150話
――グラビ亭。
それは、俺達が住んでいる王都にもあったスイーツ専門店だ。しかし、その店は普通のスイーツの店とは違う特徴を持っている。
その特徴というのは、ボリュームがひたすら凄いという事である。地球ならば、カロリーを気にしてしまう女性が多く客足が伸びないだろうが、カロリーを大量に消費する冒険者が多いこの世界では逆に喜ばれる。
しかも、量の割に値段もリーズナブルだ。かといって味が微妙というわけでも無いので俺も旅先で見つけたら利用していたりする。
カルネージとスターディとの待ち合わせ場所であるグラビ亭に到着した俺達は、彼らを待つ間暇だったので、各自注文してスイーツを食べていた。
「うう……見てるだけで胸焼けしますわ……」
「いやはや、その小さな体の何処にそれだけ入るのか不思議でありますな」
俺とエレメアが注文したスイーツを食べていると、フラム達がこちら側を見てげんなりしていた。
ちなみに俺が頼んだのは、デラックス生クリームケーキの砂糖掛けエディションという、真っ白なケーキに更に砂糖をぶちまけた代物だ。別名『甘さの暴力』。直径は大体三十㎝くらいだろうか。
そしてエレメアが注文した物は、山盛りフルーツパフェタワー改というもので、フルーツが高さ四十㎝程の高さで積み上げられており、まさにタワーと言った感じだ。
「えー? これくらい普通じゃない? むしろ、若干甘さが足りない位なんだけど」
俺は、砂糖がたっぷり掛かった生クリームをスプーンで掬って食べながら答える。
「アルバのは、病的な甘党なだけでち。まあ、量に関しては普通でちけど」
エレメアもフルーツをハムスターのように頬に詰め込みながらそう言う。
「……理解不能やな」
「だよねぇ」
俺とエレメアの言葉にケットとアルディは、意味が分からないといった表情を浮かべながら首を横に振る。
「お待たせしましたぁ~……って、皆さん不可解な表情浮かべてどうしたんですかぁ?」
俺とエレメア以外のメンバーが納得いかないといった感じの表情を浮かべていると、スターディがやってくる。
「ああ、スターディさん。いえね、アルバ様達の食べている物を見て胸焼けを起こしてたんですの」
「へ? ……ああ、なるほどぉ」
フラムの言葉に、スターディは一瞬疑問符を浮かべるが俺達の前にある物を見ると納得をする。
誠に遺憾である。
「あれ? カルネージは?」
彼女らの態度に納得はいかないが、肝心のカルネージが居ない事に気づくとひとまず先程までの話題は置いて尋ねる。
「ああ、カルネージさんなら……」
「ふはははは! 此処に居るぞー!」
どこぞの三国な武将みたいなセリフと共に神官のような服装に肩で切り揃えた金髪。そして、オペラマスク……どちらかというとヴェネチアンマスクか。マスクを付けた青年が立っていた。
「くくく、この深遠なる闇の使い手たる俺様の元にこれだけの下僕があつま……あ、ちょっとアルバさん! 喋ってる途中で仮面取らないでくださいよ!」
カルネージが以前、失くしたはずの仮面をつけて再び中二病全開だったので、俺が仮面を取り上げるとカルネージは、困った顔をしながら訴えてくる。
じゃかぁしい! ゴリゴリの中二病キャラは見てる方も辛いんだよ!
っていうか……。
「カルネージ……だよね?」
初っ端の中二病キャラに気を取られていたが、改めて相手を見てみる。
昔は俺と同じくらいの身長だったような気がしたが、今は百八十くらいはありそうだった。
しかも、顔も女の子みたいな顔だったのに今はすっかりイケメンである。俺が、カルネージ本人か疑っても仕方のない事だと思う。
「そうですよ。いやですね、忘れちゃったんですか?」
「いや、だってさ……なんか身長も高いし、顔つきも男っぽくなってるし……」
「あー、なんか卒業してから急に身長伸びたんですよね。それに合わせて顔つきも変わったと思います」
なん……だと?
カルネージは、サラッと言ったが俺はかなりの衝撃を受けていた。
ブラハリーといいカルネージといい……なぜ、こうまで身長が高くなってイケメンになっているのか?
同年代のはずの俺は身長は伸びても百六十。顔も相変わらず女の子と間違われてしまうという状況だ。これが格差社会か……!
