148話
「お疲れでち。中々良いお披露目だったでちよ」
控室に戻ってくると、エレメアが労いながら出迎えてくれる。
「いやー、相手も優勝候補って言われてるだけあって結構強そうだったんで本気で行った方が良いかと思いましてね」
おそらく、グダグダと魔法の撃ちあいをしていたら負けていたのは俺だろう。
「大事なのは勝敗でち。観客席を見るでちよ。ほら、あいつら予想外の結果にアホ面晒して滑稽でち」
エレメアに言われた通り観客席の方を見れば、確かに観客達は未だに茫然としたままだった。
まあ、見下していた土属性野郎が優勝候補を瞬殺したのだ。驚くのも無理はない。
人相手にも自分の魔法が有効だと知り、少しだけ自信が出て来た。もしかしたら優勝できるんじゃないかと淡い期待が膨らんできた。
「さて、これからどうするでちか? 次の対戦相手になるかもしれない相手の試合でも見るでちか?」
「いや、フラム達の試合を見るって約束してたんで観戦に行こうかと。幸い、試合の順番も被ってないんで」
「えー、面倒でちねー。それだったら、街にお菓子を食べに行こうでちー」
俺の返答に対し、エレメアは子供の様に駄々をこねる。
「そもそも、試合なんて映像水晶に記録されるんでちから、後で買うなりして見れば良いじゃないでちか」
映像水晶というのは、地球でいう所のビデオカメラみたいなものだ。
水晶で映像を記録することで、立体映像として後で視聴が出来るのだ。俺が学園から卒業してから普及し始めた代物だ。
地球でも十年あればポケベルから携帯に進化したりするし、技術がかなり進歩してもなんら不思議ではない。
「それはそれで後でちゃんと買いますよ。ただ、それとは別にちゃんと生で見たいんです」
フラムとアルディの折角の晴れ舞台なのだ。見ないと失礼だろう。
ちなみにフラム達は俺の試合を見れていない。自分の試合が終わるまでは会場から出れないので仕方ない。
「あーあー、女たらしは言う事が違うでちねー」
「ちょ、誰が女たらしなんですか!」
エレメアが肩を竦めながら呆れたように言うので、俺は慌てて反論する。
まったく……人聞きが悪いったらありゃしない。俺がいつそんな事をしたといのだろうか。
「はぁ……無自覚朴念仁は放って置いて一人で行くことにするでちか。美味しいケーキの店を見つけたでちからね」
エレメアはそう言うと、俺が止める前にさっさと控室から出ていってしまう。
あの人、行動が自由すぎんだろ。いや、前から分かってたけどさ。
「ボーっとしてても仕方ないし、とりあえず行くか」
俺は宛がわれた控室から出ると、まずはフラムの方へ向かう事にする。
そうそう。三つの闘技場は、設置された魔方陣で自由に転移できるらしい。
なにせ、三つの闘技場で同時に大会が行われてるのだ。気になる選手の試合が三ヶ所にあるとき、いちいち移動が面倒だということで設置されているらしい。
もちろん利用は無料という太っ腹っぷりだ。なので、俺も気兼ねなく他の闘技場へ向かえるという訳だ。
という事で、俺は早速フラムの居る闘技場へと向かうのだった。
◆
「お、丁度フラムの試合か」
目的の闘技場へと転移してきてトーナメント表を確認すると、ナイスタイミングだった。
俺は、売店でポップコーンっぽい何かを購入すると観客席に向かう。
観客席は結構混んでいたが、小柄な体型を利用して隙間を縫うように移動する。
そして、最前列で空いている場所が有ったのでそこに座らせてもらう。こういう時は小さいと便利である。
男としては複雑な心境ではあるが。
「てめーらぁ! 一回戦四試合目はじめっぞおらぁ!」
ポップコーンもどきをぽりぽり食べながら待っていると、筋肉質な茶髪なねーちゃんが現れる。
勝気そうな顔で口から見える牙がキュートである。
「今回の試合もこの俺、
へー、猪人族か。初めて見たな。
オークといえば、一般的にブヨブヨ腹で醜悪な顔して性欲が強いっていうイメージがあったが、目の前のねーちゃんは引き締まってるし普通に可愛い。
もしかしたらこの世界では違うのかもな。
「まずは東コーナー! 『風来人』クナン! 我が剣に斬れぬもの無しと豪語する魔法剣の使い手だ! 属性は風! 今日も不可視の刃であらゆるものを斬り裂くか⁉」
紹介されて出てきたのは、長身で異様に痩せこけた男だった。
三度笠に縞模様の道中合羽に草鞋と昔の日本風の格好をしている。
「次に西コーナー! 剣士に対してこっちは銃! 『金色の魔砲使い』フラムだー! 特殊な魔砲銃を使い、魔力を弾丸にして撃ちだして戦うらしいぞ! しかもだ……なんとフラムは三つの属性が使えるらしいぞー! ガキの癖にすげぇなおい!」
ハバリの紹介に若干照れながらもフラムが銃を手にして現れる。
以前のリボルバー式はリズとの戦いで壊れてしまったため、今はエレメア製の魔砲銃を装備している。
形状はマスケット銃に似ている。本来のマスケット銃は、確か一発撃ったらダメになったはずだが、そこはエレメア製。ただの銃の訳が無い。
なんと、あの銃は弾丸が必要ないらしい。自身の魔力を込めて引き金を引くことで魔法の効果を秘めた弾丸が撃ちだされるとのこと。
要は、自分の魔力が続く限りいつまでも撃ち続けられるのだ。
エレメアに俺もフラムのみたいな武器が欲しいっておねだりしたら、自分の魔法で創ってろって一蹴された。ちくしょうが!
