番外編 王国騎士団に栄光を!
「今日から、王国騎士団に入団するヤツフサ・サトミです。よ、よろしくお願い致します!」
学園を卒業した俺は、今日から念願の王国騎士団の一員になる。
本当は、俺もアルバ達みたいに冒険者になりたかったんだけど、冒険者は、収入の起伏が激しいから諦めたんだ。
学園に通うためのお金を出してくれた皆に恩返しをするためには、安定した収入がもらえる王国騎士団に入るのが一番確実なんだよね。
それに、誰かを守るって言うのが、一番俺に性に合っているしね。
「……では、ヤツフサの所属を発表する」
俺の目の前に立つ、金髪を短く刈り上げた褐色に肌に筋肉質の男の人が口を開く。
この人は、王国の複数ある騎士団を纏める総騎士団長のシュタルク様だ。
総騎士団長というだけあって、威厳というか威圧感が凄い。
学園に入る前の俺なら、その威圧感に泣いてしまってたかもしれない。
ここまで、精神的に強くなれたのは、アルバや他の皆のお蔭だ。
「君の所属は……」
シュタルク様の言葉に、俺はゴクリと唾を呑む。
騎士団は、それぞれの特性に合わせて振り分けられるんだ。
俺の前に並んでいた人達も色んな騎士団に振り分けられた。
どこに行っても良いけど、嫌な人が居ないと良いんだけどなぁ。
名目上は、獣人でも騎士団に入れるけど、昔はそうじゃなかったんだ。
神聖な騎士団に獣を入れるなんて! って、昔の人は思ってたみたいで入団を禁止されていたんだけど、20年くらい前から、獣人も入れるようになったんだ。
ただ、やっぱり獣人は、まだ騎士団の中に数は少なくて、俺を入れても全体の1割くらいしか居ないみたい。
昔の考え方の人は、獣人を毛嫌いしてるから虐められないか不安だなぁ……。
「あー……オルトロス隊に入隊だ」
オルトロス隊? 聞いたことの無い名前だな。
大抵、第〇騎士団とか魔法が得意なら魔導騎士団(こっちは、確かアルバのお父さんが所属してたかな)のはずだけど、そんな隊の名前は聞いたことが無いや。
他の新人の人達も、やっぱり聞いたことが無いのかザワザワとしている。
「……実はな。今年、設立されたばかりの新規部隊なんだ。君には、そこで活躍してもらいたい」
シュタルク様は、何故か申し訳なさそうにしながらそう言ってくる。
俺が、新規部隊に入隊だなんて……期待されてるってことなのかな?
新規部隊と一緒に成長か。うん、頑張らなきゃ!
「分かりました! 不肖ヤツフサ。精一杯頑張らせていただきます!」
俺は、ビシッと敬礼し、精一杯元気な声で答える。
「そ、そうか……。うん、頑張ってくれ。すまんな、私の力が足りないばかりに苦労を掛ける」
なんで、シュタルク様が謝るんだろう?
あ、そうか。新人なのにいきなり新規部隊だから、普通よりも大変だから心配してくれているのかな?
なんて優しい人なんだろうか。俺みたいな、一騎士団員に過ぎない獣人を気にかけてくれるなんて。
「もし、何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。全力で君の力になろう」
「はい、ありがとうございます!」
「……では、そこのメイドが案内するからついていってくれ」
シュタルク様が示した方向には、小柄なメイドさんが立っており、ペコリと頭を下げる。
「あ、よろしくお願いします」
「ふふ、畏まらなくていいんですよ? 立場的には、騎士団の人達の方が身分が上なんですから」
つられてペコリと頭を下げると、メイドさんは可笑しそうにクスクス笑う。
「す、すみません。慣れてなくて……」
「初々しいですねぇ。さ、ご案内しますのでこちらにどうぞ」
メイドさんは、笑いながら前の方を向くと歩き出すので、俺はそのままついて行く。
……そう言えば、纏めて案内しなくていいのかな?
普通は、何名か一緒に集まって案内すると思うんだけど……まあ、多分何か考えがあるんだろうな。
「……それにしても、大変ですね。オルトロス隊なんて」
お城の中をキョロキョロと見回していると、メイドさんが話しかけてくる。
「でも、シュタルク様……総騎士団長様にも期待されてますし、頑張りますよ」
新人だけど、やる気は充分な俺はグッと力を込めて気合十分だという事をアピールする。
「そういう事ではないんですが……まあ、どのみち後で分かる事ですけどね」
シュタルク様もそうだったけど、一体何なのだろうか。
まあ、後で分かるみたいだから良いけど……。
そうこうしている内に、どんどんと進んでいき人気が無くなっていく。
「あの……こっちで合ってるんですか?」
以前、授業の一環で騎士団の見学に来た時は、此処まで隅っこの方じゃなかった気がするんだけど……。
「オルトロス隊だけ、特殊なので詰所が別なんですよ。そろそろ着きますから」
メイドさんは、そう言うとそのままスタスタと進んでいく。
やがて、本当に城の隅っこまで来ると、建てつけの悪そうな木製の扉の前に立つ。
まさか、此処じゃないよね?
