102話
「それでは、時間までまだありますので、ご自由にお過ごしください」
食事を終えて部屋に通された後、案内してくれたメイドさんがそう告げると、ペコリと頭を下げて扉を閉める。
「……つ、疲れた」
俺は椅子に座ると、そのまま背もたれに寄りかかる。
フロッガーさんは、かなり話し好きらしく食事中もマシンガントークで話が途切れることが無かった。
しかも、貴族らしく自己顕示欲も強いのか8割方が自分の自慢や武勇伝だった。
せっかくの美味い飯も、フロッガーさんのどうでもいい話で帳消しである。
「でもまあ、話好きな所はあるけど……思ったより悪い人じゃなさそうだよね」
フラムが、良い噂を聞かないなんて言うから典型的な悪徳貴族を想像してたのだが、結構人当たりの良い人である。
見た目がガマガエルっぽくて悪人面なのがあれだが……。
「うーん……私は、あまり信じられませんわね……。単純に、前例があるからというのもありますが」
俺の言葉に対し、フラムは不安そうな表情を浮かべながら答える。
フラムの言う事も分からなくもない。
アルマンドやエスペーロのように、表面上は良い人を演じていても実際悪人だったしな。
俺としては、誰でも彼でも疑いたくはないが、無警戒という訳にもいかないだろう。
「ま、とりあえず用心だけしとこうか。アルディも、何か気づいたら教えてね」
「うい、りょーかーい」
アルディは、ビシッと敬礼して答える。
「それで、時間までどうしますの?」
そうだなぁ……他の冒険者たちの話でも聞きに行こうかな。
ちなみに、この部屋には俺とアルディ、フラムの3人だけで、それぞれのパーティは各自の部屋を割り当てられている。
「……そうだな、ちょっと情報収集に行こうか」
「情報収集ですの?」
「うん、マグロ団の手口も知りたいしね。被害に会った人達の話を聞きに行こうと思ってさ」
実際、奴らがどういう方法で侵入し、金を奪っていくのかを知っているのと知らないのとでは全然違ってくる。
「でもさー、どこで情報集めるのー?」
「おそらく、ギルドの職員なら知っているはずですわ。そういった犯罪に関する情報は、共有するようになっていますから」
アルディの問いにフラムが答える。
なら、ギルドへ向かう事にするか。
行き先を決めると、たまたま通りかかったメイドさんに出かける旨を伝えると、俺達はギルドへと向かう。
◆
「マグロ団の被害者の方のリストですか?」
「ええ、もしそう言ったのがあれば、見せてもらえないでしょうか?」
「失礼ですが……どういった理由で使われるんです?」
眼鏡を掛けた真面目そうな女性職員は、眼鏡をクイッと上げて訝しげにこちらを見てくる。
「別に悪用しようってわけではないですよ。ただ、依頼を受けているので情報収集しようと思っただけです。……僕を信じてください。お姉さん」
「はぅ……っ。こ、コホン。分かりました、貴方の言う事を信じましょう」
俺の純真な瞳での上目遣いにお姉さんは、頬を上気させる。
ふははは、こういう時こそ俺の見た目を活用しなきゃな。
美形ってのは、それだけで得なのだ。両親には本当に感謝である。
アルディとフラムが、何やら呆れた表情でこちらを見ていたがあえてスルーする。
「ですが、見ても意味が無いと思いますよ?」
お姉さんの態度から、リストを見せてもらえると思ったのだが、帰ってきた答えは予想しない物だった。
「理由を聞かせてもらってもよろしいですか?」
フラムも不思議に思ったのか、お姉さんに尋ねる。
「被害にあった方は、全員投獄されて王都とは別の場所に居るからです。主人が投獄されたため、使用人なども散り散りになっているので、話を聞くことは出来ないかと思われます」
「なん……だと」
まさかの全員投獄は流石に予想外だった。
被害者であるはずの彼らが何故投獄されなければいけなかったのだろうか?
