113話
無事(?)に魔石を手に入れた俺達は、王都へと戻ってくる。
先に、依頼完了の報告をするというタマズサさんと一緒にギルドへ向かった後、フラム達の元へと向かう。
「こんなところで、そのアルディちゃんとやらの体を作ってるの?」
目の前の家を見ながら、タマズサさんが怪訝そうに言う。
まあ、気持ちはわからないでもない。
「一応、僕の知り合いの方の紹介ですし、大丈夫だとは思うんですけどね」
アヤメさんの体を作ったのも、ゼペットだと言うし信用しても大丈夫だろう……多分。
俺は、半ば不安になりながらも扉を開く。
「お帰りなさいませ、アルバさ……ま」
扉を開くと、何故かミニスカメイド服を着ているフラムが出迎えてくれる。
金髪縦ロールにメイド服は、なかなかにミスマッチだ。
「ただいま、フラム。どうしたの、そんなポカンとして」
フラムは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながらこちらを見て立ち尽くしている。
「ア、アルバ様がまた女性の方を籠絡しましたわあぁぁぁぁ! しかも、この人も胸が大きいですし!」
おいおい、人をまるで巨乳の女性好きなナンパ野郎みたいに言うなよ。
俺は大きいのも小さいのも好きだっつーの。
フラムの様子に驚いているのか、タマズサさんも呆気に取られたような顔をしてボーっと突っ立っている。
「フラム、人聞きが悪いからそういう誤解を招くような言い方はやめてくれるとうれしいな」
「いーえ、誤解ではありませんわ! 此処に来る前の事をお忘れですか?」
……いや、確かに此処に来る前にもマリィさんとちょっとアレなことがあったけどさ。不幸な事故なんだよ。不可抗力だから仕方ないんだ、うん。
「と、とりあえず、僕の話を聞いてくれないかな。怒るのは、それからでも遅くないと思うんだ」
フラムの言葉に、冷や汗を垂らしながらもなんとか説得を試みる。
「……よろしいですわ」
フラムは憮然としながらも、とりあえず話は聞いてくれるようでコクリと頷く。
ふう、話の分かる子で助かったぜ。
「フラム、この人はタマズサさんって言って、トムテーアで会ったんだ。ヤツフサのお姉さんだってさ。タマズサさん。こっちはフラムと言って、僕の仲間でありヤツフサの仲間でありました」
「まあ、そうでしたの? タマズサさん、フラムと申します。ヤツフサさんとは仲間として良い関係を築かさせていただきましたわ」
俺の紹介により、若干表情が戻ったフラムが、ペコリと頭を下げる。
「…………」
しかし、フラムの挨拶が聞こえていないかのように、タマズサさんはフラムを真剣見つめたまま無言で立ち尽くしている。
「……? あの、タマズサさん?」
フラムも、反応が無いのを不思議に思ったのか、小首を傾げながらタマズサさんに尋ねる。
「ロ……」
「「ロ?」」
タマズサさんの謎の言葉に、俺とフラムはハモりながら尋ねる。
ロってなんだよ。
「ロリだああぁぁぁ! うっひょおおおおおお!」
「うひゃあああああああ⁉」
聞き覚えのある台詞と共にタマズサさんは、尻尾を千切れんばかりに振りながらフラムに抱き着く。
抱き着かれたフラムの方は、完全に予想外だったのか、タマズサさんに抱き着かれながらワタワタと暴れている。
天丼はギャグの基本だね!
「はぁもう、見た目お嬢様なのにメイド服着てるとか最高すぎるんだけど! お姉さん、興奮が収まんないわ」
「ひあああ⁉ ん、そ、そんなに匂いをかがないでくださ、あん」
タマズサさんが、スハスハとフラムの首筋などの匂いを嗅いでいると、フラムはくすぐったそうに身をよじりながら顔を赤くして色っぽい声を出す。
「うん……」
今の俺なら、ありとあらゆるものを許せそうである。
◆
「……はぁ、余は満足じゃ」
心なしか、肌が艶々になったタマズサさんは、満足そうにしながらフラムから離れる。
「まったく……いきなり抱き着かれるなんて思わなかったですわ……」
暴れたことで衣服が乱れ、どこか扇情的な姿になったフラムは、じっとりと汗をかきながら床に座り込んでいる。
……大変ご馳走様でした。
「災難だったね、フラム」
「アルバ様が早く助けてくだされば、こんなに疲れずに済んだんですのよ?」
それを言われるとつらいが、あの状態に突っ込めるほど、俺に勇気は無い。
「まあ、タマズサさんの親交の証だと思えば……」
「……そういう事にしておいた方が、お互いのためでしょうね」
フラムは、盛大な溜息をつき、無理矢理納得したようだった。
「いやー、ごめんごめん。明らかにお嬢様な女の子がメイド服って言うアンバランスながらも魅力的な姿だったから、お姉さん、自分を見失っちゃったよ」
正気に戻ったタマズサさんは、申し訳なさそうにしながら頭を掻いて謝る。
「もう過ぎたことですから、よろしいですわ。一応、悪気も無かったようですし」
流石はフラム。寛大な心をお持ちだ。
「とりあえず、それは解決したから置いといて……なんで、メイド服を着てるの?」
多分、それを着てなかったらタマズサさんもそこまで暴走しなかったと思うんだ。
「あ、これは、その……ゼペットさんが着ろと仰るので」
「ゼペットさんが?」
「ええ、人形の体つくりをしている間は、周りの事がおろそかになるから世話をしてほしいと。それで、汚れても良いようってこの服を渡されたのですわ。……少々、スカートの丈が短くて恥ずかしいんですけどね」
そう言うと、フラムはスカートの裾を掴みながら恥ずかしそうに、足をモジモジとさせる。
あのジジイ、絶対フラムの恥ずかしがる姿が見たくて、それっぽい事をいってるだけだろ。
だが、俺は許そう。
……なぜなら、俺もフラムの恥ずかしがる姿が見れて満足だからだ!