「ラビ様。ヤツフサ様をお連れしました」
「はいよー。入って入ってー」
メイドさんが、ノックをして中に声を掛けると女性の声で返事が聞こえてくる。
メイドさんが扉を開けようとすると、やっぱり建てつけが悪いのか、なかなか開かなかった。
「……フンッ!」
とても女性とは思えない力強い掛け声と一緒にメイドさんが力を入れると、扉がバキっと音を立てて外れる。
「……おほほ、すみません。この扉ボロくって。では、私はこれで失礼しますね」
メイドさんは、口元を隠しながら誤魔化すように笑うと、そのまま、そそくさとその場から去って行った。
扉は、そのまんまでいいのかな。
「あー、それは放置で良いからさ。さっさと入っておいでー」
俺が扉を気にしていると、そんな声が聞こえてきたので、俺は素直に中に入る事にする。
部屋は狭く、せいぜい5、6人くらい入れるくらいしかなかった。
中央に、これまたボロっちい木製のテーブルと6個の椅子。その内の1つに兎の耳を生やした茶髪のロングヘアーでソバカスが印象的な20歳くらいの丸眼鏡を掛けた女性が座っていた。
「ようこそ、ヤツフサ君。私が、副隊長のラビ・ボーパル。年齢は、秘密。結婚相手は絶賛募集中だ。よろしく頼むぞ」
ラビさんと名乗る女性は、眼鏡をクイッと軽く上げて挨拶をしてくる。
「ヤツフサって言います。副隊長さんって事は、隊長さんは、今留守なんですか? それに、他の人は……」
「隊長なら私の目の前にいるぞ」
ラビさんは、そう言うとこちらに向かって指を差す。
後ろに居るかもと思って振り向くけど誰も居ない。
「だから、隊長は君だって」
「……誰ですって?」
「そこの黒髪で、でっかい体のちょっとイケメンな私好みの君だよ」
ラビさんは、こちらに近づくと改めてこっちを指差しながら説明してくる。
「俺が……隊長? え、でも、俺新人ですよ?」
「そこが私も分かんないんだけどねー。とにかく、この新規部隊の隊長は君。そして副隊長は私だ。総騎士団長からは、君をサポートするように言われてるから安心して良いよ」
……シュタルク様が言っていたのは、この事だったのか。
力が足りずって言うのも意味が分かった気がする。
多分だけど、獣人を認めない人たちの権力が強くて、臭い物に蓋をしようって事で、俺をこっちに入れたんだろう。
隊長にしたのは、責任を重くしてプレッシャー与えて、早く辞めさせようって事だろうか?
「ま、私と君だけの部隊だけどさ。必要な人材が居れば総騎士団長が融通してくれるっていうから、そう悩む事も無いけどね」
「……すみません。もう一度言っておらえますか?」
「なーにー? ワーウルフの癖に耳が悪いわねー。この部隊は、私と君の2人だけ。しかも、この部屋は城のかなり端っこだから、基本誰も来ない完全な2人っきりだからペロペロしようがアハーンしようが何しようがオッケーってこと。アンダスタン?」
後半は何を言っているか、いまいち分からなかったけど、どうやら思ったよりも酷い状況だったようだ。
以前の俺なら、此処で投げ出していたかもしれない。
だけど、俺は立派な騎士になるって誓ったんだ。これくらいの試練でくじけるわけにはいかない。
「ラビさん」
「何? 結婚する?」
「いや、しませんよ。何言ってるんですか」
出会っていきなり求婚するとか何考えてるんだろうか、この人は。
そう言うのは、その……手順を踏まないと。
「ちっ。で、何よ」
「俺……上手くできるか分かりませんけど、隊長として頑張りたいと思います。ラビさん、こんな俺ですがよろしくお願いします」
経緯はどうあれ、隊長を任されたのは事実だ。
俺にどこまでできるか分からないけど、一生懸命頑張りたいと思う。
「それはつまり、プロポーズだな? よし、挙式はいつにする? 子供は3人くらい欲しいな」
「だから、しませんって!」
前略、お父さん、お母さん。
俺、ヤツフサはいきなり隊長に抜擢されましたが、部下になる女性の方が大変個性的です。
……色々、受難はありそうだけど、此処から立派な隊として頑張っていこうと俺は誓うのだった。
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