「へー、まだ若いのに三属性も使えんのか。すげーなー」
隣に居たおっちゃんは感心したように呟く。
ふふふ、そうだろそうだろ。うちのフラムはすげーんだぞ。
自分が褒められたわけでも無いのに、俺は自分が褒められたみたいに誇らしくなる。
「魔法剣対魔砲! 勝つのはどっちだ⁉ 試合……開始ーーーー‼」
「
「あら。見た目で侮っていると痛い目を見ますわよ?」
クナンが腰に差していた日本刀らしき物を構えるとフラムも銃を構えてお互いに距離を取る。
「フラムー! 頑張れー!」
「っ‼ アルバ様! ふ、ふふふ……アルバ様が見ていてくださるなら私は無敵ですわ!」
俺が声援を送ると、フラムは目を見開いてこっちを向くと嬉しそうに手を振る。
「ふん、試合中に余所見とは俺も見くびられたものだ……」
フラムがこちらを向いている隙に男は刀を水平に構えるとそのまま刀を振り抜く。
「我が刃の餌食になるがいい!
空気を斬り裂く音が聞こえ、不可視の斬撃がフラムの元へ向かっているのが分かった。
危ない――――そう叫ぼうとしたところで、フラムは慌てることなく笑みを浮かべながら向かってきているであろう不可視の斬撃の方向へと銃を向ける。
「言ったでしょう? アルバ様が見ていてくださるなら私は無敵だと……
銃から炎を纏った銃弾が放たれると、見えない何かにぶつかったかと思えば小規模な爆発を起こす。
「こちらに向かっているのが分かっている以上、対処するのは簡単ですわ」
「ほぉ? 仮にも本戦に進出しただけあるな。ならば……地走り!」
クナンは、刀を地面に突き刺すとそのまま掬い上げるように斬り上げる。
すると、雷の刃が数本地面から生え、フラムに向かっていく。
「甘いですわ。
フラムも続いて、数発の弾丸を撃ちだす。
今度の弾丸は雷を纏っており、雷の刃に当たった瞬間バチッという音と共に目も眩むような強い光がステージを包む。
「うおっまぶしっ」
不意打ちの閃光に俺は思わず目を瞑ってしまう。
「ぐあっ⁉」
俺が目を瞑っていると、クナンの声が聞こえ何かが地面にぶつかる音が聞こえる。
光が収まり、視力が回復してきたので目を開けると、地面に倒れているクナンとその近くで銃を構えているフラムの姿があった。
「ふふ、まだまだですわね。不可視の魔法は貴方だけの専売特許ではありませんのよ?」
フラムは、クナンに向かってそう言うが、当の本人は気絶をしているのか返事が無かった。
多分、さっきの魔法で目くらましをして怯ませた後に風の弾丸か何かで気絶させたのだろう。
「勝者……フラムーー! 一回戦目からまさかの結果だ! 大人の男をあっさりと打ち倒した戦士に拍手ー!」
ハバリの宣言と共に、会場は割れんばかりに拍手に包まれる。
当然、俺も拍手をする。
俺の恋人は強いだろと皆に自慢したい気分である。
倒すところを見れなかったのは残念だが、フラムがかなり強くなっていると知れたので良しとしよう。
俺に手を振りながら退場したフラムを見送ると、俺は急いでフラムの元へと向かうのだった。
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