151話

「赤毛でやたら強い土魔法使いが居るって聞いてたけど、やっぱりアンタだったのねぇん」


 クウネは、テーブルの上に注文の品を置きながら話しかけてくる。

 

「ていうか、そんな噂になってるんですか?」


 まだ予選と一回戦しかやっていないはずだが、それにしては噂が広がり過ぎている気がする。


「「「だって、土魔法だし」」」


 うん。これ以上無いくらい説得力のある答えをありがとう。

 つーか、全員で綺麗にハモるなよ。悲しくなってくるだろうが。


「多分、今ここに居る方々は土魔法の凄さには気づいていますが、真価に気づいていない方が多数ですから、仕方ないですわ」


 俺が軽くへこんでいるとフラムがフォローをしてくる。うう、持つべきものは彼女だね。


「そうねぇん。従業員も噂してたしねぇ……土魔法の癖にやたら強いのが居るって」


「従業員? そういえば、クウネさんってどうしてここで働いてるんですか?」


 クウネの見た目のインパクトに気を取られていたが、そもそも彼女が何故此処で働いているか気になったので尋ねてみる。


「当然じゃなぁい。グラビ亭って私の家のお店だものぉ」


「そうだったんですか⁉」


 まさか、いつも利用しているグラビ亭が知り合いの店だったとは予想していなかった。

 ……いや、メニューのボリュームを考えればある意味納得か。


「うふふ、実はそうだったんですよ。私達も何日か前にこの街に来た時にクウネさんにお会いしまして。アルバさんにも会わせてあげようと思って此処を待ち合わせ場所にしたんですよー」


 スターディは、サプライズが成功してご満悦なのか嬉しそうな顔をしながら言う。

 

「グラビ亭は、大陸中に支店があるからねぇん。この時期、此処は忙しくなるから私が手伝いに来てるってわけよぉん」


 なるほど、だから此処に居たのか。

 グラビ亭は、ファンタジー世界では珍しいチェーン店だ。

 まあ、ギルドが世界中の情報を共有しているくらいなので、チェーン店自体も不可能ではない。

 情報伝達や移動手段も発達しているしな。


「ふむ、グラビ亭のオーナーの娘でちか。丁度いいでち。ちょっと言いたいことがあったでちよ」


 クウネが関係者と知ると、先程までパフェを食っていたエレメアが目を細めながら口を開く。


「あらぁん? 何かしらぁ?」


 ピリピリとした空気の中、エレメアが何か失礼な事を言うんじゃないかと俺達は心配しながら見守る。


「……グラビ亭のスイーツは私のお気に入りでちから、これからも頑張ってほしいでち」


「あらぁ、ありがとう~。両親も喜ぶわぁん」


「何かと思ったら普通に褒めるのかよ!」


 真面目な空気を醸し出しているから、何事かと焦ったじゃねーか!


「人を褒めるのにふざけた雰囲気で喋る方がどうかしてるでちよ」


 ぐぬぬ、無駄に正論だから何も言えねぇ……。


「ま、とにかく頑張んなさいなぁ。私としても、知り合いに勝ってもらった方が良いしねぇん」


 クウネは、そう言って俺の肩に手を置いてくる。

 見た目を考慮しなければ、普通に性格が良い女性である。まあ、ちょっとナルシスト成分が入ってたりするが。


「そうだわぁ。もし、アンタ達の誰かが優勝したら一日食べ放題にしてあげるわぁ」


 まるで名案と言わんばかりに、クウネは両手を軽く叩きながら提案してくる。


「大会の優勝者が立ち寄った店って文句で宣伝すれば、今以上に稼げるしいわば投資って奴ねぇ」


「はー、太っ腹でありますなぁ。あ、別に見た目の事では無くて普通に褒め言葉で有りますよ」


 リズは、余計な一言を加えながら感心したように言う。


「……アルバ! アルディ! フラム! アンタ達の誰でも良いから絶対優勝するでちよ!」


 クウネの提案に、一番食いついたのはエレメアだった。

 その瞳には既にスイーツ食べ放題しか映っていなかった。


「うへへ、食べ放題ならアレもコレも遠慮しないで食べれるでち……」


 エレメアは、既にトリップして妄想の中でスイーツ食べ放題を満喫してるようだ。


「優勝するように言われた理由がスイーツ食べ放題ってどうなんだろうねー」


「アルディ、それを言うたらアカンで。うちのご主人は、欲に忠実やからな」


「全く、エレメア殿は少し欲を抑える努力をした方がいいでありますよ」


 アルディやケット、リズがエレメアに対してそれぞれ反応する。

 まあそれはいい。それはいいんだが、リズ。お前だけはそれ言っちゃダメだろ。


「ま、優勝したらの話よぉん」


「ふっふっふ、グラビ亭の娘よ。私達の弟子を甘く見ないで貰いたいでち……なんと、三人が三つの大会で優勝して見せるから覚悟するでち!」


 うわぁ、ハードルがん上がりだぁい。

 エレメアは興奮しているのか、俺達の事をべらべらと大声で捲し立てる。

 周りの視線が超痛い。

 俺やフラム等の常識人組は、周りの視線に萎縮していたがスターディとリズは顔を赤らめて息を荒くしていた。

 ぶれねぇなぁ……。

 

