106話

 さてと……フロッガーが本気になったみたいだが、どうするか。

 先程までの戦い方を見る限り、結構強くはなっているようだ。しかし、まだ変身したばかりで、力に振り回されている印象を受ける。

 恐らく、そこを上手く突けば勝てるだろう。


「カァ‼」


「フラム、危ない!」


 フロッガーが、自身の舌を伸ばしてフラムを捕えようとするが、アルディが庇って捕まってしまう。


「ふぬぬー、ヌルヌルして抜けないぃぃぃ!」


 アルディは、奴の舌から抜け出そうとするが上手く行かないようで、そのまま奴の方へと引き寄せられてしまう。


「させるかよ!」


 だが、俺がそれをみすみす見逃すはずもなく、砂で生成した片刃剣で奴の舌を斬りおとす。


「ぐぅっ……おのれっ」


 舌を斬りおとされた事で、流石に痛そうに顔をしかめながら舌を口の中に戻す。


「うう……ありがとう、アルバ……」


 唾液でべとべとになったアルディがお礼を言ってくる。

 ……どことなくエロイな。


「すみません、アルディさん。私のせいで……」


「ううん、フラムが無事ならそれでいいよ」


「友情ごっこもいいが、奴をどうにかした方が良いと思うぞ」


 グラさんが、俺達の隣に立ち注意してくる。

 フロッガーの方を見れば、舌を再生させている最中だった。


「流石に、あの状態になっても生け捕りにしようとは考えておらんよな?」


 グラさんの言葉に、俺は悩む。

 人間の状態だった時は、確かに生け捕りにしようとしていた。

 だが、今のフロッガーは、お世辞にも人間とは言えない。

 奴が言っていた事でもあるが、既に人間では無く魔物化……人間の魔物化だから魔人化とでも名付けようか。

 魔人化しているから、生け捕りというのは、考えない方が良いだろう。

 奴は、既に人間の法で裁けない。


「……奴は、ここで倒します」


 俺は深呼吸をし、自分の考えを口に出す。


「だが、どうやって倒す? 大抵の攻撃は、あの通りすぐに回復してしまうぞ?」


 グラさんの言う通りだ。

 奴は、受けたダメージの殆どを回復している。

 ……ん? そういえば、奴は何で……。


「フラム、ちょっと奴にもっかい攻撃してみて。アルディとグラさんは、さっきみたいにフラムの援護をお願い」


「分かりましたわ」


「「了解」」


 俺の言葉に、三人は頷く。


「お喰らいなさい。炸裂弾バースト・ブレット‼」


 フラムは、両手に銃を構えると時間差で魔砲を発射する。

 銃弾に炎を纏っているのを見ると、フロッガーは再び水の壁で防ぐ。

 そして、先程の様にその隙を突いてアルディとグラさんが石の矢や鉄の矢など、様々な矢を発射する。


「えーい、小癪な! さっきと同じ結果になると分からんのか!」


 フロッガーは、俺達が同じような戦い方をするのに対し憤慨しながら、飛んできた矢を叩き落としていく。

 ……やっぱりだ。

 奴は、フラムの攻撃だけ直接触れようとしない。

 思えば、ロンとグルの攻撃でもそうだった。

 風の手裏剣は直接対応していたのに、雷の槍には触れようとしていなかった。

 多分だが、奴は本能で炎と雷に弱いと分かっているのではないだろうか。

 奴の見た目がカエルなのと水の魔法を使う事から判断すると、それらが弱点と言うのも納得がいく。


「フラム、そのまま攻撃を続けてフロッガーの気を引いてて頂戴。アルディとグラさんは、フラムの援護を継続」


「アルバ様は?」


「俺は……ちょっと、あっちの方をね」


 俺は、マリィの方を見ながら答える。

 マリィは、ロンとグルを部屋の隅に連れて行き介抱しているところだった。


「マグロ団にも協力してもらわないといけないから、ちょっと行ってくるよ」


「……分かりましたわ」


「気を付けてね」


 フロッガーの相手をアルディ達に任せ、俺は見送られながらマリィの方へと向かう。

 

「何をする気だ、小僧!」


「貴方の相手は、こちらですわ」


 フロッガーが、俺の動きに気づくと、こちらへ走り寄って来ようとするが、横からフラムの銃弾が飛んで来ると、それを回避するためにバックステップで避ける。


「ち……邪魔くさい奴らだ。そんなにお望みなら、貴様らから血祭りにあげてくれるわ」


 フロッガーは、細かい判断が出来なくなっているのか、あっさりとフラムの方へと目標を変えると、そちらに向かう。

 魔人化すると、思考能力も落ちるのだろうか?

