼儀だしな。


「え? ボクは、エルフのフォレって名乗ったんだけど……」


 ボ……ボボボボボクっ娘だとぅ⁉

 二次元では萌えの一つであるボクっ娘。まさか、三次元……しかも異世界で出会う事になるとは思いもしなかった。

 それに、エルフですよエルフ! エルフのボクっ娘とかそんなもう……ねえ?

 ケモフサ様の次の次くらいに萌えポイントが高いですよええ。

 ちなみに二位は、金髪縦ドリルのお嬢様な。強気な性格だとなお良し。

 その点では、ヤツフサとフラムは俺のドストライクなのだ。

 念の為言っておくが、確かに俺のストライクではあるが内面を好きになったので、誤解はしないでほしい。


「あ、あの……大丈夫?」


 俺がボクっ娘の衝撃に若干トリップしているとフォレがおずおずと話しかけてくる。


「ああ、ごめんなさい。大丈夫です。俺の名前はアルバって言います」


 俺は我に返ると、自分の名前を名乗る。


「ああうん、君の名前は知ってるよ。土属性で名前はアルバ。三ヵ月前の巨大な魔物を倒した英雄、だよね」


「あー、まあそうですね」


 慣れた気でいたが、改めてそう言われると少し気恥ずかしい。


「僕は隣国の帝都でジャーナリストをやってるんだ。それで、この街を襲った魔物について取材に来たって訳さ」


 あー、なるほど。それで、俺に行きついたって訳か。


「三ヵ月前に先輩が来た時は、悲惨だったって言うけど全然そうは見えないんだよね。これも、君のお蔭なんでしょ?」


「いやまぁ……俺も手伝いはしましたけど、此処の住人が逞しかったお蔭もありますよ」


「いや! 謙遜しなくていいよ! 取材した人達皆が君のお蔭だって絶賛してたからね。特に、オヤカタって人はこっちがびっくりするくらベタ褒めだったね」


 オヤカタが……。

 三ヵ月しか一緒に働いていないが、オヤカタにそんな風に評価されてたと知ると込み上げてくるものがあるな。


「それでね。ぜひ……」


「ああ、はい」


 おおかた取材させてほしい。とかそんなだろうと思った俺は、良いですよと答えそうになるが、次のフォレの言葉に硬直する。


「ボクと結婚してくれないか?」


「……はぁ⁉」

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