 その後ようやく落ち着いたエレメアが席に戻ると、クウネも仕事があるからと戻ってしまう。


「ああ、恥ずかしかったですわ……」


 エレメアの褒めちぎり演説から解放されると、フラムは恥ずかしそうに顔を赤くしながら両手を頬に当てている。

 うん、俺も恥ずかしさで死にそうだった。


「別にボクの事を言われてたわけじゃないのに、凄い恥ずかしかったです……」


 カルネージもフラム同様恥ずかしそうにうつむいている。

 正直、高身長のイケメンがそれをやっていると庇護欲を掻き立てられる。出会った頃のヤツフサを彷彿とさせる。


「はっはっは、災難だったね。アルバ君」


 俺達が恥ずかしさに身悶えていると、若い男性が話しかけてくる。

 前から、この世界は美形率が高いと思っていたが本当に高い。

 話しかけてきた男性も、普通に美形の類だった。


「どちら様でしょうか?」


 とりあえず、答えなければと思い俺は話しかけてきた男性に答える。

 向こうは俺を知っているみたいだが、俺には心当たりが無かった。


「やだなぁ。一回戦で戦ったじゃないか。ホメノビだよ」


「へー……って、ええ⁉」


 一回戦で戦ったホメノビといえば、ピエロの姿した奴だったはずだ。少なくともこんなイケメンではない。


「まぁ、驚くのも無理はないか。あの時は道化師のメイクをしてたしね」


 ホメノビは、近くから椅子を引っ張ってくると俺達の傍に座る。


「いやー、しかし君は強いね。私は優勝候補なんて言われて浮かれていたが、上には上が居るもんだ」


 ホメノビは、本心からそう言っているようで尊敬のまなざしをこちらに向けていた。

 なんていうか、ストレートに褒められるのは慣れないな。なんだかこそばゆい。


「ふふ、当たり前でち。なんせ、この私が師匠なんでちからね!」


 エレメアは、自分が褒められたわけでもないのに何故か誇らしげになりながら無い胸を張っている。


「……このお子様はどちら様かな?」


 ホメノビの言葉を聞いたとき、エレメアと共に生活をしていた俺を含めたメンバーは一瞬で察する。


「うらぁ‼」


「げふぅ⁉」


 予想通り、子供と言われてブチ切れたエレメアによる綺麗なアッパーでホメノビは吹き飛ぶ。

 大会では俺にアッパーで倒され、今もエレメアにアッパーで倒される。

 なんとも不憫な男である。



「はっはっは、いやぁ死ぬかと思った」


「まったく! 次、同じことしたら空の彼方まで吹き飛ばすでちよ!」


 あれから、なんとか復活したホメノビは此処の食事を奢るという申し出により許してもらう事に成功した。


「肝に銘じておくよ」


「……それで、何か用事があったんじゃないんですか?」


 エレメアがブチ切れたせいで話が途切れてしまっていたが、わざわざ対戦相手の所に来るくらいだ。

 何か用事があったと思われる。


「ああ、そうなんだよ。君は、あれから参加している大会の試合は見てないだろう?」


 俺はホメノビの言葉に頷く。

 フラムやアルディの試合を見てたし、その後はそのまま此処に来てたからな。


「私に勝った君に忠告をしておこうと思ってね」


 ホメノビは、そう切り出すと前に身を乗り出して声をひそめる。

 なにか重要な事だと察したメンバー(エレメアは、パフェをおかわりしてた)は、顔を近づけてホメノビの話を聞こうとする。


「あれから、私は試合を見てたんだけどね……一人、とんでもないのが混ざってたんだよ」


「とんでもないものですの?」


 フラムの問いにホメノビは無言で頷く。


「ああ……アルバ君は確か、予選で一緒だったね? エスポワールって選手なんだけどね」


 その名前を聞いて、スターディとカルネージを除くメンバーが息を呑む。


「彼女……前年度優勝者のマッスル・ノーキンと戦ったんだけど、彼を瞬殺したんだよ。文字通り見えない魔法で」


 優勝者を瞬殺。その情報だけでも、エスポワールの実力が高い事が分かる。


「ただ、勝負がついた後も彼女は、執拗に彼を痛めつけたんだ。まるで、彼を憎んでいるように……」


「マッスル・ノーキンという人は、なにかその人にしたんでしょうかぁ?」


「少なくとも、試合中は特に変な事はしてなかったと思うよ。試合前は彼女も普通だったし。ただ、彼が炎の魔法を使った瞬間に雰囲気が変わったかな」


 スターディの問いに、ホメノビはそう答える。


「恵まれた属性が……とか何やら叫んでいたような気がするけど、それはもう悲惨な状況だったから何を喋っていたかまでは分からなかったよ。結局、審判に止められて一命は取り留めたけどね」


 ホメノビの言葉に俺達は押し黙る。


「彼女からは何か……言い知れぬ闇を感じたよ。二回戦は、君と彼女が戦うから教えておこうと思ってね」


「……わざわざありがとうございます。でも、なんで教えてくれたんですか?」


 彼には、もう関係無いはずなのだが……。


「君は私に勝ったからね。どうせならそのまま優勝してほしいんだ。……それじゃ、私は用事があるからこれで失礼するよ。約束通り会計は済ませておくから安心してくれ」


 ホメノビはそう言うと、手を振りながら去っていく。

 ……エスポワール。名前も武器も似ているから、奴と無関係とは思えないな……。

 

「なんだか……嫌な予感がするな」


 夕焼け空を見上げながら、俺はポツリと呟くのだった。

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