「え、えっとアルバ様はアルバ様で可愛らしいですわ!」
「そうであります。アルバ殿はその可愛らしさが売りでありますから、気にしなくていいでありますよ」
フラムとリズのフォローになってないフォローに涙が出そうになる。
「えーと……なんかすみません」
俺が激しく落ち込んでいると、カルネージは申し訳なさそうに謝ってくる。
ううん、君は悪くないよ……悪いのは、ミジンコみたいな俺さ……はは。
似合わないって言われても良いから、もう髪切ろうかな……。
なんとなく惰性で髪の毛を伸ばしていたが、もう髪の毛を切っても魔力は減らないから問題ないし。
「と、とりあえず座ってくださいませ! ほら、何か注文もした方がいいですわ。 色々積る話もあるでしょうし!」
微妙になった空気を変えようとフラムは、両手を軽く叩いて話題を変える。
俺の彼女は優しいなぁ……俺にはもったいないくらいだ。
「そ、そうですねぇ! 座りましょうかぁ!」
「そうしようそうしよう!」
スターディとカルネージは、フラムの申し出を受けると急いで座り注文をする。
「……そういえば、カルネージは何でまた仮面をつけてたの? 確か、学園に居た時に失くさなかったっけ」
折角、皆が話題を変えようとしてくれたので、俺もいつまでも拗ねるわけにはいかないと思い、気になってた事を尋ねる。
「ああ、前のは確かに結局見つからなかったですね。最初はそれでも良いって思ってたんですが、ボクの性格だと冒険者の世界では舐められてしまいますので同じ効果を持つ仮面を探したんですよ」
ああ、なるほどね。
俺の場合は、外面だけは下手に出てるが中身はおっさんだから平気だが、カルネージの場合は心根からして優しいから、仮面にでも頼らないと難しいのだろう。
まあ、そうだとしても中二病キャラはどうかと思うがな。
「ほー、ペルソナでありますか。初めて見たであります」
リズが、テーブルの上に置かれている仮面を物珍しいそうに見ながら喋る。
ペルソナというのは、忘れている人の為に一応説明すると、身に着けた人間の性格を変えるアイテムである。
例えば、カルネージの付けていたのは『傲慢の仮面』。装備すると性格が傲慢になる代物である。中二病が傲慢かと聞かれれば、微妙なとこだが気にしてはいけない。
ていうか、~であります口調で金髪の人がペルソナとか言うと別の……いや、やめておこう。
「数もそんなあるわけじゃないでちからねー。製造方法も謎でちから」
ふーん、エレメアでも分からないのか。
昔からあるみたいだが、本当に謎の多いマジック・アイテムだな。
「卒業してからは、スターディさんと一緒に冒険をしてましたね。スターディさんは盾職でボクは回復が得意なので、色んなパーティでお世話になってました」
まぁ、二人の職業はパーティ的にも必須な職業だからな。
しかも片方は少しレアな光属性だし。中二病キャラにさえ目を瞑れば、カルネージの回復魔法はかなり有用だ。
「アルバさん達は、今までどうしてたんですか?」
「僕達は、フラムとアルディと一緒に特に宛もなく旅をしてるって感じだね。変わった事と言えば、アルディが人間サイズになって、一人仲間が増えたくらいかな」
「ああ、そういえばアルディちゃん大きくなってるよね。このサイズを普通に動かせるアルディちゃんの魔力が凄いよ」
まあ、実際は魔石を使ったりして補助してるんだけどな。
「ええと、それで……」
「リスパルミオ。長いのでリズと呼んでほしいであります」
カルネージの視線がリズに向くと、彼女は頭を下げながら自己紹介をする。
エレメアやケットも続いて自己紹介をしている。
「まあ、エレメアさんとケットはこの街に居るまでの間だけどね」
リズは、俺達についてくると言っているのでパーティにカウントしている。
正直、元敵の幹部を仲間にするなんて何考えてるんだと言われそうだが、ぶっちゃけ何も考えていない。
別に俺は正義の味方ではないので、積極的に敵の組織を潰そうとか思ってはいない。もちろん、火の粉が降りかかるなら払うがそれ以外ならこちらから関わろうとは思わない。
地球でも、テロなんかをニュースで見て悲しんだり憤ったりはするが、自分で何とかしようと思わないのと一緒だ。
なので、リズが仲間になりたいと申し出た時も、特に深く考えずに仲間にしている。
まあ、それで裏切られた時はそれまでだが、そん時は俺の見る目が無かっただけである。
「お待たせしましたぁん」
俺達が今までの事を話していると、妙にねっとりとした喋り方の店員がやってくる。
そちらを見れば、相撲取りがメイド服を着てるんじゃないかと疑いたくなるような女性が立っていた。
「こちら注文の品でございますぅ。……って、あらぁん? もしかして、アルバぁ?」
女性は、こちらを見ながらそんな事を尋ねてくる。
……うん。こんなインパクトのある見た目は何年経っても忘れられそうにないな。
「お久しぶりです。クウネさん」
そう、相撲取り……もとい少しふくよかな女性は、俺が学園に居た頃に武闘大会で戦った重力使いのクウネだった。
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