147話

「「予選突破おめでとー(ですわ)!」」


 予選終了後、他の武闘大会でも無事に予選突破したフラム達と合流し、俺達は宿で祝杯を挙げていた。


「まー、私達が直々に鍛えたんだから当たり前でちね。むしろ、こっからが勝負でち」


 エレメアがワインをグビリと一口飲みながら言う。


「それでもやはり自分達が鍛えた者が勝ち上がるというのは誇らしいであります」


「せやせや。ご主人はクールやなぁ。もうちっとこう祝わんと」


 リズとケットの言葉にエレメアはフンと鼻を鳴らしながらワインを飲み続ける。

 まあ、何百年も生きているから今更こういう事ではテンションが上がったりしないのだろう。

 

「……アルバ? 予選が終わってからテンション低いけどどしたの?」


 俺がずっと無言なのが気になったのか、アルディが首を傾げながら尋ねる。


「もしかして、こうやって女の子達に囲まれてこういうパーティをするのは照れるでありますか? ふふ、意外とウブでありますね」


 リズは、もう酔っているのか頬を若干赤くしながら舌なめずりをする。

 ……頬が赤いのは酔ってるからだよな?


「顔見知りしか居ないのに照れようがないですよ」


 もちろん、今更そんな事で照れはしない。親しい仲間達との食事で照れるとかどんだけコミュ症なんだよって話である。


「いえね、ちょっと気にかかることがありまして」


 俺の言葉に静かにワインを飲んでいたエレメアがピクリと反応する。

 ああ、エレメアに予選が終わってからすぐに伝えたんだったな。


「気になる事……ですの?」


「うん、予選での事なんだけどさ……リズさん」


「なんでありますか?」


 リズさんは、自分に振られると思っていなかったのか少し驚いたような顔をしながらも反応する。


「エスポワールって人に心当たりありませんか? もしかしたら、エスペーロの身内とか」


 予選の時の希望という言葉。希望について語ったのはあの時だけだが、語っている時の雰囲気がエスペーロにとてもよく似ていた。

 使っている武器といい似ている点が多いため、とても他人とは思えない。


「エスポワール……でありますか? うーん、エスペーロからは聞いたことがないでありますね。そもそも、うちの組織の人間は自分の事はあまり率先して話さないでありますから」


 リズが嘘を言っている様子は無い。ここ半年ほど一緒に生活していたから、それくらいは判断できるようになっている。


救済者グレイトフル・デッドが……居たんですの?」


 フラムは、眉をひそめながら尋ねてくる。


「まだ分からない。エスペーロは一度脱獄してるから指名手配されているはずだし、本人ではないと思うんだ」


 そもそも性別が違うしな。もし性別を変えるマジック・アイテムがあれば別だが。


「エレメアさん。ちなみに、人の性別を変えるアイテムとかってありますか?」


 念の為マジック・アイテムの専門家でもあるエレメアに聞いてみる。


「聞いたことないでちね。そもそも、私はどっちかっていうと武器や道具関係のマジック・アイテムが得意であって、人の身に作用するマジック・アイテムは詳しくないんでちよ」


 まあ、市場にも出回ってるなんて話は聞かないしな。


「もしかしたら、私が居ない間に新しく加入したメンバーかもしれないでありますな。ぶっちゃけ、私はもう救済者グレイトフル・デッドから情報が得られないんでありますよ。今はアルバ殿達の仲間でありますから」


 俺達の仲間。というのはおそらくリズの本心だろう。だが、情報が得られないという点に関しては、正直真偽が分からない。

 リズが本心から言ってたり、隠す必要のない情報を話す時は普通に嘘か本当かが分かるのだが、本人が誤魔化したいときに言った言葉は判断が付きにくいのだ。

 仲間だと言ってくれた事に免じて一応追及はしないでおく。


「うーん、とりあえず警戒くらいはしておいた方がいいって事か……」


 めんどくせーなー。救済者グレイトフル・デッドも俺が生まれた時には既に活動してるっぽいが、その割に謎が多すぎる組織である。

 まだ本拠地すらも割れていないというのは相当だ。ちなみに、リズにダメ元で聞いてみたら流石に元仲間の情報は売れないと言われた。

 無理矢理聞き出すことも可能だが、リズの場合尋問や拷問などはご褒美になってしまうので効果が無いだろう。ホント、ドMって無敵だわ。

 

「ほらほら! 明日から本戦もあるんやし、辛気臭い顔しとったらアカンで! 仮に奴らだったとしても、この街には腕利きが大勢居るんや。そんなとこで騒ぎ起こそうなんてアホな事流石にせーへんやろ」


 確かにケットの言う通りだな。今、この街には武闘大会参加者をはじめ様々な強者が集まっている。

 いくら七元徳が強いとはいえ、数の利ではこちらが有利だ。


「なーんて慢心してると足掬われるんだけどな」


 そこまで考えてしまうとキリが無いから今日はやめておくか。しばらくは警戒しておくだけに留めておくことにしよう。もしかしたら、俺の考えすぎだっていう可能性も無きにしも非ずだしな。