 まあ、細かい事を考えるのは後回しだな。

 

「大丈夫ですか、ロンさん、グルさん」


 マリィ達の元へとたどり着くと、俺は先程、腹を貫かれた二人に声を掛ける。


「ああ……、お嬢が傷を塞いでくれたので何とかな」


 怪我を見れば、マリィがやったのか、ロンとグルの腹部が砂で傷を防がれていた。

 

「動けそうですか?」


「なんとかな……」


「痛いけど、何とか動けそうなんだな」


 ふむ、それなら助力を頼めそうだな。

 

「なら、怪我してるところ申し訳ないんですが、頼みたいことがあるんです」


「頼みたい事? 何やらせる気なのよ」


 俺の言葉に、マリィが尋ねてくるので、3人に説明する。

 

「……なるほど。ロンとグルは大丈夫? いけそうかしら?」


「はい、行けます」


「が、頑張るんだな」


 マリィが尋ねると、2人は腹を押さえながら答える。

 

「では、グルさんとマリィさんは、あそこの小さいのとナイスシルバーの御爺さんと一緒に援護をお願いします」


「わ、分かったんだな」


「了解よ」


「ロンさんは、合図を出したら魔法をお願いします」


「わかった……」


 よし、後はフラムに、あれを頼まないとな。

 フロッガーの攻撃をかいくぐりつつ、フラムに耳打ちをする。


「どう? 出来るかな」


「その……アルバ様が手を繋いでくださるなら……」


「へ?」


 この子は、いきなり何を言ってるのだろうか。


「あ、ち、違いますの! アルバ様の魔力を感じ取れるように、素肌に触れていた方が良いと言うだけですの!」


 フラムは、ボンッと顔を赤くすると慌てて訂正する。

 ああ、なんだそういうことか。

 こんなところで、いちゃつきたいのかと思って驚いたぞ。


「貴様らぁ! こんな時に、いちゃついてんじゃねぇ! くそう、俺なんか……俺なんかなぁ!」


 俺達のやり取りを見て、フロッガーが何処となく涙目になりながら叫ぶ。


「……」


「ア、アルバ様⁉」


 フロッガーの様子を見て、俺は唐突にフラムの肩を抱き寄せると、フラムは茹蛸の様に顔を赤くする。


「お前……一体、何やっとるんじゃ」


「おー、お熱いねぇ」


 グラさんが呆れたような視線をこちらに向け、アルディは面白そうに囃し立ててくる。 

 

「ぐ、ぐああああああああああ! 見せつけやがってええええええ!」


 フロッガーは、怨念がこもった叫びを上げながら、こちらに向かってくる。


「くくく、どうだ? 羨ましいだろー」


「ちくしょうがああああ!」


 フラムの肩を抱いたまま、フロッガーの方をニヤニヤしながら眺めると、フロッガーは、激怒しながら攻撃してくる。

 しかし、怒りに任せた攻撃ほど避けやすいので、俺は器用に攻撃を避ける。

 どうやら、俺の挑発は上手く行ったようだ。

 別に、フラムといちゃつきたくて抱き寄せたわけではない。

 フロッガーの反応から、こうすれば怒るだろうと思い、こうしたのだ。

 ……役得とか思ってないからな。本当だぞ。

 魔法を使われたら分からなかったが、そこまで気が回らなかったようである。


「マリィさん!」


 俺が合図を出すと、マリィさんが頷く。


砂漠牢サンド・ジェイル!」


 マリィが魔法を放つと、フロッガーの四肢に砂の鎖が巻き付き、動きを抑える。


「ふん、こんなもので私を抑えられるとでも……」


「思ってない……よ!」


 マリィの捕縛を抜け出そうとする、フロッガーを見ながら、足を少し上げ、ドンッと地面を踏みつけて魔力を流す。


「っ⁉ あおオオおおオお⁉」


 魔法が発動し、直径20㎝程の石柱が地面から飛び出す。

 ……フロッガーの尻をめがけて。

 ずっぽりとフロッガーの尻に石柱が見事に突き刺さり、フロッガーは叫びながら悶絶する。


「フラム、今だよ!」


 とろけた表情を浮かべていたフラムに話しかけると、フラムは我に返る。


「はっ! 私としたことが幸せのあまり……」


「今、そう言うのは良いから早く!」


「わ、分かりましたわ。アルバ様……お、お手を」


 フラムが、おずおずと手を差し伸べてくるので俺は、彼女の手をぎゅっと握る。

 俺の手を握ったまま、フラムは地面に手を置いて魔力を流し込む。


小爆発ミニ・プロージョン


 すると、フロッガーの尻に突き刺さっている石柱の先端がいきなり爆発する。

 先程、フラムに聞いていたのは、俺の魔法に重ね掛けできるかどうかだった。

 ぶっつけ本番だったが、どうやら上手く行ったようだった。


「ぐううううう、し、尻があああああ……」


 マリィの捕縛から解放されたフロッガーは、爆発した尻を痛そうに押さえてうずくまっている。やはり、炎属性が弱点だったのか、今までで一番苦しそうである。

 これぞ、合体魔法『ケツ爆竹』!

 カエルと言えば、やっぱりこれだろう。

 良い子は真似しちゃダメだぞ! 意味が分からない良い子も調べたり親に聞いてもダメだからな。アルバお兄さんとの約束だ。


「ロンさん、今です!」


「……」


 俺が合図したにも関わらず、ロンさんは何故かボーっとしていた。


「ロンさん?」


「……はっ。す、すまない」


 ロンさんを呼ぶと、ようやく気づいたのか急いで魔法を発動する。


「少し同情するが、くたばるがいい……化物。万雷の矢アローズ・トール!」


 ロンさんが、魔法を放つと数千にお及ぶ雷の矢がフロッガーを貫く。

 狭い室内なので、かなりの轟音が響き、流れ弾も飛んでくる。

 当然、俺達も危険なので、あらかじめアルディとグラさんに防御壁を作ってもらい、全員退避していた。


「こ、この俺が……下等な人間……しかも、リア充なんかにいいいいいいいい!」


 フロッガーは、そう叫びながら消し炭となって消えていく。

 初の魔人戦は、俺達の勝利で終わったのだった。

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