「それで、その肝心のゼペットさんとアルディは?」
周りを改めて見渡しても2人の姿は見えない。
「此処の地下で制作なさっていますわ。体の調整や細かい作業が多くなるから、集中するために、立ち入り禁止だそうですの。完成するまで、アルディさんもこっちに来れないそうですわ」
試しにテレパシーを送ってみるが、学園の時の様に何の応答も無い。
多分、そういう結界だか何だかを貼っているのだろう。
アルディと離れるのは少し寂しいが、それで新ボディが手に入るなら我慢することにしよう。
「いつごろ出来るって言ってた?」
「えーと……明後日の朝には出来ると言ってましたわね」
明後日か……人間サイズの体を作る割には、かなり早いな。
おそらく、疲労の無い人形の体だからこそ、そこまで急ピッチで出来るんだろうな。
変態ジジイではあるが、人形師としてのプライドは持ち合わせていたらしい。
少しだけだが見直した。
「ふーん、って事は明後日までアルディちゃんとやらを見れないのかぁ」
タマズサさんは、少し残念そうにしながらつぶやく。
アルディも好みの見た目だったら、絶対抱き着く気だなこの人。まあ、アルディの性格なら喜んで抱き返しそうではあるな。
美少女2人と美人1人のくんずほぐれつ……良いね!
「とりあえず、今日は依頼を受けるには遅いし一旦、宿に戻ろうかな。アルバ達はどうする?」
そういえば、宿をまだ取ってなかったな。
「フラム、ゼペットさん達はずっと籠るって言ってた?」
「ええ、少なくとも明後日の朝までは絶対に出ないし、入るなと仰ってましたわ」
ふむ、となると俺達も明後日までは暇になるわけか。
タマズサさんから色々話も聞きたいし、一緒に行かせてもらおうかな。
「タマ姉、父様達の話とか聞きたいので、ご一緒させてもらっていいですか?」
「父様?」
ああ、そう言えば、俺がヤツフサと親友だって話はしたけど、父さんの息子だってことはまだ話してなかったな。
「ええと、実は僕……父様と母様、メルクリオとメリエラの息子なんです」
「……えええええええ⁉ あの2人の息子? はぁー、言われてみれば面影あるわ」
俺の言葉に衝撃を受けたタマズサさんは、驚きつつも俺の顔をじろじろ見ながら納得する。
「ち、近いですわよ! タマズサさん!」
タマズサさんの顔が俺に近かったのが嫌だったのか、ズイッとフラムが割って入る。
「……フラムちゃん」
「な、なんでしょう」
割って入ってきたフラムに向かって、タマズサさんは真剣な表情で話しかけると、フラムはタマズサさんの威圧に若干押されながらも返事をする。
「さん付けなんて他人行儀はやめなさい。私の事は、タマ姉と呼ぶように」
あ、やっぱフラムにもそれ言うんだ。
フラムは、タマズサさんの提案に困惑しながらこちらを見てくるが、俺は諦めろと言わんばかりに首を横に振る。
この人が、そう提案したらそれは、もう決定事項なのである。
出会ってから、まだ1日も経ってないが、それは嫌という程わかっている。
フラムも、俺の様子からそれを察したのか諦めた表情を浮かべながらタマズサさんの方を向く。
「……分かりましたわ。えーと、タ、タマ姉さん」
「うん、それでよし」
タマズサさんは、満足そうな笑みを浮かべながらサムズアップをする。
「それで、どうでしょうか?」
「ああ、メルクリオ達の話ね? 良いよ、教えてあげるから私の宿にいらっしゃいな。確か、空き室もまだ結構あったから泊まれると思うよ」
俺の言葉にタマズサさんは、笑顔で快諾してくれる。
と、そこで俺は気づかなければ良かったことに気づいてしまう。
「そういえば、タマズサさんは父様達と同級生だったんですよね?」
「んあ? まぁ、そうだねー。といっても、私が1つ下だったけど」
えーと、母さんが俺を産んだのが20歳のころだろ?
んで、俺が今15歳だから母さんと父さんは35歳。その1つ下だから……
「タマズサさんって、実は結構年が……」
「チガウヨ⁉」
今思えば、女性に対してかなりの失言だったのだが、タマズサさんは聞かれたという事実よりも年齢の方に気が行っていたらしく、珍しく裏声になるほど焦りながら否定する。
「ほ、ほらあれだ。ワーウルフは人間の2倍の寿命があるから、人間換算でまだ17歳だし! わ、わけーし! 行き遅れとかじゃねーし!」
先程までの余裕はどこに行ったのか、目の前のお姉さん(仮)は、大量に汗を流しながら必死に弁解するのだった。
「アルバ様! 女性に年を聞くのは失礼ですわよ? しかも、女盛りの方には特に……」
「まだ女盛りじゃねーよおおおおお! 妙齢だし!」
……うん、なんかその……ごめんなさい。
年を気にするのは、種族……いや、世界共通なんだなって実感した俺だった。
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