 その後、気を取り直した俺は予選突破祝勝&本戦決起会を大いに楽しむのだった。



 翌日、俺達は再びそれぞれの闘技場に分かれた。

 トーナメント表は昨日の内に既に張り出されていたので確認済みだ。

 俺は一回戦の一戦目といきなりだ。フラム達とは試合がずれているので、今日は観戦が出来そうだ。

 昨日は、予選が被ったから観戦できなかったしな。


「皆さ~ん! 今日も血沸き肉踊ってますかぁ~⁉」


 控室から覗くと、牛柄の露出の高い服を着た大変ふくよかなおっとりした女性がマイクで叫んでいた。

 藍色の髪の毛で両側から三つ編みを垂らしており、頭からは耳と短い二本の角が見えており、丸眼鏡を掛けていた。


「一回戦一戦目は頭角族とうかくぞくのシュティーアが担当させていただきますぅ! 私、強い男の人って好きなので頑張ってくださいねぇ!」


 シュティーアと名乗った牛の獣人さんは、豊満なそれを揺らしながら話す。それを見た観客席からは野太い男どもの声が響く。

 男って……単純だな! 俺もだけど!

 なんとなくスターディにも似た感じの人だ。そういえば、スターディやカルネージの噂は聞かないが、あの二人は元気でやっているのだろうか。


「それでは早速始めたいと思いますので、選手の方は入場しちゃってくださーい!」


「おっと、行かなきゃな」


 昔を思い出していると、呼ばれたことに気づいて我に返りステージに向かう……ところでエレメアに引き留められた。


「アルバ。遠慮はいらんから派手にぶちかますでち」


「……そんなの言われるまでもないですよ」


 俺が何のために予選で魔法を使うのを我慢したと思っているのだ。ここで派手にやらなくていつやるというのだ。

 おあつらえ向きに本戦の一戦目なのだ。この状況を利用しない手は無い。


「分かってるなら良いでち。それじゃ、行ってくるでちよ」


 エレメアから激励を受けた俺は、こくりと頷いてステージへと向かう。


「両者揃いましたので、早速紹介したいと思います! 東コーナーはなんとあの『土属性』の使い手ですぅ。あの土属性で正直戦えるとは思えませんが、仮にも予選を突破しているので実力はある程度あると思いますぅ」


 シュティーアの紹介を聞いて観客席がざわついているのが分かる。ふふん、見下しているのも今の内だからな。


「そんな土属性の使い手で見た目は可愛らしい女の子。だけど中身は立派な男の子! その名もだまし討ちのアルバ選手ー!」


「ぶははは! 土属性だけでもあれなのに二つ名がだまし討ちかよ!」


「卑怯な手を使わないと勝てねーんだよ。察してやりなって」


 近くから聞こえる野次に俺は、恥ずかしさで俯いてしまう。くそう、エレメアめ……覚えとけよ。


「続いて西コーナー! なんとこちらは毎年参戦~! 優勝候補の一人とされていますがライバルのマッスル・ノーキン選手と激戦を繰り広げ惜敗をして優勝を逃しておりますぅー! 今年こそ優勝するのでしょうかぁ⁉」


 俺と違い、賞賛を浴びている男はそれに答えるかのように観客席に向かって手を振っている。

 顔には白粉を塗っており真っ赤な丸い鼻に派手な大袈裟なメイク、派手な色の服を着ているその男は地球でも見たことあるピエロを連想させる。

 

混沌の道化カオティック・クラウンホメノビ選手ー! その見た目に反して実力は本物ですぅ! 闇属性の使い手で素顔はイケメンとの噂です~!」


 紹介されたホメノビという男は、ゆったりとした動きで仰々しくお辞儀をする。


「貴方に闇のサーカスを見せて差し上げましょう。お代は貴方の命です」


 ホメノビは、俺の方を見据えてニヤリと笑う。

 ――強い。奴の魔力が奴を強者と知らしめている。


「それでは、お互いに持てる力を出し尽くして戦いましょうー! それでは、試合開始ですぅ!」


 試合開始の合図と共に俺とホメノビは距離を取る。


「まずはお喰らいなさい。闇のナイフの味を!」


 ホメノビは、自身の影から無数の漆黒のナイフを出現させると俺に向かって放つ。

 俺は慌てず、両手を突き合わせる。こうする事で魔力を自身の体で循環させ、一時的に魔法の威力を上げる。

 修行中にエレメアに教えてもらったちょっとしたブーストだ。

 

天を衝く金剛拳グランド・グランド・アッパー‼」


 無詠唱で魔法を発動すると、ステージの半分近くを占める金剛の拳が地面から盛り上がり、ホメノビの放ったナイフごと彼本人を空高くまで殴り飛ばす。


「……っ!」


 ホメノビは、声を上げる間もなく吹き飛ばされそのまま場外へと突き刺さる。

 一応、この武闘大会では場外は負けとなる。他にもギブアップやテンカウントもそうだ。

 

「……しょ、勝者アルバ選手ぅ~‼」


 シンと静まり返る闘技場内で、我に返ったシュティーアがマイク片手に宣言する。

 

「ごめんね。なんだか悪い意味で“道化”になっちゃったね」


 気絶したホメノビを尻目に俺は、悠々と控室に戻るのだった。

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