「一応、リストはあるので見てみますか?」
お姉さんの申し出に俺達は頷く。
すると、お姉さんは一旦奥に引っ込んだかと思うと、少ししてから1枚の紙を持って戻ってくる。
「こちらになります。一応、被害にあった方の詳細も書いています」
お姉さんから紙を受け取ると、俺達はそこに書かれている詳細を読む。
1人目 奴隷商人 非合法な奴隷商法を行っていたことが、マグロ団が盗みに入った事で明るみに出てピュルガトワール監獄へ投獄。
2人目 中級貴族 人喰い殺人鬼。10数名に及ぶ人間を食事と称して殺害していたことが、上記同様マグロ団介入により明らかになる。
死刑執行までの間、ピュルガトワール監獄へ投獄。
3人目……と、王都での被害者は全部で5人居り、そのどれもが何かしらの理由で投獄、または奴隷となっている。
「偶然にしては出来すぎでしょう?」
俺達が読み終わるのを見計らうと、お姉さんが口を開く。
確かに、他の国ではどうか分からないが、この国の被害者全員が犯罪者だと言うのは、偶然とは思えない。
「正直、今依頼が出ているフロッガー様もあまり良い噂を聞かないから、依頼を受理したくなかったんだけど……確証もないから断るわけにも行かないのよねぇ」
お姉さんは、困ったと言う感じで頬に手を当てため息をつく。
その後、お姉さんにお礼を言うと俺達は外に出る。
「どう思う? 2人とも」
しばらく歩くと、俺は2人に向かって話しかける。
「偶然……では無いでしょうね。マグロ団は、明らかにそういう方々を狙っていますわ。そして、盗みに入った事で悪事が明るみに出ている……」
「マグロ団が、悪事を暴いてるってこと?」
結果だけ見れば、アルディの言う通りだと思う。
ただ……。
「どうして、そんな事をしているか分からない……ですか?」
俺の心情を察したのか、フラムが尋ねてくるので俺は首を縦に振って肯定する。
「わざわざ、泥棒って言う汚名を負ってまで、そんな事をするのが分からないんだよねぇ」
しかも、ちゃんと金目の物まで盗んでるし……マグロ団の行動理念がまるで分からない。
「そして……過去の被害者を見る限り、多分フロッガーさんも何かしらやっていると思う」
フラムもギルドのお姉さんも、フロッガーさんから良い噂を聞かないと言っているから多分黒なのだろう。
「どうする? 多分、このまま依頼を受けてても変な事に巻き込まれるかもしれないし……やめる?」
こちらからの一方的な破棄は、契約違反になり違約金を取られるが、それで無事に済むなら安い物である。
「……私は、アルバ様に従いますわ」
「私もー。アルバが、やりたいようにやりなよ! 私達は、アルバの味方だよ!」
2人の言葉に、俺はこれからどうするかしばらく悩む。
「…………このまま、依頼は続けようと思う」
「理由を聞いてもよろしいですか?」
「単純にマグロ団に会ってみたいんだ。悪事を暴いてるって事は、悪人じゃないはずだ。だから、マグロ団には泥棒から足を洗ってもらって、僕達の仲間になってもらいたい」
土魔法仲間として放って置くことも出来ないしな。
「それに……もし、フロッガーさんが、何かしらの悪事を働いているならそれも止めたいんだ」
正義の味方を名乗るつもりはない。
つもりはないが、目の前の悪事を放って置いたことで、誰かが不幸になるのは耐えられない。
「ふふ、アルバ様らしいですわね」
俺の真意を察したのか、フラムはクスクスと笑う。
「まったく、アルバはお人好しなんだから」
アルディも、肩を竦めヤレヤレと言った感じで喋る。
「でも……そんなアルバが」
「好きですわ」
アルディとフラムは、そう言うと柔らかい笑みを浮かべて俺に抱き着いてくる。
その時、周りの通行人(主に男)達から一斉に舌打ちを受けた気がしたが気のせいだと信じたかった。
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