119話
「今日は、グランマキナ国を南下しキョウミヤビの街を目指します。キョウミヤビの近くには火山があり、地下のマグマを利用した火山性温泉が有名です」
「急に何を言っているんですの?」
俺が、ゆったりとしたBGMを脳内で流しながら汽車から見える景色を眺めてナレーションをしていると、フラムが怪訝な顔をしながら話しかけてくる。
「いや、特に理由は無いんだけど、やんなきゃいけないような気がして……」
……大地が。そう、強いて言うなら大地が俺に囁いていたんだ。
「まあ、アルバが変なのは今に始まった事じゃないしねー」
外の景色を眺めていたアルディが中々辛辣な事を言う。
「失敬な。僕の何処が変だというんだ」
「そういう自覚のない所かなー」
「ですわねぇ」
ちくしょう!
毎度のことながら、俺に味方は居ないのかよ。
◆
ガタゴトと揺られながら汽車は進んでいき、昼過ぎにキョウミヤビに到着する。
ヤマトの国の文化を取り入れているだけあって、街の外観は和風だった。
京都の観光地辺りに行けば、多分似たような景色が見られると思う。
今まで、西洋ファンタジーの世界に居たのが、急に日本に戻ってきたような錯覚に襲われ、どことなく懐かしくなる。
もっとも、通行人達はバリバリのファンタジーな奴らばかりなので、すぐに現実に戻されたがな。
「のどかで良い所ですわねぇ……」
フラムもお気に召したようで、街並みを眺めながら微笑む。
「老後は、こういう所でゆっくりしたいねー」
「いや、アルディは年取らないでしょうが……ほら、馬鹿な事言ってないで今日の宿を探すよ」
年寄り臭い事を言うアルディに俺はツッコみつつ、2人に行動を促す。
これが地球ならば、電話で予約とか出来るんだが、生憎この世界には電話やそれに類似したものが無い。
せいぜい、手紙くらいなものだ。
なので、早めに宿を探しに行かないと、まさかの野宿になってしまう。
「という事で、あらかじめ調べておいたおススメの宿を片っ端から訪ねたいと思います」
「ず、随分用意が良いんですのね」
だって、貴方。混浴ですよ混浴! 男なら一度は入ってみたい混浴。そりゃ、綿密に調べますよ。
ちなみに、俺が調べたおススメスポットは、どこも混浴がある。
流石に全ての風呂が水着着用だが、裸を見るのが重要なのではなく、異性と一緒に入るのが重要なので、俺は気にしない。
そんなこんなで俺達は、今日泊まる宿を探すのだった。
「宿ですか? はい、空いてますよ」
探し始めて1件目。特に問題なく宿が見つかる。
えー……いやさ、ここは調べた宿が全滅でようやく見つけた宿屋がボロッちいとかそういう展開だろ。
いや、俺としてはスムーズに決まる事は良いんだが、何かもやっとする。
「どうかしました?」
「あ、いえなんでもないです。えーと、3人で宿泊期間はとりあえず1ヵ月ほどで」
折角なので、この街を堪能したいというのもあるし、ちょっとここらへんで依頼も受けようと思うので、それくらい泊まるつもりだった。
この世界の宿には、基本的に長期割引と言うのが有り、長期であればあるほど、割り引いてくれるという冒険者に優しいシステムになっている。
「分かりました。部屋のグレードはどうなさいますか? 松、竹、梅の3つがあり、松が1番高くて梅が1番低いですね」
うーん、どれが良いかなぁ。
どうせ泊まるならグレード高い方が良いが、金の問題もあるしな。
「私は、ふかふかのベッドがあればあとは何でも良いですわ」
と、フラムの意見。
「私は、アルバと一緒ならどこでもー」
こちらは、アルディの意見。なんか、でっかくなってから益々、俺にべったりな気がするな。
「そうですね……じゃあ、竹で」
価格表とにらめっこしながら、俺は間を取って竹を選ぶ。
料金も程よいし、ふかふかのベッド……この街では布団になるが、それもあるので問題ないだろう。
「分かりました。それでは、1ヵ月分の料金を前払いでお願いします。1ヵ月未満の時は、その分返金いたします」
俺は、提示された金額を払うと、鍵を渡され、部屋へと案内される。
「中々、素敵なお部屋ですわね」
部屋の中は、日本の旅館と遜色ない見た目で、畳や障子があり、いかにも和室といった内装だった。
「靴の方は、こちらでお脱ぎになってくださいね。なんでも、ヤマトの国では部屋に入る際は靴を脱ぐのが普通らしいので」
「まあ、そうなんですの? ヤマトの国って色々風習が違うんですのね」
従業員の言葉に、フラムは感心する。
まあ、こっちでは基本、西洋式で靴を履いたまま部屋の中に入るしな。
俺としては、ヤマトの国方式の方が慣れているのでしっくり来る。
「浴場は、そこを進まれますと案内板が出ていますので、その指示の通りにお進みください。混浴を利用される際は、入口で水着を無料で貸し出しています。では、ごゆっくりどうぞ」
従業員は、説明が終わると一礼して立ち去る。
「ひゃっほーい。畳だ畳だー!」
従業員が居なくなると、靴を脱いだアルディはテンションを高くしながら畳を転げまわる。
アルディよ。一体、畳の何が君をそこまで駆り立てるんだ。
「とりあえず、今日は1日ゆっくりして明日から依頼を受けるって感じで良いかな?」
「私は構いませんわよ。今日は、温泉というのを早く体験してみたいですし」
座椅子に腰かけながら、今日の予定を提案するとフラムは同意してくれる。
「私も早く温泉はいりたーい!」
アルディも、楽しみなようで畳を転がり続けながら主張してくる。
人形の体で風呂に入っても大丈夫なのか? そう疑問に思う方も居るだろう。
だが、安心してほしい。
アルディの体は、元々戦闘用として作られている。
水くらいでダメになっていたら話にならないので、そこら辺の対策はばっちりだ。
しかも、作ったのはアヤメさんの体も作った人形師ゼペットさんだ。
少なくとも、そこら辺の人形師よりは信用が出来る。
そんなわけで、アルディも問題なく風呂に入れるというわけだ。
ご都合主義って素晴らしいね。
「それじゃ、早速こ……温泉に入りに行こうか」
あぶねえ。危うく混浴と言いかけたぜ。
紳士な俺としては、いきなり混浴を提案するにはがっつきすぎかと思い自重することにしたのだ。
まずは、男女別の温泉で回数を重ね、慣れてきたところで自然に混浴にシフトしていくというわけだ。
くくく、自分の完璧な計画が恐ろしいぜ。
「そうですわね。此処に来るまでにも汗はかいてしまいましたし」
「ねえねえ、アルバ。当然、混浴だよね? アルバとフラムと一緒に入りたーい!」
「ぶふぅ⁉」
アルディの突然の発言に俺は、思わず吹き出してしまう。
「アルディ? 混浴はほら、男女一緒なんだよ? それにほら、フラムも一緒は嫌だって言うと思うし」
この子は、いきなり何を言い出すのかねまったく。
物事には順序というものがあるのだよ。
急いては事をし損じるという諺の通り、ゆっくりと計画を進めるべきなのだ。
「えー? だって、折角混浴あるのに入らないなんて勿体ないじゃーん!」
だが、アルディは俺の言葉に対し反論し駄々をこねる。
まいったなぁ……。どうすれば、納得してくれるのだろうか。
「わ、私は……か、構いませんわよ」
と、そこで思わぬところから助け船が入る。
見れば、フラムは茹蛸のように顔を真っ赤にしていた。
「……フラム?」
「こ、このままでは、温泉にも入れませんし、アルディさんの言う通り混浴でも良いですわ。水着もある事ですし、温かい海だと思えば……」
いや、流石にそれは無理があるんじゃないかと思うが……。だが、折角フラムが乗り気になってくれたのだ。
ここは、流れに乗るしかあるまい。
「フラムが良ければ僕も構わないけど……」
「わーい! アルバとフラムと一緒のお風呂だー!」
俺達の言葉に、アルディは嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。
まったくアルディは…………まじグッジョブ!
そんなわけで、俺達は予定を変更して混浴風呂に入る事にしたのだった。
◆
「おー、思ったより本格的な温泉だなぁ」
入口で水着をレンタルし、男子更衣室で着替えた俺は、目の前の光景に感心する。
いわゆる、岩風呂という奴で、縁はごつごつした岩で囲まれており、風呂の底は岩のタイル。周りは竹に似た柵で囲まれている露天風呂だ。
時間帯が時間帯だけに、混浴風呂の方には俺以外誰も居なかった。
「フ、フラム達はまだなのかな」
水着着用とはいえ、混浴風呂という特殊な状況に流石の俺も緊張してくる。
「お、お待たせしました……」
「わーい、私達だけしか居なーい。貸し切りだーい」
声の方を向けば、フラムとアルディが立っていた。
フラムの水着は、上がビキニで下がスカートタイプの水着で色は黒だった。
すっかり大きくなった胸を恥ずかしそうに隠している姿がたまらない。
一方、アルディの方は紺色のスク水を着ていた。
ゼペットさんの趣味かは分からないが、胸の方はちんちくりんだが、それが逆にスク水とマッチしている。
スク水と貧乳が一番最高の組み合わせだと思うんだ。
ちなみに、俺は芸が無いかもしれないが普通のトランクスタイプだ。
借りるときに、男性用ですと言われたが、もはやいつもの事である。
「あ、あの……ど、どうでしょうか?」
「うん……そ、その可愛いよ」
フラムの水着は、学生時代の時にも見ているのだが、あの時よりも成長しているし、今は恋人という特別な関係でもあるから、より一層ドキドキしてしまう。
「アルバー。私は私はー?」
「アルディもマニアックな人たちにとってはたまらないと思うよ」
「やったー!」
アルディは、スク水姿を褒められたのが嬉しいのか、ピョンピョンと飛び跳ねる。
スク水で嬉しいとか、アルディの感性がよく分からん。
いや、大変眼福ですけどね?
「って、ほらほら。風呂場でそんな飛び跳ねたら危ないよ」
人形の体なので、怪我はしないと思うが俺やフラムにぶつかって惨事になりかねないので、アルディを窘める。
「だーじょうぶだって! 怪我なんてしないうわぁ⁉」
案の定、床で滑ったアルディはツルッとずっこけて滑りながらこちらへ向かってくる。
「ああ、ほらだから言ったのに……」
「いやはや、面目なうえーいっ⁉」
しかし、立ち上がる際にまた滑ってしまい、アルディは咄嗟に俺の水着を掴んでしまう。
「「「あ」」」
瞬間、その場の空気が凍り付く。
「ア、アルバ様のアルバ様が……結構……その……大き、いえなんでもありませんわ」
フラムは、顔を真っ赤にして両手で顔を隠すが指の隙間から、チラチラと俺の腰の方を見てくる。
「あー、その……わ、わざとじゃないよ? 大丈夫! 恥ずかしくない大きさだから!」
アルディはアルディで、気まずそうにしている。
だが、そのフォローはかえって恥ずかしいからやめようか。
「うん……とりあえず、あれだ」
もう、お嫁にいけない。
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